[ワシントン 4日 ロイター] - ロシアがウクライナにある欧州最大級のザポロジエ原発を砲撃・制圧したことで、各国の政策担当者や企業は、気候変動対策として原子炉を建設する計画に対してより慎重な態度になるはずだ――。原子力の安全性に関する複数の専門家は4日、こうした見方を示した。
ロシア軍は4日にザポロジエ原発を手中に収めたが、それまでに激戦が展開され、原発の研修施設で大火災が発生。火災は消し止められ、原子炉は問題ないと職員が宣言したものの、原発は戦時の攻撃にもろく、深刻な放射能漏れが起きる危険性があると世界中に警鐘を鳴らす形になった。
米国の非営利団体、「憂慮すべき科学者同盟(UCS)」の原子力安全問題担当ディレクター、エドウィン・ライマン氏は「原発プラントにおいて、自然災害だけでなく人為的な災害からも守る措置を講じる必要性について、もっと深刻に受け止めなければならない」と訴えた。
グリーンフィールド米国連大使は4日の国連緊急特別総会で、ザポロジエ原発への攻撃を「信じられないほど向こう見ずで危険だ」と非難し、ウクライナだけでなくロシアや欧州全土の人々の安全を脅かしていると主張。在ウクライナ米大使館は、ロシアの原発攻撃を「戦争犯罪」と糾弾している。
別の非営利団体、核不拡散政策教育センター(NPEC)のヘンリー・ソコルスキー所長は、ザポロジエ原発攻撃は原子力産業全体に逆風となったと指摘。「ウクライナの原子炉は、直接打撃を受けなかった。(しかし)原子炉が軍事攻撃を受けた場合の脆弱(ぜいじゃく)性を各国が考慮に入れた場合、今後原子力発電そのものが、もっと大きな痛手を被るだろう」と述べた。
<業界は強気>
発電に伴う温室効果ガス排出量が実質的にゼロとなる原発は近年、温暖化に取り組む各国政府にとって推進の動きが加速している。世界原子力協会(WNA)によると、現在建設中の原子炉は58基、計画段階は325基に上る。計画の多くは東欧地域だ。
米政府は昨年11月、ニュースケール・パワーが同社製小型モジュール原子炉(SMR)のプラントを建設することでルーマニアと契約を交わしたと発表。この合意によって「SMR開発の世界的競争で米国の技術が先頭に立つ」ことになると付け加えた。
ニュースケールは先月、ポーランド企業との間でも2029年までにSMRプラントを建設する契約に調印した。発電時に大量の温室効果ガスを排出する石炭への依存脱却を狙うポーランドの取り組みの一環だ。
ニュースケールの広報担当者は、ザポロジエ原発が攻撃された事態について「原子力エネルギープラントの頑健さや十二分な安全性が改めて浮き彫りになった」と述べ、同社の技術はさらに安全性が高いと強調した。
今年1月にはウェスチングハウス・エレクトリックが、ポーランド企業10社による6基の加圧水型原子炉「AP1000」建設に向けて協力する協定に調印した。
また、同社がポーランドのエンジニアリング大手・ラファコとの間で、ウクライナやスロベニア、チェコで原発プラント建設を模索していくとする覚書も締結している。
ウェスチングハウスの広報担当者は「原子力エネルギーはウクライナや世界中で、安全かつ炭素ゼロの電源となっている」と話した。
原発を支援しているワシントンのシンクタンク、サードウェイは、気候変動問題の深刻化により、世界はたとえリスクがあろうとも、この先数十年のうちに原子力エネルギーを急速に拡大していかなければならないと訴える。
気候変動とエネルギーを担当するシニアバイスプレジデントのジョシュ・フリード氏は「リスクを伴わないエネルギーなどない。(ロシア大統領の)プーチン氏がダムの破壊や原発攻撃で無数の人々を殺害しようと思えば、できたはずだ。だが、原発プラントは信じられないほど安全だというのが現実だ」と言い切った。
米国の業界団体、原子力エネルギー協会(NEI)はロイターに、原子炉は安全だと信じており、ロシアのウクライナ侵攻は欧州が原子力発電能力を拡大する必要性を高める方向にしか作用しないとの見解を表明した。ロシアは現在、欧州の発電所向けの主要な天然ガス供給者だ。
NEIの政策動向・公共問題担当シニアバイスプレジデント、ジョン・コテック氏は「過去数週間の悲劇によって、米国と協力して次世代型原子力エネルギー開発に取り組むことへの関心は、高まる一方になる」と自信をのぞかせた。
ただ、UCSのライマン氏は、新型原子炉が非常に安全で、最低限の防衛措置を講じれば実質的に世界のどこにでも導入できるという業界の説明は「いかにも口先だけの当てにならない話」だと切り捨てた。
(Timothy Gardner記者)
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