September 3, 2012 / 7:12 AM / 8 years ago

焦点:急成長遂げたサムスン電子、トップダウン経営の功罪

[ソウル 3日 ロイター] 韓国サムスン電子(005930.KS)の李健熙(イ・ゴンヒ)会長は1997年に出版した自著で、成功する企業は「高い危機意識」が必要だと説いた。業績が好調な時でも常に先を考え、変化に対応することができるからだという。

9月3日、これまでサムスン電子の成長の原動力となっていたのはトップダウン型の迅速な意志決定だったが、「模倣者」から「革新者」へのシフトを必要とする今の同社にとって、そうした方針は最適とは言えなくなっているのかもしれない。写真はクアラルンプールで8月撮影(2012年 ロイター/Bazuki Muhammad)

それはサムスン電子が売上高世界一のテクノロジー企業に成長するための社是となった。同社はテレビ、スマートフォン(スマホ)、メモリーチップの分野で世界トップに登りつめ、成功のヒントをつかもうとする中国企業が事例研究のために「サムスン参り」をするようにもなっている。

しかし、米アップル(AAPL.O)と争ったスマホ特許をめぐる訴訟で、米連邦地裁の陪審団は先月24日、サムスンの特許侵害を認定し、10億5000万ドル(約820億円)の賠償を支払うべきと判断。これを受けて、サムスンのトップダウン型の命令系統や意思決定プロセスが創造性を抑圧しているとの批判も聞かれる。

半導体や液晶ディスプレーなどで巨額投資を大胆に進めるなど、これまで同社の原動力となっていたのはトップダウン型の迅速な意志決定だった。しかし、他社製品に早急に追いつこうとする「模倣者」から「革新者」へのシフトを必要とする今の同社にとって、そうした方針は最適とは言えなくなっているのかもしれない。

サムスン社内では、一部のデザイナーが不遇を感じているとされ、方針転換を求める声も存在する。

「常にある危機意識」がうまく機能し、サムスンは半導体やテレビなどの分野でソニー(6758.T)、シャープ(6753.T)、パナソニック(6752.T)といった日本勢を追い抜き、携帯分野では10年来にわたり市場を支配したノキアNOK1V.HEの牙城を崩し、スマホ販売台数ではアップルも上回った。

しかし、そうした業績は、サムスンがコピー製品を作っているという不名誉な評価とともに成し遂げたものだった。

<天と地の違い>

アップルとの特許訴訟で米裁判所に提出された内部文書によると、iPhone(アイフォーン)のヒットに慌てたサムスンが初代ギャラクシーの開発に取り組んでいた2010年2月、同社のモバイル部門責任者の申宗均氏は「デザインの危機」と社員に述べている。

「社外の影響力を持つ人たちがiPhoneを見て、『サムスンは居眠り中だ』と言っている」───。危機感を抱いた申氏は「これまで当社はノキアに全注意を傾け、バー型やスライド型などに注力してきた。ユーザー体験が予想外のライバルであるアップルのiPhoneと比較されているときにだ。それはまさに天と地の違いだ」とも語ったという。

あるサムスンのデザイナーによると、アップルに追いつこうとする危機意識や焦りによって、サムスンのデザイナー陣やエンジニアたちは見た目がiPhoneに最も似たコンセプトを選ぶことになったという。このデザイナーはメディアに応対する立場にないことから、名前を明らかにしないという条件で答えた。

「デザイナーたちは多くのユニークで独創的なアイデアを持っていた。しかし、意思決定する上層部に気に入られる必要があった。問題は、彼らがアップルのデザインに魅了されていたため、そうしたアイデアが上層部を喜ばせるのに十分ではなかったということだ」という。

また、このデザイナーは「別の会社なら、経営陣はチーフデザイナーの決定を尊重すると思うが、サムスンでは上層部がデザイナーの意見を覆し、どういうデザインで行くかについて最終的に決める」とし、「それがわれわれの能力を制限している。素早い模倣者に終わらないためには、サムスンにはより水平的な組織文化が必要で、デザイナーを強化しなければいけない」とも語った。

こうした意見に対し、匿名のサムスン幹部は、白黒テレビの製造にも苦労するほど革新性が乏しい中でスタートした同社だが、今やインセンティブやボーナスを通じて内部から新たなアイデアを生み出していると反論。李会長自身も新たな技術やデザインに高い関心を示していると強調した。

<アップルとの違い>

トップダウン型意思決定を示す最近の一例では、5月の「ギャラクシーS3」発表まで2週間を切ったころ、崔志成・副会長が50万個の青色の携帯ケースを廃棄するよう突然指示。事情に詳しい関係者の話によると、細いシルバーのストライプの入ったデザインが、満足の行くものではなかったからだという。

微調整を重ねた末、崔副会長は発表10日前にデザインを承認。しかし、一部アナリストによると、これによって約200万台の出荷に遅れが出た。

素早く対応するという企業哲学は、アップルのやり方とは大きく異なっている。同社で17年間にわたりデザインを担当するクリストファー・ストリンガー氏は特許訴訟で、アップルでは世界各国から集まったデザイナー16人が、毎週オフィス内のキッチンテーブルに集まっては商品デザインに関する議論を繰り返していると証言した。

前出のサムスンのデザイナーは「想像力の刺激にとって邪魔になるのは、トップダウンや官僚的な文化だ」とコメント。「これはサムスン独自の問題ではなく、韓国社会全体を悩ます問題だ。サムスンはそれを変えようと努力しているが、依然として非常にトップダウン型だ」と話す。

<危機意識は古びたのか>

競争が激化する市場での機敏な経営で評価を得たサムスン。そうした評価を守ろうとするかのように、携帯端末の新製品は6カ月ごとに投入しており、製品サイクルはどんどん短くなっている。8月29日には、米マイクロソフト(MSFT.O)のモバイル基本ソフト(OS)「Windows Phone(ウィンドウズフォン)8」を搭載した新型スマホ「ATIV S」を発表。ノキアも間もなく同OS搭載スマホを発表する予定で、それに先立つ発表は市場を驚かせた。

モバイル部門責任者の申氏は、ベルリンで開かれた欧州最大の家電見本市で、「いかなる障害があろうとも、サムスンは市場で傑出する革新的かつユニークな優れた製品を提供し続ける」と訴えた。

その申氏は、李会長の言葉や危機意識についてまとめたテキストで1990年代に教育を受けた「サムスンマン」と呼ばれる同社のエリート集団について、「勤勉で模範になる」と称賛している。

李会長は1987年にグループ創始者である父親から会長の座を引き継ぎ、脱税などで有罪判決を受けた後、2008年に退任。しかし、2年後の大統領による恩赦を受けて会長に復帰した。

サムスンはその年の夏、アップルがiPhoneで消費者の心をつかむ中、携帯端末事業の利益を半減させた。しかし、ギャラクシーシリーズで急回復し、以降毎年最高益を更新し続けている。今年の年間利益は220億ドルに上るとみられ、この数字は2010年比で45%増となる。

しかし、危機文化は一部の社員にとって古びたものになっている。サムスンのある匿名の半導体開発者は「危機文化により、確かに社員は機敏になり警戒心も持ち続けているが、5年以上もサムスンで働けば、耳にタコができるぐらい聞かされ、反復サイクルのようになると冗談もささやかれる」とは語る。

もしかすると、70歳になる李会長も丸くなってしまったのかもしれない。

事情に詳しい関係者によると、李会長はアップルとの特許訴訟敗訴について説明を受けた後、「うまく対処しろ」とだけ指示したという。

(原文執筆:Miyoung Kim記者、翻訳:橋本俊樹、編集:宮井伸明)

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