[ロンドン 10日 ロイター BREAKINGVIEWS] - サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコは、ムハンマド皇太子が打ち出している画期的な経済改革を前進させるという重要な役を担えなくなりつつある。
もしアラムコが5%の株式を上場して1000億ドルを調達する計画がご破算となれば(現時点で既にそうなりそうだが)、皇太子の目論見は潰え去る。上場計画が立ち消えになった場合、サウジが受ける打撃は短期的な財政面のマイナスだけにはとどまらないだろう。
サウジの財政にいささか問題があることはすぐに分かる。今年の財政赤字の対国内総生産(GDP)比は7%の見込みで、国際通貨基金(IMF)のデータが示す2016年の17%からは改善する。だが第1・四半期の財政統計を見ると、政府が以前発表していたいくつかの緊縮措置を撤回したため、歳出が歳入を上回る伸びとなっている。
もっともサウジの債務の対GDP比は約20%にすぎず、一段の借り入れ余地がある。また原油価格が1バレル=80ドルに迫っており、サウジの歳入の3分の2を占める石油収入は今年、400億ドル強増えてもおかしくない、とキャピタル・エコノミクスは試算する。
さらに収入を増やす1つの手立ては、単純に原油を増産することだ。サウジと他の石油輸出国機構(OPEC)加盟国が先月約束した日量100万バレルの増産方針は、アラムコの実入りを大きくするのは間違いない。今後のイランとベネズエラの減産規模が、サウジなどの生産余力を持つ国の増産分を上回る可能性もある。そうなればサウジは、たとえトランプ米大統領から原油を値下げしろと要求されていても、原油高と市場シェア拡大という「二兎」を得られるかもしれない。
ただしアラムコはこれまでずっと、サウジにとって単なる資金源以上の存在だった。上場計画にしても、調達した1000億ドルはサウジの脱石油戦略への投資が想定されてきた。首尾よく上場を果たせれば、サウジ当局者が期待する国内経済と海外投資家をつなぐパイプは劇的に太くなっただろう。
ムハンマド皇太子が掲げる改革「ビジョン2030」に含まれる多くの政策、具体的には外国からの直接投資の年間伸び率を3.8%から5.7%に引き上げることや、民間のGDP寄与度を40%から65%に高める計画などは、より多くの外国資本を必要としている。
サウジはアラムコ株を、例えば中国の国有機関にでも売却すれば予定していた1000億ドル全て、もしくはその一部を獲得することはできる。しかしアラムコが、サウジをただの産油国から多様な経済構造を持つ国に転換する起点となるには、もっと大きな働きをしてもらう必要があるのだ。
●背景となるニュース
・アラムコの2016年の純利益は前年比21%減の133億ドルだった。ロイターが9日、入手した非公表データを伝えた。
・米紙ウォールストリート・ジャーナルは関係者の話として、アラムコの新規株式公開(IPO)に向けた準備が滞っていると伝えた。
・アラムコのアミン・ナセル最高経営責任者(CEO)は9日付の英紙フィナンシャル・タイムズに、石油業界は供給ひっ迫のリスクに直面していると語った。大手エネルギー企業が米国のシェールやその他目先の取り組みに力を注ぎ、過去に見られたような大型プロジェクトをないがしろにしているからだという。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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