April 24, 2016 / 1:49 AM / 3 years ago

コラム:米国政治の核心にある「裏切り」

[19日 ロイター] - 2016年の大統領選挙を突き動かしているのは、「裏切られた」という激しい感覚である。共和党指名争いでトップを走る不動産王ドナルド・トランプ氏の選挙運動はいつも怒りに溢れている。

 4月19日、今回の米大統領選挙を突き動かしているのは、「裏切られた」という激しい感覚である。共和党指名争いでトップを走る不動産王ドナルド・トランプ氏(写真)の選挙運動はいつも怒りに溢れている。写真は12日、ニューヨーク州での選挙活動イベント終了後、支持者を指さすトランプ氏(2016年 ロイター/Carlo Allegri)

民主党バーニー・サンダース上院議員の選挙運動にも同じような怒りが見え始めている。

指名争いに残っている候補のうち誰一人として、2008年の大統領選挙でバラク・オバマ氏が掲げた希望と楽観主義を受け継ぐ者はいない。共和党のマルコ・ルビオ上院議員とジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事はそれを試みたが、結果はご存知のとおりだ。

「裏切られた」という感覚は、共和党側ではトランプ候補の選挙運動よりもずっと前から存在している。発端は2010年の「ティーパーティ」運動だ。ワシントンの共和党中枢は、彼らを選出した共和党員の願いに応えていない、つまりオバマ大統領の政策、特にいわゆる「オバマケア」(米医療保険改革法)を阻止することに失敗している、というのが「ティーパーティ」運動の主張だった。

「ティーパーティ」は、下院院内総務を務めていたエリック・カンター氏やジョン・ベイナー前下院議長といった共和党の指導者たちを、保守派の大義を手放してしまったと批判していた。

しかし、保守派の運動からトランプ陣営が生まれたわけではなく、むしろ彼らが支持するのはテキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員である。共和党内でのトランプ支持層はイデオロギー的な保守派よりも幅広い。トランプ候補がアピールしているのは、共和党から強く疎外されていると感じている白人労働者階級の有権者だ。

共和党のリーダーたちはこうした層の支持を得て選出されたのに、その後、貿易や移民、社会福祉制度、孤立主義などのテーマに関して彼らを無視してきた。トランプ候補は彼らの不満を増幅して伝えている。

保守派が、強く「裏切られた」との思いを溜め込む例は昔から見られる。

1950年代、当時のジョゼフ・マッカーシー上院議員は、政府上層部に含まれる共産主義者の裏切り者を告発するとして、ニューディール政策に反対するキャンペーンを主導した。1990年代には、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領とボブ・ドール上院議員(カンザス州選出)に対抗して共和党の大統領候補指名を争ったパット・ブキャナン氏が、共和党の主流派はロナルド・レーガン大統領が遺した伝統を裏切っていると主張した。

民主党側では、サンダース上院議員が選挙運動のメッセージを、ウォール街に対する批判から民主党への批判へと拡大。「私たちが挑戦しているのは、ウォール街と経済的な主流派だけではない。政治的な主流派にも挑戦している」と同氏は述べている。

彼は、ヒラリー・クリントン前国務長官が非営利団体「家族計画連盟」から支持されていることを根拠として、彼女が政治的主流派の一翼であると批判している。サンダース候補は、主流派の候補であるクリントン氏を支持しているという理由で、米国有数のゲイのための人権団体であるヒューマン・ライツ・キャンペーンに対してさえ批判的なのだ。

サンダース氏は、民主党内に残る「クリントン主義」の遺産に反対する活発な運動を展開している。昨年、同氏は次のように述べた。「私はNAFTA(北米自由貿易協定)に関して、また中国との恒久的な貿易関係に関して、ビル・クリントン元大統領とはまったく意見を異にしている。ウォールストリートの規制緩和についてもクリントン元大統領には全く賛成できない。私は非常に強く反対した」

サンダース支持者の多くは、クリントン主義は民主党的な価値観に対する裏切りだとしている。彼らが槍玉に挙げるのは、ウォールストリート、自由貿易協定、結婚防衛法、「聞かざる・言わざる」式の福祉改革、クリントン大統領と当時のニュート・ギングリッチ下院議長とのあいだの財政均衡合意、アフリカ系米国人の大量収監をもたらした要因でもあった1994年刑法などである。

ビル・クリントン氏自身、1994年刑法は「行き過ぎだった」と認めている。ヒラリー・クリントン候補も、最新の討論会において「意図せぬ結果を招き、人々の生活に非常に不幸な影響を与えたことを残念に思う」と述べている。

民主党が大統領選挙で3期連続(1980年のジミー・カーター候補、1984年のウォルター・モンデール候補、1988年のマイケル・デュカキス候補)で敗れた後、ようやく誕生したのがビル・クリントン大統領だった。このような連敗を喫すると、政党は「同じことを続けるわけにはいかない」という結論に達する可能性が高い。

クリントン氏は、引き続き支配的だった「レーガン・コンセンサス」に妥協する形で、民主党を権力の座に戻したのである。彼は「ニュー・デモクラット(新たな民主党員)」であり、「第三の道」の旗手だった。

「レーガン・コンセンサス」は、ジョージ・W・ブッシュ政権の失敗によって地に墜ちた。2008年のグローバル金融危機において自由市場資本主義がもたらした破壊を経た今日、「民主社会主義者」という名乗りは、それほど過激とも思えない。時代は変わった。多くの民主党員は、クリントン時代の妥協を、本来の民主党の価値観に対する裏切りとして否定したがっている。

サンダース氏は、ヒラリー・クリントン氏の選挙運動に痛撃を与えるかもしれない。サンダース支持者の3人に1人は、クリントン候補が党指名を獲得しても同氏に投票することを拒否すると先月回答している。仮に指名を獲得できないとしても、サンダース候補は、党大会において、貿易、ウォールストリートなどの論点について、「スーパー代議員」の権限をめぐる指名獲得ルールについての対決を挑むつもりでいるように思われる。

この「裏切られた感」というテーマは、1960年代にも顕著に見られ、民主・共和両党を変貌させた。1964年の選挙に出馬したバリー・ゴールドウォーター候補は、共和党は「東部のエスタブリッシュメント」に裏切られた、と主張した。共和党主流側であるアイゼンハワー大統領は、決して保守派の英雄ではなかった。同大統領は後のビル・クリントン氏と同様に、その頃広く見られたコンセンサスに過剰に妥協していると見られていた。1950年代において、それは「ニューディール・コンセンサス」だった。

1960年代には、民主党急進派のあいだでも「裏切られた」という叫びが聞かれた。民主党主流派が、ニューディール政策による社会福祉リベラリズムや公民権に関して力を注いでいることについては、急進派としても何も文句はなかった。彼らが怒っていたのはベトナム戦争であり、トルーマン大統領と冷戦開始の時期にまで遡る共産主義封じ込め政策を民主党主流派が支持することを拒絶したのである。

「裏切り」は、米国政治における永続的な問題である。その原因は、憲法が三権の分立とチェック&バランスを定めているからだ。選挙に勝った大統領は皆、何かを成し遂げるためには妥協を余儀なくされる。自身の党の仲間とも妥協しなければならない。米政府は、そういう仕組みで動いているのだ。ビル・クリントン氏はかつて、「ティーパーティ」の抗議者たちに「憲法を読め」と言ったことがある。「『取り引きをしよう』というタイトルでもいいくらいだ」と。

純粋主義者たちは交渉を好まない。彼らは、交渉する人々を裏切り者と呼ぶ。交渉こそ、米国が統治されるべき方法かもしれないのだが、それには裏切りのリスクが常に伴っている。

*筆者は米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のコミュニケーション研究分野の客員教授を務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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