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アングル:東南アジアのネット覇権争い、「シー」や「ゴジェック」が火花

[シンガポール 23日 ロイター] - インドネシアの首都ジャカルタでは、露天の飲食店の前に繰り広げられる光景がある。それは、東南アジアのインターネット覇権争いの縮図とも言える。シンガポール系新興勢力のSea(シー)グループが攻勢を掛け、市場リーダーのゴジェック(本社ジャカルタ)、グラブ(本社シンガポール)が迎え撃とうとしている。シーのオレンジ色の服を着た配達員と、緑のジャケットを羽織ったゴジェックやグラブの配達員がまさに隣り合って、注文待ちをしているのだ。

 3月23日、インドネシアの首都ジャカルタでは、露天の飲食店の前に繰り広げられる光景がある。それは、東南アジアのインターネット覇権争いの縮図とも言える。シンガポール系新興勢力のSea(シー)グループが攻勢を掛け、市場リーダーのゴジェック(本社ジャカルタ)、グラブ(本社シンガポール)が迎え撃とうとしている。写真はシーのロゴ、シンガポールで5日撮影(2021年 ロイター/Edgar Su)

手軽な麺類を提供しているこの飲食店の経営者は、シー傘下の電子商取引企業ショッピーと1カ月前に宅配サービスの契約を結んだばかり。だが、直後から連日注文が舞い込んでいると話す。

ゲーム事業で大もうけし、米国への上場を果たしたシーは、その勢いを駆ってショッピーに多額投資した。近年、中国アリババ傘下のラザダをはじめとする競合他社を打ち負かしてきた。シーの株価は過去1年間で5倍に跳ね上がり、時価総額は1110億ドルに上る。

さらにシーは現在、世界第4位の人口を抱えるインドネシアで宅配サービスと金融事業に力を注ぐ。配車や宅配、決済サービスなどを手掛ける同国最大手のゴジェックやグラブにとって、新たな脅威となりつつある。

戦いの舞台となっている東南アジアのデジタル経済は、インターネット利用者が4億人を超え、グーグルとテマセク、ベイン&カンパニーの共同調査に基づけば、市場規模は2025年までに3倍に膨らんで3090億ドルに達する見通しだ。

シーには、中国のテンセント(騰訊控股)が出資する。中国のアリババや米グーグル、ソフトバンクグループといった世界的なIT企業もそれぞれ、この地域の大手勢に肩入れしている。

また、複数の関係者は、ゴジェックとインドネシアの電子商取引企業・トコペディアが統合協議を進めている要因の1つが、シーの積極拡大路線だと明かした。両社は一体となってシーやグラブに対抗する構えだ。

一方、グラブやインドネシアのオンライン旅行予約のトラベロカ、電子商取引で急成長した新興企業・ブカラパックなどは、上場を急いでいる。ロイターが十数人以上の関係者を取材したところでは、シーの株価高騰の波に乗るとともに、自分たちの足場を守る狙いがあるという。

イースト・ベンチャーズの共同創業者で早くからトコペディアに出資しているウィルソン・クアカ氏は、冗談半分の口調で、シーの影響力を米マーベラスシリーズの人気コミックに登場する怪人サノスになぞらえ「シーは巨大かつ強力で、世界の全ての生物の半数、つまりこの場合は半数の新興企業を消し去ることができる。(だから)アベンジャーズたちのように、立ち向かう企業が確実に生き残り、戦いに勝ちたいと思うなら、団結する必要がある」と話した。

<相次ぐ上場模索>

シーの株価高騰は、拡大を続ける東南アジアのインターネット市場と接点を持ちたい投資家にとって、資金の振り向け先がいかに乏しいかを物語る。

シーが上場したのは2017年。株式と債券を通じて約70億ドルを調達した。早い段階から支援していたテンセントは今、約20%の株式を保有する。

銀行関係者や事情に詳しい業界幹部の話では、そうした投資家の需要の強さに加え、シーと互角に勝負するための資金が入り用になっているという理由で、ライバルたちも可能な限り早期の上場を模索せざるを得なくなった。

複数の関係者によると、ゴジェックとトコペディアは数週間中に合併交渉を取りまとめる可能性が高く、年後半にはジャカルタで上場し、来年には米国での大規模な新規株式公開(IPO)を実施することを目指している。

別の関係者によると、グラブとトラベロカはそれぞれ、特別買収目的会社(SPAC)との統合による上場に向けた動きを加速させ、ブカラパックも同様の計画を進めている。

グラブに出資するGGVキャピタルのマネジングパートナー、Jixun Foo氏は「市場はハイテク株をかなり歓迎している。グラブにとっても態勢が整っているなら、チャンスになる」と期待を寄せる。

<巨人対決>

シーのこれまでの成功は、何と言ってもオンラインゲーム部門のGarena(ガレナ)によるところが大きい。17年に発売した「フリーファイア」が過去2年間で世界最多のダウンロード数を記録したからだ。

同社はこれで得た資金を投じて、電子商取引や宅配、金融でも再び「勝者」になることを目指している。

地元の小売店向けプラットフォームとして15年に立ち上げた電子商取引ショッピーは、すぐに事業が拡大。サービス内容にソーシャル機能を付加した効果もあって、今や電子商取引分野では東南アジア全体でラザダを、インドネシアではトコペディアをそれぞれ抜いて最有力プレーヤーに躍り出るまでになった。

これに対し、ゴジェックとグラブは毎年のように合併協議を行っては取りやめることを繰り返しているものの、2社とも先行者利得と、しっかりした物流ネットワークを確保している点から、シーの宅配事業の攻勢を撃退できると考えている。

ただ、この「インドネシアの戦い」で2社は苦戦を強いられてもおかしくない。ベトナムではシー傘下の宅配サービス企業ナウが市場シェアで首位に立ち、グラブは2位に甘んじていることが、モメンタム・ワークスが今年1月に公表したリポートで分かった。モメンタムの最高執行責任者(COO)、Yorlin Ng氏は「ナウは地域密着で早くから事業を展開しているという強みを持っていた。そこにシーの支援が加わったのが、プラスなのは間違いない」と述べた。同氏によると、東南アジアの料理宅配市場は昨年、183%も拡大した。

ショッピーはインドネシアで飲食店に対して、8000万人もの利用者がいるとアピールするとともに、手数料を大幅に下げると約束して猛烈な売り込みをしている。

そして、次の対決の場は、金融サービスになるだろう。

シーはインドネシアのバンクBKEを買収し、「シーマネー」部門トップに中国の「P2P」型融資事業のベテランを招いた。シー株に投資する新興国市場ヘッジファンド、コラのマネジングパートナー、ダニエル・ジェイコブズ氏は「シーマネーは東南アジア版のアント・フィナンシャルになれる。決済事業を展開した後にも彼らには新たな構想があり、顧客向け後払いサービスから小売店への融資まで、ありとあらゆる隣接分野へ次々と事業を広げていくだろう」とみている。

もっとも、インドネシアのモバイル決済サービス・OVOにそれぞれ出資するトコペディアとグラブにも、同じ野望がある。シーとグラブはともに昨年12月、喉から手が出るほど欲しかったデジタル銀行の免許をシンガポールで取得しているだけに、ここでも真っ向勝負が展開されようとしている。グラブの後ろ盾に控えるのは、ソフトバンクグループと三菱UFJフィナンシャル・グループだ。

ゴジェックに出資するプライベートエクイティ企業ノーススター・グループの共同創業者、パトリック・ワルジョ氏は「これから巨人たちが戦うことになるだろう」と固唾(かたず)を飲んだ。

(Fanny Potkin 記者、Anshuman Daga記者)

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