July 6, 2018 / 8:02 AM / 4 months ago

アングル:W杯取材記者が見た、ロシア「最高の素顔」

Andrew Cawthorne

 7月4日、荷造りが慌ただしく、しかもロシアについて無知だったために、危うく妻のアドバイスに従うところだった。写真はモスクワのスパルタク・スタジアムで2日、本番に備えるテレビ番組の関係者(2018年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

[ニジニ・ノブゴロド(ロシア) 4日 ロイター] - 荷造りが慌ただしく、しかもロシアについて無知だったために、危うく妻のアドバイスに従うところだった。ロイターの記者としてベネズエラを出発してワールドカップ(W杯)取材に向かう際に、毛糸の帽子を荷物に入れようとしたのだ。

その帽子を持ってこなくて幸いだった。カリブ海に面したベネズエラよりも夏の気温が高いボルガ川沿いでは、さぞかし間抜けなことになっただろう。

W杯開催国ロシアについて、「冷涼な気候と冷淡な国民」というお決まりのイメージを抱いていた筆者や、同じように、これまでロシアを訪れた経験のなかった多くのファンが抱いていた誤解は、これだけにとどまらなかった。

モスクワで6月撮影(2018年 ロイター/Christian Hartmann)

私たちは一様に、自分たちが目にしたロシアの姿に喜び、啓発され、少なからず自分を恥ずかしく思った。彼らは世話好きで、秩序正しく、近代的で、私たちを助けようと懸命で、盛り上がることが好きな人たちだった。

ニジニ・ノブゴロドで6月撮影(2018年 ロイター/Damir Sagolj)

今回取材を担当したのはニジニ・ノブゴロドだ。旧ソ連時代に「閉鎖都市」だったことは事前に読んで知っていた。それは、自分がまだ子どもだった冷戦時代に、英メディア報道の中心を占めていた高層アパートと食糧を買い求める人たちの行列という灰色のイメージを思い起こさせた。

ただ、過去はどうであれ、ボルガ川とオカ川の合流点に位置し、120万人の住民が暮らすニジニ・ノブゴロド市は、いまや開放的で素晴らしい街だ。

空港からスタジアム、ホテル、公共広場に至るまで、地元の語学学校に通うボランティアの若者たちが、その英語力を発揮して、私たちが旅行会話帳を頼りに、たどたどしく「スパシーバ(ありがとう)」や「ズドラーストヴィチェ(こんにちは)」と口にする手間を省いてくれる。

ニジニ・ノブゴロドのスタジアムで取材するロイター記者。1日撮影(2018年 ロイター/Max Rossi)

ここにある豪華な新スタジアムは、青と白のカラーリングで水と風をイメージさせる。ジャーナリスト向けの設備も完璧だ。高速インターネット接続に広々としたデスク、映像再生用のモニター、ピッチはよく見えるし、人混みを抜けて素早く移動できる専用のシャトルバスも用意されている。

街中では、地元市民たちが、パナマから韓国に至る各国から訪れた大勢のファンと、歌い踊り、セルフィーを撮っている。スマホの通訳アプリを利用して会話が弾んでいることも多い。

<「ロシアについての先入観は忘れよう」>

ロシア代表が別の都市で試合を行っているときは、地元市民は街に繰り出し、歌を歌い、ファンゾーンに詰めかけた。2014年のブラジル大会や、2010年の南アフリカ大会で筆者が目にした光景よりも、さらに熱狂的な愛国心が現れていた。

カリーニングラードで6月撮影(2018年 ロイター/Ivan Alvarado)

懸念されていたイングランドのフーリガンも杞憂に終わった。

むしろイングランドファンは、カフェや大通りで応援旗を掲げ、ロシア人と一緒に行儀よくパーティに興じていた。警察官は控えめに路地で待機し、訓練で想定していたトラブル解消のために駆り出されることはなかった。

ソチのホテルで6月撮影(2018年 ロイター/Hannah McKay)

胃にもたれ、味気ないとばかにされることもある食べ物も、好評を博していた。特に、どこにでもあるカツレツやスモーキーな香りのアメリカンコーヒー、驚くほど安価なシベリア産キャビアはよかった。

「ロシアについてこれまで読んできた、あるいは思っていたことはすべて忘れよう。非常に素晴らしい国だ。ロシアに来るのを避けた人が多いのは非常に残念だ」──。イングランドファンのチャーリー・カーラインさん(33)は、2本の大河を見下ろす丘の上、ニジニ・ノブゴロドの「クレムリン」城の脇に設けられた陽光溢れるファンゾーンでビールをあおりながら、そう語った。

カーラインさんの友人たちは、過去のW杯にも足を運んでいたが、今回は国に残ることにしたという。2016年欧州選手権の際にフランスで起きたようなロシアとイングランドのファンによる暴力的な衝突や、両国の政治的な関係悪化に伴う敵意を懸念したためだ。

モスクワの空港でフライトの時間を待つロイター記者。6月撮影(2018年 ロイター/Murad Sezer)

ロサンゼルスを拠点とするロイターカメラマン、ルーシー・ニコルソンは、オリンピックを7大会取材しているが、W杯は今回が初めてだ。ようやくのことでリオネル・メッシとクリスティアノ・ロナルドを目にすることができて興奮していた。

「オリンピックと比べて、W杯で最も驚いたことの1つは、男性ばかりだということ。ファン、メディア、そしてもちろん選手も含めて、圧倒的多数が男性だ」と彼女は言う。

カザンで6月撮影(2018年 ロイター/Pilar Olivares)

「それを考えると、暴力沙汰をほとんど目にすることがなかったというのは驚きだった。普通のロシア人、特に女性は例外なく親切で暖かかった。こうした歓迎の態度は、国家的なイベントに対するプライドや、あるいはおだやかな天候に刺激されたものかもしれないが、その大半は自発的で純粋なものに見えた」

<「見たこともないくらい清潔な都市」>

カメラマンの彼女にとって一番大変だったのは、バルト海沿岸のカリーニングラードから黒海沿岸のソチに至る、複数の都市のあいだを移動だった。18日間でアエロフロートとシベリア航空の便に搭乗すること14回。疲労のあまり、試合前のスタジアムで眠り込んでしまったこともあったという。

ロストフナドヌーで6月撮影(2018年 ロイター/Marko Djurica)

「観光客がめったに行かないロシア各地を訪れるのは魅力的だった」と彼女は語る。「大人数で集まることを制限する規制はW杯のために一時解除され、いつになくお祭り的な雰囲気が生まれていた」

オーストラリアで活動するロイターカメラマン、デビッド・グレイにとって、今回は4大会連続のW杯取材で、ずっとサマラに滞在していた。

「今回のW杯は、重要な一つの要素が、他の大会すべてと違っていた。それは、何を期待するかという私の先入観だ」と彼は言う。冷戦期を知る西側からの訪問者のほとんどが口にする感想と同じである。

サマラで6月撮影(2018年 ロイター/David Gray)

「今大会を通じてロシア人と話をすることで、彼らが持っている非常に強い自国へのプライドへの理解が深まった。尊敬すべきプライドだと思う。私がこれまで目にしたなかで最も清潔な街も、そのプライドのたまものだろう」と同カメラマンは語った。自動車の行き交う音と同じくらい頻繁に散水車の音を耳にしたと彼は言う。

また、彼はサマラにあるUFOのような外観のスタジアムにも感銘を受けていた。

「掛け声や歌声が円形の天井にきれいに共鳴していた。これまでのW杯のときと同様、何週間も耳の奥で響き続けるだろう」

サマラのスタジアムで6月撮影(2018年 ロイター/Pilar Olivares)

もちろん、ロシアでの夢のような日々が過ぎた後で、現実を直視する必要はあるだろう。今は温暖でも、他の季節には雪が降るのだし、どれだけ多くのファンが楽しんだとしても、それによって深刻な政治問題が隠れるわけではない。

プーチン大統領が、他国から嫌われるロシアというイメージを払拭するためにW杯を利用しているという批判的な見方もある。

とはいえ、2018年夏、ロシアはW杯という機会に、最高の「顔」を見せた。世界もその顔に微笑み返している。

(翻訳:エァクレーレン)

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