June 20, 2019 / 6:07 AM / 2 months ago

コラム:大口投資者が引くに引けぬソフトバンクの投資ファンド

[ロンドン 19日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 賭け金を2倍にするか、ゲームから降りるか──。サウジアラビアとアブダビ首長国は今、ソフトバンクグループ(9984.T)の先端分野向け投資ファンドを巡って、こうした選択を迫られている。

6月19日、賭け金を2倍にするか、ゲームから降りるか──。サウジアラビアとアブダビ首長国は今、ソフトバンクグループの先端分野向け投資ファンドを巡って、こうした選択を迫られている。写真はソフトバンクのロゴ。東京で2017年7月撮影(2019年 ロイター/Issei Kato)

サウジとアブダビの政府系ファンド(SWF)は、1000億ドル近い規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」に合計で600億ドル出資している。そして今、孫正義氏が計画している「ビジョン・ファンド2」に参加するかどうか決めなければならない。出資を見送れば、現在のビジョン・ファンドの投資先である一連の新興企業への信頼も揺らぎかねない。

ビジョン・ファンドは既に大半の資金を使ってしまった。3月末時点までに69社の株式に600億ドルを振り向けており、その中には配車サービス大手ウーバー・テクノロジーズ(UBER.N)や、犬の飼い主と散歩代行人をつなぐアプリを手掛けるワグ・ラブズなどが含まれる。2年足らず前に最初の大規模な資金調達をして以来、毎週6億2000万ドルを拠出した形だ。さらに運用責任者ラジーブ・ミスラ氏は先月、投資先が80社、総額は800億ドルになったと明らかにした。ベンチャーファンドは通常、成功を収めている企業への追加投資に備えるべく一部資金を温存するため、恐らくビジョン・ファンドが行う新規投資のコミットは限界が近いだろう。

それが孫氏をビジョン・ファンド2の設立に駆り立てる要素になっている。孫氏は19日、ビジョン・ファンドの出資者のほとんどは、第2弾にも参加したがっていると述べた。ただし重大な問題は、サウジの「パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)」とアブダビの「ムバダラ・インベストメント・カンパニー」という両SWFから、さらなる資金を引き出せるかどうかだ。PIFとムバダラは、ビジョン・ファンドにそれぞれ450億ドルと150億ドルを投じたが、事情に詳しい関係者の話では、第2弾に出資するかどうかはまだ決めていない。

ビジョン・ファンドの運用成績に基づけば、第2弾に出資するというシンプルな判断になると思われる。ソフトバンクは、3月までにビジョン・ファンドの保有株の時価が、既に売却して利益を得た2銘柄を除いたベースで取得価格に比べて20%上昇したとみている。エクイティ部分のこれまでの投資リターン(内部収益率=IRR)は45%と、平均的なベンチャーキャピタルの2倍以上に達している、というのがソフトバンクの計算だ。債券の性格を持つ優先株の保有を含めたIRRでも29%と相当高い。

もっともこれらはソフトバンクが独自に算定した書類上の評価額にすぎず、必ずしも株式市場の投資家や他の買い手が支払おうという金額の反映とは言えない。例えばビジョン・ファンドはウーバーについて、IPOに先立って保有株の評価額を引き上げたが、足元のウーバー株は、公開価格を3%下回っている。

こうした不安定な株価の動きは、ビジョン・ファンドが株式を保有し、年内のIPO実施を希望している他の新興企業、例えば共有オフィス運営のウィワークなどの士気をくじいている。昨年第4・四半期のようにハイテク株が再び下落すれば、保有分の売却も難しくなる。レバレッジをかけることで、株価上昇時にエクイティホルダーの利益を増幅させるビジョン・ファンドの構造は、株安局面では損失が拡大することも意味する。

一方、PIFもムバダラも合計すれば5500億ドルの資産を運用しているとはいえ、いつまでもお金を使い続けられるわけではない。関係者がBREAKINGVIEWSに語ったところでは、両SWFは、ビジョン・ファンド2が株価の調整からどのように身を守る仕組みなのかを知りたがっている。その上、ハイテク新興企業にこれ以上資金を縛り付けると、機会費用に直面してしまう。なぜならムバダラは既に航空宇宙やヘルスケアなどに投資分野を広げ、サウジの野心的な経済改革は観光業の発展に巨額の取り組みを行うことを視野に入れているからだ。

ただサウジとアブダビがビジョン・ファンド2に参加しないと、別の問題を生み出すことになる。ビジョン・ファンドの投資理論は、その軍資金の大きさに依拠している面がある。つまり投資先の企業は支出額でライバルを圧倒し、事業拡大の資金を得て、市場を支配できる。

ところがビジョン・ファンドの投資資金が底をつくと、そうした戦略はほころぶ。サウジとアブダビの「撤退」は、両国の孫氏に対する信頼が低下した兆しで、同ファンドの投資先がもはや多額のオイルマネーを呼び込めないと受け止められる恐れがある。そうなれば同ファンドが株式を保有する企業は、なお多くが赤字経営を余儀なくされている中で、評価が下がるかもしれない。

孫氏が携帯電話子会社ソフトバンク(9434.T)の持ち分を一部売却し、現在の3分の2から30%まで減らせば、サウジとアブダビの穴を埋めることはできる。市場価格より10%低い水準で売却した場合、200億ドルの調達が可能だ。ソフトバンクグループが持つ中国アリババ(BABA.N)の29%株式(現在の評価額は1240億ドル)などを担保に、新たな借金をする手もある。

それでもビジョン・ファンド2の規模を今のビジョン・ファンドに近づけたいなら、孫氏は大口の外部資金が必要になる。報道によると、最近ではオマーンやマレーシアのSWFに出資の呼び掛けをしているが、これはそういうわけだ。両SWFと正式に合意して資金を獲得することができれば、孫氏はサウジへの依存を減らせるだろう。とはいえ両SWFは、合計でも資産規模が400億ドル弱にとどまり、その10%を出資したとしても事態を一変させはしない。

だから孫氏は恐らく、サウジとアブダビに支え続けてもらわなければならない。逆に両国の立場では、ビジョン・ファンド2にも少なくとも形だけでも支援を表明しないと、現在の投資にも悪影響が及ぶのは避けられない。イーグルスの代表曲「ホテル・カリフォルニア」の一節、「好きな時にチェックアウトはできるが、決してここを離れることはできない」を地で行く投資だ。

●背景となるニュース

*ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は19日の定時株主総会で、1000億ドルの「ビジョン・ファンド」の出資者の大半は、同ファンドの第2弾にも参加したがっていると述べた。

*孫氏は5月、「ビジョン・ファンド2」について当初はソフトバンクが唯一の出資者となるとしても、「間もなく」立ち上げると語った。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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