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特別リポート:仮想通貨の死角、詐欺とハッカーと法なき取引所
2017年10月9日 / 00:02 / 13日前

特別リポート:仮想通貨の死角、詐欺とハッカーと法なき取引所

[ロンドン/上海/ニューヨーク 29日 ロイター] - ビットコインをはじめとする仮想通貨取引は、インターネットという、保安官がほぼ不在の「ワイルドウエスト(開拓時代の米西部)」で行われているということを、Dan Wasyluk氏は思い知らされた。

 9月29日、暗号を使った安全なデジタル金融取引を提供すると期待されていた仮想通貨だが、懸念が後を絶たない。写真は27日、ビットコインと米ドル紙幣(2017年 ロイター/Dado Ruvic)

同氏は同僚と一緒に、新しいテクノロジーベンチャービジネスのため、ビットコインで資金調達し、それを仮想通貨の取引所「Moolah」を運営する会社に預けていた。だが数カ月後、同取引所は破綻。創設者の男は現在、詐欺とマネーロンダリング(資金洗浄)の容疑で、英国で裁判が行われており、男は無罪を主張している。

Wasyluk氏のプロジェクトは750ビットコインを失った。現在、その価値は約300万ドル(約3億4000万円)に相当する。少しでも回収できる見込みはほとんどない。

「プロジェクトを台無しにされたようなものだ」。3年前の取引所破綻について、Wasyluk氏はこう振り返る。

「取引所を始めて、顧客のカネを失ってしまったなら、運営者や取引所はその損失に100%責任を取るべきだ。だが、そのようなことは全く起きていない」

暗号を使った安全なデジタル金融取引を提供すると期待されていた仮想通貨だが、懸念が後を絶たない。なかでも、天文学的な価格高騰と手痛い暴落の可能性が、その頭痛の種となっている。

だが同様に危険なのは、仮想通貨が売買され、保管される取引所だ。

買い手と売り手が出会い、トレーダーの資金が保管されることもあるこうした取引所が、詐欺や技術的な機能障害の泥沼を引き寄せており、仮想通貨を取引する誰にとっても、不当なリスクをもたらしていることが、ロイターの取材で明らかとなった。

大量の仮想通貨が危険にさらされている。ビットコインなど仮想通貨価格は今年急騰しており、ビットコイン価格は4倍に跳ね上がっている。投資家や投機筋が大挙してオンライン取引に向かっており、政府や中央銀行による保証がないにもかかわらず、数十億ドル規模の仮想通貨が日々取引されている。

「新しい資産なので、仕組みを本当に分かっている人など誰もいない」。こう語るのは、ニューヨーク大学経営大学院のデービッド・ヤ―マック教授だ。「消費者が自身を守る手段はない」

各国規制当局や政府は、仮想通貨をどう扱うかについて、いまだに議論している段階だ。ヤ―マック教授は、最終的に米国議会が何らかの措置を講じることになると予想する。

自由な仮想通貨取引所の一部は、脆弱なセキュリティーや、従来の金融市場では当たり前となっている投資家保護の欠如に悩まされている。中国の取引所のなかには、顧客を呼び込むため、取引高を不正につり上げているところもある、と元従業員らは語る。

2011年以降、仮想通貨取引所で少なくとも36件超の窃盗が起きている。ハッキングされた取引所の多くは後に閉鎖された。

98万以上のビットコインが盗まれ、それは現在価格で約40億ドル(約4500億円)相当に上る。そのほとんどが回収されていない。損失を被った投資家が補償を得られるかどうかは取引所次第だ。

かつては世界最大だった東京のビットコイン取引所「マウントゴックス」の顧客およそ2万5000人は、同取引所が破綻してから3年以上経過した今でも、補償を待っている状況だ。マウントゴックスによると、同取引所は約65万ビットコインを失った。破産管財人が承認した申し立ての合計額は4億ドル超に上る。

仮想通貨のトレーダーにとってもう1つの課題は、政府による介入だ。中国当局は9月、本土にある一部の取引所に対し取引停止を命じた。だがこの命令は、香港や海外に拠点を置く取引所には適用されない。そのなかには、本土の取引所に関連する取引所も含まれている。

仮想通貨の価値が急落するいわゆる「フラッシュクラッシュ(瞬間暴落)」もまた脅威だ。規制されている米国株式市場とは異なり、仮想通貨取引では、急落時に取引を中断するサーキットブレーカー制度が義務付けられていない。

仮想通貨の取引所はまた、ハッカー攻撃を受けることも多く、重要な局面でトレーダーを取引不能にするシステム障害を招きかねない。

米フロリダ州で起こされた集団訴訟によると、仮想通貨取引所「クラーケン」は5月7日にハッカー攻撃を受け、500万ドル以上を失い、アクセス不能になった。この時、仮想通貨「イーサ」の価格が7割超暴落し、トレーダーのレバレッジ取引は清算されたが、彼らには何の補償もなかったという。

クラーケンは同訴訟に関するコメントを控えた。同取引所は裁判所に対し、訴訟を却下するよう求めており、仲裁によって解決されるべきだとしている。

当然のことながら、多くの銀行が仮想通貨取引に慎重な姿勢を見せており、一部は取り扱いを拒否している。米大手銀JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は9月、ニューヨークで開かれた投資家会議の席で、ビットコインは「詐欺であり、崩壊する」と語った。

銀行のボイコットによって、仮想通貨とドルやユーロといった従来通貨との取引を可能とする電信送金が不可能になる場合もある。

米銀大手ウェルス・ファーゴは3月、仮想通貨取引所「ビットフィネックス」への電信送金を停止した。取引所の弁護士と特別な取り決めを行った場合を除き、顧客は同行口座からの米ドル送金ができなくなった。この件に関し、ウェルス・ファーゴはコメントを拒否した。

規制当局は顧客の身元を確認するよう義務付けているが、一部の仮想通貨取引所では最低限の確認しか行っていなかったこともロイターの取材で明らかになった。

ロイターが中国の仮想通貨取引所大手「BTCチャイナ」から入手した内部顧客情報によると、同取引所では2015年秋、顧客63人がイラン出身、9人が北朝鮮出身としていた。どちらの国も、米国の制裁下にある。上海にオフィスを構えていた同取引所は、9月末で取引を停止している。

BTCチャイナの広報担当者は、同取引所が中国の法律を順守しており、「中国市民によって運営され、法定代理人も中国市民だ」と語った。

<宛先は「ミッキーマウス」>

幅広い支持を獲得した最初の仮想通貨であるビットコインは、約9年前、グローバル金融危機のさなかに登場した。当時の支持者に言わせれば、銀行や政府を回避し、低コストで金融取引が行えることが、ビットコインの魅力だった。

個々の取引は「ブロックチェーン」と呼ばれる、コンピューター網で維持された分散型の台帳に記録され、認証される。取引は匿名だが、ネット上で誰でも閲覧可能だ。暗号化によって保護されている。

初期のビットコイン開発者であるマイク・ハーン氏は、ビットコインについて、当初は従来通貨の代替というよりも趣味として見られていたと話す。「ここまで成功し、大きくなるとは、皆思いもよらなかった。何らかのプログラムを得るための思考実験だった」

大きな注目と報道を集めるようになったビットコインではあるが、一般的な消費者に広く浸透しているとは言い難い。

「仮想通貨の大半は現在、通貨というよりもコモディティーに近い」と語るのは、米電子決済サービス大手ペイパルのダン・シュルマンCEOだ。「価値がどうなるか、予想に基づいて取引されている。通貨としては、受け入れられていない」

その一方で、仮想通貨は匿名性を求める人たちを引きつけている。

米国の仮想通貨取引所「ポロニエックス」は、一部の顧客に対して、氏名とメールアドレス、国名を提供するだけで取引を許可し、1日当たり最大2000ドル相当の仮想通貨引き出しを可能としていることが、ロイターの取材で分かった。同取引所は声明で、「コンプライアンスの文化を育てるのに相当なリソースを費やし、ユーザーの悪用を防ぐシステムを構築した」と説明する。

ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)と呼ばれる悪意あるコードの配布者を含む、「大きな麻薬組織や詐欺の常習者」などの犯罪者が、顧客を確認しない無秩序な取引所の利用を進めている、と米国の元連邦検事補は6月に議会証言した。

「犯罪者は匿名や偽名で口座を開設し、当局の捜査網をくぐり抜けることができる」と、キャサリン・ホーン元連邦検事補は議会公聴会で指摘。「そのため、『メイン通り123番地』に住む『ミッキー・マウス』宛ての召喚状は届くはずもなく、戻ってくる」

米当局は7月、世界最大級の仮想通貨取引所「BTC-e」のウェブサイトを閉鎖し、1億1000万ドルの罰金を支払うよう命じた。財務省は、同取引所が「ランサムウエア、コンピューターのハッキング、個人情報の盗難、還付金詐欺、汚職、麻薬密売が絡む取引を促進した」と説明する。

当局によれば、BTC-eが口座開設に求めていた情報は、ユーザーネームとパスワード、メールアドレスだけだった。

<偽られた取引量>

 9月29日、暗号を使った安全なデジタル金融取引を提供すると期待されていた仮想通貨だが、懸念が後を絶たない。写真は自身のプロジェクトが取引所の破綻により現在価値で約3億4000万円に相当する750枚のビットコインを失ったDan Wasyluk氏。メリーランドで8月撮影(2017年 ロイター/Joshua Roberts)

暗号通貨のトレーダーが、取引所を選ぶ基準の1つが、取引高だ。取引高が多いほど、売り手と買い手を素早くマッチさせることができる。

2014年初めから今年1月後半まで、世界のビットコイン取引高の約9割を中国の取引所が占めていたと、各取引所の公表取引データを収集しているサイトbitcoinity.orgは指摘する。

こうした取引高の多さは、中国の取引所が当時、手数料を取っていなかったことにも理由がある。だが、一部の取引高データは虚偽のものだった、と中国の取引所に勤務していた元職員6人がロイターに語った。人為的につり上げられた中国の取引高が、頻繁に不安定化するビットコイン価格に影響を与えた可能性がある。投資家は、こうした取引状況を観察してそれに反応するためだ。

中国の取引所の1つであるOKコインは、実態を伴わない売買を口座間で繰り返す「ウォッシュ・トレード(仮装売買)」と呼ばれる手口で取引高を膨らませていた、と同取引所の元幹部2人は証言する。こうした売買は、取引所にログは残るが、ブロックチェーンには記録されなかったという。

2014─2015年にかけて、OKコインの国際オペレーション・マネージャーなどを勤めたゼイン・タケット氏は、虚偽の取引高への懸念が自身の退任理由の1つだったと明かす。「競合相手よりも大きく見せたいというのが、(虚偽の)動機だった」と話す。

OKコインは、「人為的に取引高を膨らませたことは一度もない」とコメントしている。

共同創業者1人を含む4人のBTCチャイナの元職員は、同取引所も取引高を偽っていたと認めた。同取引所の広報担当者はこの証言を否定している。

中国のビットコイン取引所の圧倒的な取引高は、中国人民銀行の注意を引いたようだ。中央銀行による一連の監査を終えた中国の取引所は1月、他国の取引所と同様に、取引手数料の徴収を開始した。その結果、中国での取引高が激減した。

「利用者を欺こうとする市場は、健全な市場ではない」。BTCチャイナの共同創業者Xiaoyu Huang氏は、同取引所が取引高の一部を偽っていたことを認め、そう語った。

「実際のところ、虚偽の取引高のせいで、世界取引高のこれほど多くを中国が占めていると誤って信じ込んだ政府が、ビットコイン取引に対する強力な監督に乗り出したのだ」と同氏は指摘。取引所の方向性を巡る意見の違いから、自身も退職したと述べた。

<ハッカーの標的に>

仮想通貨取引は、ハッカー攻撃の標的にされることが多く、投資家にとってさらなる頭痛の種になっている。

中国南部広西の個人投資家Walle Weiさんは2015年7月10日、OKコインのサイトを利用し、ビットコインと、暗号通貨の1つであるライトコインの先物取引を行った。

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当時4ドルだったライトコイン価格が上昇すると賭けたWeiさんは、借り入れ資金を元手に、ロングポジションを購入。この取引では、取引金額の10%を証拠金として払い込むだけで済む。だがレバレッジが大きいため、価格の小さな変動で証拠金が吹き飛んだり、儲けが膨れ上がったりする。

Weiさんの期待とは裏腹に、ライトコイン価格は下がり始め、OKコインのサイトは速度が遅くなったという。売ることも買うこともできず、アクセスが回復したときには、契約は清算されていた。ライトコイン3136枚、当時の価格で約1万2500ドル分を失ったという。

OKコインは自身のブログで、「大規模な」ハッカー攻撃によってサイトへのアクセスが増大し、一部の利用者が口座にアクセスできなかったと説明した。

Weiさんは同年7月13日、今度はビットコイン取引でも、似たようなトラブルに遭遇した。取引所サイトにアクセス不能となり、契約が清算された結果、ビットコイン57.9枚、当時の価値で約1万6900ドル相当を失ったという。

苦情を申し立てたWeiさんは、OKコインからビットコインによる損失の15%を補填され、1カ月分の取引手数料免除と携帯電話の充電器を得た。警察や、中国人民銀行、中国証券監督管理委員会(CSRC)など5つの政府機関にも被害を訴えたが、無視されるか、管轄外だと言われて終わったという。

「担当部門を見つけろといわれたが、ほかにどんな政府部門があるというのか」と、Weiさんは言う。

CSRCの関係筋によると、暗号通貨は中央銀行の管轄になる。中国人民銀行は、問い合わせに答えなかった。

投資家が資金を失うのは、取引所サイトがアクセス不能状態に陥った場合だけではない。

2月には、英領ジャージー島に拠点を持つヘッジファンドGABIが、ビットコインの値上がりを見込んで、OKコインの香港取引所で先物取引を始めた。だが別の投資家が逆方向にGABIを圧倒する資金を投じると、GABIの契約はすぐに清算されてしまった。

シカゴ・マーカンタイル取引所のような監督取引所では、1人の投資家が市場を支配することがないよう、先物取引の規模に制限が設けられている。だが暗号通貨の取引は、この限りではない。

この件は「明白な市場操作だった」とGABIのマネージャーは2月のニュースレターで述べている。OKコインに問い合わせたところ、「先物取引の投資規模に制限はまったくなく、同取引所の『ハッピーな取引環境』(実際この表現だった)で、投資家は何でも好きなようにできるとの回答だった」という。

関係筋によると、GABIはこの取引で40万─50万ドルの損失を被った。

OKコインは、「両顧客とも公平な取引を行った。投資戦略を制限する規制はない」と回答。香港の証券先物委員会は、コメントしなかった。

<完全なる面汚し>

世界最大級の暗号通貨取引所ビットフィネックスは、この15カ月で、米規制当局から罰金を課され、ハッキング被害で7200万ドル相当のビットコインを失い、米銀大手ウェルズ・ファーゴから取引を絶たれた。

ビットフィネックスは4年前に設立。数万に及ぶ顧客には、銀行や投資ファンド、他の暗号通貨取引所などが含まれる、とファンデルフェルデ共同創設者兼CEOや同社の顧問弁護士は言う。

本社オフィスはない。所有会社は米領バージン諸島に登録されており、ファンデルフェルデCEOなど香港と米国、欧州に住む幹部3人が運営している。

2016年6月、米商品先物取引委員会は、ビットフィネックスが「非合法」の暗号通貨取引を提供したほか、同委員会への登録を怠ったとして、7万5000ドルの罰金を科した。

「裁定の結果には満足している」と、ビットフィネックスの法律顧問スチュワート・ホーグナー氏は述べた。

2016年8月には、ハッカーがビットフィネックスからビットコイン11万9756枚を盗んだ。

「ビットフィネックスは、ビットコイン界の完全な面汚しだ。廃業すべき」とツイッターに投稿されるなど、顧客などの怒りの声がオンラインで噴出し、ビットフィネックスの経営陣は対応を協議した。

銀行融資を確保するあてもなく、保険にも加入していなかった同取引所は、その口座にハッキング被害があったか否かに関わらず、すべての顧客口座残高を一律36%カットすると決めた。これは損失を顧客で共同分配負担させるものだ。

ビットフィネックスは、借用書代わりのデジタルトークンを配布し、サイト内で利用者同士がこれをトレードできるようにした。トークンを、ビットフィネックス運営会社の株式と交換した顧客もいた。同取引場は、後になってトークンを額面どおりに返済したが、その前に売却して損失を被った顧客もいた。

ファンデルフェルデCEOはインタビューで、ハッキング被害に対して遺憾の意を表明。同時に、取引所側の対応を弁解した。「損失が出た人たちには申し訳なく思ったし、今でも申し訳なく思っている」

数々の問題にもかかわらず、ビットフィネックスの現在の取扱高は月間約120億ドルに達しており、「非常に利益が出ている」と同CEOは語る。2017年の利益見通しは2000万ドルだ。

暗号通貨を取り巻く「ワイルド・ウエスト」的な問題は数多くある。それでも、最終利益は予想をさらに上回るだろうと同CEOは語った。

(Steve Stecklow記者、 Alexandra Harney記者、 Anna Irrera記者、Jemima Kelly記者、翻訳:伊藤典子、山口香子、編集:下郡美紀)

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