December 27, 2017 / 7:15 AM / 10 months ago

特別リポート:フィリップモリス、加熱式たばこiQOSの販売戦略

[東京/テルアビブ/ボゴタ 27日 ロイター] - 東京銀座の高級店が並ぶ一角、華やかなティファニーとカルチェの店舗の近くに、iQOS(アイコス)という新型デバイスを求める人たちが、商品を購入できるショップがある。この店舗は、ハイテクな外観と会員制クラブのような雰囲気を兼ね備えた空間だ。入口で若い女性スタッフが、会員制の喫煙ラウンジが2階にございます、と案内してくれた。

 12月27日、東京銀座の高級店が並ぶ一角、華やかなティファニーとカルチェの店舗の近くに、iQOS(アイコス)という新型デバイスを求める人たちが、商品を購入できるショップがある。写真は銀座で18日撮影(2017年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

デバイスのキャッチコピーは「This changes everything (これがすべてを変える)」。鮮やかな緑と青のハチドリが羽ばたく写真が使われている。商品名に使われている小文字の「i」、商品が入ったシンプルな白い箱――これらは米国のテックジャイアント、アップルのマーケティングとデザインを想起させる。

しかしこのデバイスを販売しているのは、大手たばこ会社フィリップモリスインターナショナル(PMI)(PM.N)。そしてこれはスマートフォンではない。

iQOSとは、たばこを燃焼させずに加熱する加熱式たばこと呼ばれるもの。ニコチンを含む蒸気が発生する。30億ドル超を投資して新世代の喫煙具を開発した世界一のたばこ会社PMIは、この製品は社運を賭けたものだとしている。

関連記事:加熱式たばこiQOS、臨床試験に科学者が問題点を指摘

PMIは、たばこを燃焼しないことで、従来の紙巻きたばこより発がん性物質のレベルが低減されるとしている。まだ初期段階にあるが、販売は順調だ。前四半期の売り上げは10億ドル弱、前年同期は約2億ドルだった。

最新テクノロジーを搭載した健康被害の少ないたばこ、という新たな概念で消費者の関心を引くことは、iQOSの急成長にとって必要だった。しかし消費者だけがターゲットだったわけではない。政府関係者、業界団体らのインタビューから、どのようにして同社が、政府が規制のハードルを上げる前にこの新製品の利点を各国当局に売り込もうとしているかが明らかになった。

主要な目的は、政府にiQOSの利点を認めさせ、これまでたばこに課されたと同様の税率や規制を、iQOSには適用させないようにすることだ。

同社は、iQOSはタバコ葉を使っているが、燃焼させたり煙を出さないので、たばこ製品に分類されるべきではない、という新たな論法を打ち出した。

日本では、政府関係者に科学的根拠を示して、結果としてたばこより税率が低くなる形に分類するよう働きかけた。イスラエルでは、政府高官にiQOSの利点を説明するため同社幹部が飛行機で訪れた。コロンビア保健省は、フィリップモリスは許可を申請せずに製品を発売したとしている。

アプローチの概要は、ロイターが入手した同社の内部資料に記されている。

iQOSは「『喫煙するものではない』という証明が、最も重要な要素だ」。iQOSと他の新型たばこに関する2014年のパワーポイントの資料にはそう記されている。

この資料は、ロイターがすでに報道している。

https://www.documentcloud.org/public/search/projectid:%2033738-the-philip-morris-files

<従来のたばこに代わる製品に>

従来のたばこ会社、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BATS.L)と日本たばこ産業(JT)(2914.T)も、似たようなデバイスを発売している。しかし、iQOSの世界市場での売り上げには遠く及ばない。

PMIのアンドレ・カランザポラスCEO(最高経営責任者)はiQOSに大きな期待をかけている。メディアのインタビューで、彼自身、iQOSを使用していることを明らかにし、2016年9月の投資家との会合で、同社が「リスクを低減する可能性のある製品(reduced-risk product=RRP)」と呼ぶ新たなたばこのカテゴリーにおいて、「誰もが認めるリーダーになることを目指す」と述べた。ゴールは、RRPを最終的に従来のたばこに代わる製品にすることだと語った。

フィリップモリスは現在、米食品医薬品局(FDA)にiQOSを健康被害の少ないたばことして販売するための申請を行い、承認を待っている。ロイターの取材では、同社の臨床試験を担当した医師の一部にトレーニングやプロフェッショナリズムの点で不備があったと元社員や契約者が指摘している。

フィリップモリスは、iQOSを売り出す最初の市場として日本を選び、2014年後半に発売した。もし日本のような「優先的」市場で目標を達成できれば、「他の国にも良い基準」を提供できるだろう、と2014年の同社のRRPに関するプレゼンテーションで述べている。

同社は新製品を、意外な場所で発表した――太平洋側に港湾を持つ都市、人口200万人強の名古屋。トヨタ自動車の本社の近く、高層ビルと自動車生産工場の町。東京ほどの喧騒はなく、京都のような観光地でもない。

当初は低調なスタートだった。2015年6月付の同社の社内向けアジア地域報告では、日本市場に関する概要の最後にiQOSの販売数値が掲載されている。5月の売上高は、1月と比べ40%減となっていた。

フィリップモリスは2015年9月に販売地域を拡大した。10月の日本事業向け社内ニューズレターで、RRP担当幹部アショク・ラモハン氏は社員に対し「iQOS市場を作り上げるには時間がかかる。LAS(legal-age smokers)への浸透が必要」と指摘している。

都内で11月撮影(2017年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

<きっかけはTV番組「アメトーク」>

2016年前半までに、iQOSに関する話題は広がっていった。1つのきっかけは、日本のお笑い芸人だった。同年4月、人気のある芸人6人が「アメトーク」という番組に出演、司会がたばこについて話し始めると、フットボールアワーの後藤輝基が赤いiQOSを手に取って見せた。

「蒸気のようなものが口から出ているんです。煙が出ているわけじゃない」。他の5人の芸人も色鮮やかなセットの前で、それぞれiQOSを手に持って掲げた。

後藤は、使い始めた理由として妻が家の中でたばこを吸わせてくれず、外で喫煙しても近所の人が嫌がるからだ、と説明した。

もう1人の芸人、後藤の後ろに座るインパルスの板倉俊之は、公共の場でのiQOS使用について、周りの人にも「害がないらしいです」と話した。

この日、日本語の「アイコス」という言葉が、グーグル検索で急上昇した。

後藤と板倉が所属するタレント事務所の吉本興業はロイターの取材に対し文書で「フィリップ・モリス社、またフィリップモリス関連会社から一切協力費は頂いておりません」と回答した。放映したテレビ朝日は、放映の前後に、フィリップモリス社との接触はない、としている。

このテレビ番組での後押しは、フィリップモリスがiQOSの認知度を上げるために、ソーシャルメディアを使おうと取り組んでいる時に起こった。

「That IQOS moment.」「My IQOS way of living.」これは同社のソーシャルメディア対策チームがオンライン上でのiQOSの露出頻度を上げるため、使用を検討していた2つのキャッチフレーズだ。これは「コンフィデンシャル(部外秘)」と記された2017年の同社の戦略資料に書かれている。ここでは日本での例が示されている。

これとは別の、2016年のソーシャルメディアチーム向けの54ページにわたるトレーニングハンドブックでは、ネット上への投稿は非常に危険な綱渡りになり得ると警告している。「たばこ会社がソーシャルメディアで製品を宣伝することは法律で禁じられており、iQOSはたばこを使った製品であることから、常に地雷に気を付けて歩く必要がある」。

一般の人の目にはつかないところでは、フィリップモリスの社員がiQOSに関する同社の科学的検証を説明した資料を持って、日本中の自治体政府を訪問していた。iQOSの税率をたばこより低くし、公共の場所や飲食店での喫煙禁止条例の対象からiQOSを外すよう働きかけていた。

東京都議会議員で弁護士の岡本光樹氏(都民ファーストの会)は、東京都が国とは別に制定を検討している受動喫煙防止条例の対象から、iQOSは外れる可能性が高いとみている。「個人的な考えとしては、法律家として、科学的に健康被害のエビデンス(証拠)がないものに関して罰則をかけるのは、抵抗がある」と同氏は話した。

コロンビア首都ボゴタで9月撮影(2017年 ロイター/Duff Wilson)

<イスラエル、突然の方向転換>

これまでに公表されたiQOSに関する科学的な検証は、その多くがPMIによるものだ。複数の同社幹部は、この製品は、どうしても喫煙を止められない人に向けて作られたものだとしている。しかし同社がiQOSを発売した国・地域をみるとこの説明は整合性に欠ける。

PMIは、たばこの販売がすでに急減、言い換えれば禁煙する人が増えている国でiQOSを販売している。たばこの世界販売は、2005年から2016年の間に、1.9%減少した。一方iQOSが販売されている30カ国では、同30%の減少となっている。(ユーロモニター・インターナショナルの数字に基づくロイターの分析による)

PMIはiQOSが発売されている国には、1億8000万人以上の喫煙者がいるとし「この1億8000万人は、従来の紙巻きたばこより害の少ない可能性のある製品に移行するチャンスを与えられるべきだ」とコメントした。

科学的データで政府を説得して税率を下げるよう働きかけるという日本での戦略をさらに磨き、同社は新たな市場を席巻する準備を整えた。

イスラエルでiQOSを発売する半年以上前、PMIのRRP担当バイスプレジデントのモイラ・ギルクリスト氏は空路でイスラエルを訪れ、同社の科学的検証について説明するため、2016年3月に政府の保健省関係者と会った。

会合の数週間後、保健省のItamar Grotto氏は税務当局に書簡を送り、iQOSについて、新たなカテゴリーに入る製品であり、たばこにかかるマーケティングおよび広告規制の対象から除外される、との見解を示した。その後の裁判資料でPMIはこの書簡をiQOSのイスラエルでの販売を決めたことの説明として引用した。

なぜiQOSがたばこ規制の対象から除外されると話したのか、との質問にGrotto氏はロイターに対し、保健省は数年前に、電子たばこ会社との裁判で負けたため慎重になっている、と答えた。同氏はまたiQOSに対する規制問題について、当時は「理論的」だと考えたと語った。PMIの説明で、欧州か米国の規制当局から承認されるまでは、イスラエルでの発売はしない計画だと理解していたという。

Grotto氏の発言についてPMIは文書で「われわれは、PMIが外国の規制当局の承認を待つとは述べていない」とした。

イスラエルでは、iQOSは障害に直面していた。今年3月、Shabi Gatenio氏という活動家をリーダーとするグループが、保健省とPMIに対し、iQOSを従来のたばこと同じマーケティング規制を課さずに販売することをめぐり、裁判を起こした。イスラエル国内のたばこ会社も、政府とPMIに対し、同様の裁判を起こした。

テルアビブで行われたインタビューで、Gatenio氏は、PMIのリーチとアクセスの強さに驚かされたと語った。同氏が裁判所に訴えを起こしてから2時間半もしないうち、公表する前に、同氏はPMIのロビイングを担当するPolicyという会社の幹部であるErez Gil-Har氏からテキストメッセージを受信したという。ロイターが確認したそのメッセージは、Gatenio氏が、イスラエルの国内たばこ会社の「手先」として使われていると非難するものだった。Gatenio氏はこれを否定した。

Gil-Har氏は、コメントを拒否。指摘された国内たばこ会社Dubekもコメントを拒否した。

裁判所の判決が出る前に、保健省はそれまでの姿勢を一転させ、iQOSを従来のたばこと同じに扱う方針を示した。同省は米国の食品医薬品局(FDA)がどのようにiQOSを規制するかを見て、この決定を再検討する予定だとしている。

突然の方針転換は、PMIに混乱をもたらした。このことに詳しい政府関係者によると、PMIは20数人の女性スタッフを雇い、ある仕事にあたらせた。それは、テルアビブ近郊の倉庫で、手作業で何千箱ものiQOSのヒートスティックのパッケージからラベルを剥がし、より目立つ健康被害の警告に貼りかえるというものだった。その後、パッケージは出荷された。

都内で11月撮影(2017年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

<コロンビア、デバイスは規制対象外>

遠く離れたコロンビアでは、PMIは今年3月にiQOSの発売を開始した。音楽フェスティバルの会場では、白いバルーンが上げられ、そこには鮮やかな青と緑で「iQOS」の文字が目立っていた。

中南米で最初にiQOSが発売されたコロンビアでは、たばこの広告と販売促進活動は法律で禁じられている。保健省関係者によると、PMIは法律に則ってヒートスティックの販売の承認を得ることなく、iQOSを発売したという。

保健省の高官Jose Fernando Valderrama氏は「この製品はたばこから派生したものであり、保健省による事前審査が必要だ」と述べた。

PMIは、コロンビアの法律に従っている、との立場だ。12月7日付の文書で同社は、毎年11月の同省によるたばこに関する警告を受けて、たばこの承認を申請する必要があるとし、「来月に」それをするつもりだ、と回答した。

コロンビアの首都ボゴタでは、数カ月前、街中のレストランの前でiQOSが販売されている場面が見られた。鮮やかなパッケージに入ったヒートスティック、ハチドリのエンブレムが歩道にディスプレーされていた。トレンディな一角、スターバックスとアップルショップの隣に、「iQOSブティック」の看板がかけられ、開店の準備が進んでいた。

ボゴタのPMI元社員は、PMIとしては、iQOSのデバイスそのものにはたばこは含まれていないため、iQOSはマーケティング規制にはかからないとの立場をとっている、と話す。

PMIはそういった立場をとっていることを認め、iQOSは電子デバイスなので、「それ自体は、現在の法律では、たばこ製品としての販売規制は受けない」としている。

日本では、iQOSの販売はすでに始まっている。PMIはiQOSのヒートスティックは第3・四半期の日本のタバコ市場の11.9%を占めるとしている。前年同期は3・5%だった。

税率が紙巻きたばこより低いことを考えると、同社の収益に与える影響はさらに大きなものとなる。iQOSのデバイスは、日本では1万1000円程度で売られている。PMIによると、日本のたばこは60%の税率がかけられており、マールボロとほぼ同じ価格で販売されているiQOSのヒートスティックの税率は51%だ。

イスラエルのテルアビブで11月撮影(2017年 ロイター/Amir Cohen)

<PMJ社長、元厚生労働大臣政務官を訪問>

PMIは休むことを知らない。同社の日本法人フィップモリスジャパン(PMJ)のポール・ライリー社長は今年1月、元厚生労働大臣政務官で、厚生労働政策に影響力を持つ高階恵美子参院議員(自民)の事務所を訪問した。議員会館7階の事務所では、動物のぬいぐるみや健康食品を推進するグループのポスターが飾られていた。

高階氏によると、会話の中でライリー氏はiQOSについて説明したという。後日事務所に送られてきた資料には、iQOSは有害物質のレベルを従来のたばこと比べて90%以上低減する、と示されていた。

ロイターが高階氏を8月にインタビューした際、ライリー社長のメッセージは同氏にしっかりと命中していたようだった。

もしPMIの主張する科学的根拠が実証されれば、と高階氏は話す。「そのことを(国民に)きちっと伝える努力をしていかなければいけない」。

*見出しを修正して再送します。

翻訳:宮崎亜巳 編集:石田仁志

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