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特別リポート:米国の死体市場、売られた部位が語るドナーの悲劇
2017年11月3日 / 00:01 / 12日後

特別リポート:米国の死体市場、売られた部位が語るドナーの悲劇

[タウンセンド(米テネシー州) 25日 ロイター] - コディ・ソーンダースさんは1992年、心臓には穴が開き、腎臓は機能していない状態でこの世に生を受けた。複数の先天異常を発症する難病「ヴァーター症候群」と診断された。

 10月25日、ロイターは、米国でいかにたやすく遺体の一部が売買され、それらが医学研究に有用かどうかを検証しようとしていた。入手した部位の1つが、生まれつき難病を患い、24歳の若さで亡くなったコディ・ソーンダースさん(写真)のものであることが分かった。テネシー州で7月撮影(2017年 ロイター/Wade Payne)

コディさんは24歳の誕生日に亡くなった。生前、66回の手術と1700回を超える透析治療を耐え抜いた、と両親は語る。フェイスブックに陽気なセルフィー(自撮り)写真を掲載し、苦しみを隠す日もあった。また、胸の傷に包帯が巻かれた姿で病院のベッドでポーズを取り、耐え難い現実を共有する日もあった。

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コディさんは米テネシー州のキャンプ場で、年季の入ったトレーラーハウスに両親と一緒に暮らしていた。2016年8月2日、コディさんは、透析から帰宅する途中で心臓発作を起こし亡くなった。貧しくて埋葬も火葬もできず、両親は息子の遺体を「リストア・ライフUSA」という団体に提供した。この団体は、献体を丸ごと、あるいは部分的に研究者や大学、医療研修施設などに売っていた。

「他に何も手立てがなかった」と、コディさんの父親リチャードさんは語る。

コディさんが亡くなったその月に、リストア・ライフは彼の頸椎を売った。数回のメールのやりとりを経て、300ドル(約3万4000円)と送料だけで取引は成立した。

リストア・ライフが顧客を厳しく審査しているかは不明だ。だが、同社の従業員が顧客の身元をしっかり確認していたなら、頸椎を買ったのがロイターの記者だと分かっただろう。

ロイターは、いかにたやすく遺体の一部が売買され、それらが医学研究に有用かどうかを検証しようとしていた。頸椎のほか、ロイターはその後、リストア・ライフから人の頭部2つを購入。価格はそれぞれ300ドルだった。

こうした取引は、米国で人間の体の一部が驚くほど簡単に売買されている現実を浮き彫りにしている。販売も輸送も全く違法ではない、とこの問題に詳しい弁護士や専門家、政府当局者は言う。移植用の臓器を売ることは違法だが、研究・教育目的で体の一部を販売することは、ほとんどの州で全く合法だという。通常は年齢確認が必要なインターネットでのワイン購入の方が厳しく管理されている。

法的かつ倫理的に、そして安全面を考慮するため、ロイターは購入前にミネソタ大学メディカルスクールで献体プログラムの責任者を務めるアンジェラ・マッカーサー氏に助言を求めた。同氏は直ちにロイターが購入した頸椎と頭部を預かり、同スクールで保管して検査を行った。

いとも簡単に遺体の一部を買うことができ、リストア・ライフが適切な配慮を怠っていることに困惑している、とマッカーサー氏は話す。

「まるでワイルドウエスト(開拓時代の米西部)のようだ」と同氏は言う。「誰もがこのような検体を注文でき、目的が何であれ、自宅に配送してもらうことができるなんて」

マッカーサー氏は、医学的研究に有用か調べるため、遺体の一部と同梱されていた書類を検証した。同氏の検証は、米国組織バンク協会などのために自身がドラフト作成に関わった安全と倫理基準に基づいて行われた。

その結果、リストア・ライフが提供する遺体の病歴は不十分であり、書類はずさんで不適切だと、マッカーサー氏は結論付けた。このような理由から、同社が販売する検体は、マッカーサー氏の大学の使用基準を満たしていない、としている。

「これほどひどいのは初めてだ」とマッカーサー氏は言う。「このような状況では、将来のドナーや献体への信頼性について心配になる」

<敬意と尊厳>

ロイターは購入から数カ月後、リストア・ライフのジェームズ・バード社長にコンタクトを取った。社長は経営方針について、次のように簡単に説明した。

「ドナーの家族と直接コンタクトを取るため、われわれのような団体は特に責任があると考えている。個人的な関係を築くため、そこにはある程度の敬意と尊厳がある」

バード社長はその後、取材や書面での質問に答えることを拒否するようになったが、ロイターによる購入を批判する内容のメールを送ってきた。

「われわれの団体に助けを求める人たちに、トムソン・ロイターの取材チームが関心のないことは明らかだ。最も助けを必要としている人たちを傷つけたいだけだろう」

リストア・ライフは、がんや認知症や他の疾病の治療薬を開発する研究者に遺体の一部を供給するという良い仕事をしている、と社長は付け加えた。

「さまざまな研究において、世界的に有名な研究者たちに協力することにより、われわれは数えきれないほと多くの人たちの助けとなっている」

遺体の一部を供給することにより、リストア・ライフがどのような「良いこと」を成し遂げたいのかはさておき、同社の遺体の扱いは「どうしようもなく劣悪」で、研究者の役に立ったり、コディ・ソーンダースさんと同社がロイターに販売した頭部2つの持ち主である不特定の男女に報いたりすることはできないと、マッカーサー氏は指摘した。

<頸椎を注文>

2016年8月29日、ロイターのブライアン・グロウ記者はメールで、リストア・ライフのバード社長に問い合わせた。当時、ロイターはコディ・ソーンダースさんについて全く知らなかった。

問い合わせには、記者は実名とトムソン・ロイターのメールアドレスを使用した。

「非移植用の組織に関する研究プロジェクトのため、頸椎1個を欲しいのですが、送料を含む価格を教えてください」と、記者はメールで問い合わせた。「非移植用の組織」とは、生きている人間に移植できない頭部や脊椎など体の一部を指す。

 10月25日、ロイターは、米国でいかにたやすく遺体の一部が売買され、それらが医学研究に有用かどうかを検証しようとしていた。入手した部位の1つが、生まれつき難病を患い、24歳の若さで亡くなったコディ・ソーンダースさんのものであることが分かった。写真はコディさんの両親。テネシー州で7月撮影(2017年 ロイター/Wade Payne)

記者が送ったメールには、ミネソタ州ミネアポリスの送付先が記されていた。ミネソタ大学メディカルスクールの研究施設から数キロの場所にある住所である。

バード社長は約1時間後、「ご連絡ありがとうございます。過去にご注文いただいたことはありませんね。私どもをどのようにお知りになりましたか」と返信。

それに対し記者は「ある業界関係筋から聞きました」と答えた。

バード社長は、椎骨と組織を含む頸椎全体が欲しいかと尋ねた。そうだと答えると、価格は300ドルで、送料が別途150ドルだと述べ、24歳の男性のものだとするレントゲン写真をメールに添付してきた。3日後、記者は注文した。

<息子の運命>

コディさんの両親、リチャードさんとアンジーさんのソーンダース夫妻は、コディさんを近くの墓地で親族が眠るそばに埋葬したかったと話す。だが、文字を読むにも苦労するリチャードさんの月収は、わずか900ドル程度。長いあいだ不安障害に苦しむアンジーさんは、働くことも運転することもできない。埋葬の費用はただひたすら高すぎた。

友人たちが、通常は少なくとも695ドルする火葬費用を出すと申し出てくれた。しかし夫妻は知り合いから施しを受けることに気がとがめた。そこで、リストア・ライフにコディさんの遺体を提供することにした。同社が無料で火葬してくれることを、当時はありがたいと思っていた、とリチャードさんは言う。

献体してから数週間後、リストア・ライフから男がコディさんの遺灰の入った骨つぼを届けに来た。アンジーさんは男の名前は思い出せないが、親切だったと話す。

「とても感じが良く、思いやりがあった」

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ボディーブローカー業界の慣例に倣い、リストア・ライフはロイターのグロウ記者に売った遺体の一部を提供したドナーの名前は明かさなかった。教えたのは、年齢と死亡月日だけだ。

ロイターは購入した頭部の身元を特定できなかった。だがコディさんの場合は、24歳と若すぎる死であったため、南部各州における死亡記事の検索から身元を突き止めることができた。

ソーンダース夫妻の許可と協力を得て、ロイターはDNA鑑定を法医学研究所に依頼。ロイターが手に入れた頸椎はコディさんのものと確認された。

8月後半、記者はソーンダース夫妻を再び訪れ、リストア・ライフがコディさんの遺体を切断し、脊椎の一部を売っていたというロイターが得た情報を伝えた。

夫妻はしばらく沈黙した。

アンジーさんは遠くを見つめていた。リチャードさんはうつむいていた。

それからアンジーさんが口を開いた。

「皮膚のサンプルを取るだけだと思っていた」と語り、涙を流した。

リチャードさんは「終わったことだよ」と言って、アンジーさんを慰めようとしていた。

「もう手術はまっぴらなのに」とアンジーさんは語った。

2人は30秒ほど沈黙したのち、リチャードさんはアンジーさんの方を向いて「もう終わった」ことだと言った。

コディさんの遺体が切断されると知っていたら、献体しなかったと2人は言う。コディさんは短い人生のあいだで、すでにあまりに多くの手術に耐えてきたと感じていたからだ。亡くなったコディさんが、誰かに「切られる」ことは望んでいなかったし、思いもよらなかった、とリチャードさんは語る。

その一方で、「他に手立てがなかった。自分たちにとって(献体が)最もベストな選択肢のように感じた」という。

リチャードさんは、リストア・ライフがコディさんの体の他の部分も使っていたかどうか記者に尋ねた。記者は分からないと答えた。ブローカーは普通、そうした情報は公開しない。リストア・ライフに回答を求めることはしないだろうと、リチャードさんは言う。

「彼らを責めたりはしない」とリチャードさんは語り、コディさんの遺体に何が起きたか教えてくれたことに対し、記者に感謝の意を述べた。「知る由もなかったことだから」

アンジーさんも「手掛かりすらなかったでしょう」と語った。

今月、ソーンダース夫妻の希望に従い、ロイターが費用を負担してコディさんの頸椎をミネソタ州で火葬した。記者はテネシー州の自宅にコディさんの遺灰を届けた。

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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