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焦点:スリランカ経済危機、家族頼れずホームレスになる高齢者も

[コロンボ 8日 トムソン・ロイター財団] - スリランカの最大都市コロンボで料理人として働いていたキリ・バンダさん。引退後は息子とともに和やかな老後を過ごしたいと願っていた。だが昨年、バンダさんの医療費が家計を圧迫するようになり、家を出る決意を固めた。

 スリランカの最大都市コロンボで料理人として働いていたキリ・バンダさん。引退後は息子とともに和やかな老後を過ごしたいと願っていた。だが昨年、バンダさんの医療費が家計を圧迫するようになり、家を出る決意を固めた。 写真はバンダさん。コロンボの公園で1月撮影(2023年 ロイター/Thomson Reuters Foundation/Piyumi Fonseka)

「重荷になりたくなかった」とバンダさんは言う。日中は物乞いをしたり食べ物を探したりして過ごし、夜は公園のベンチで眠る。

昨年、スリランカが1948年の独立以来最悪の経済危機に転落して以来、こうした光景がますます当たり前になってきている。食料品の価格は高騰し、医薬品や燃料は品薄となり、怒りに満ちた抗議行動が発生している。

84歳になるバンダさんは、路傍に座って通行人が小銭を恵んでくれるのを待ちながら、「若い世代にとってもスリランカで生きていくのは困難だ。まして、私たちのような高齢者はどうなる」と語る。

政府は国際通貨基金(IMF)から29億ドル規模の金融支援を確保することを急いでいるが、ウィクラマシンハ大統領は支援が少しでも遅れればスリランカはまた急激な転落に見舞われると警告している。

経済危機によって、現実的な痛みを味わっているのが高齢者だ。伝統的にスリランカにおける高齢者介護は家族頼みの部分が大きいからだ。

高齢で退職した人の多くは年金を受給しておらず、すでに高齢者の生活を支える余裕を失った家庭も現われている。

また、高齢者は医薬品の不足や政府の福祉予算の縮小という状況にも直面している。たとえば、コンタクトレンズの無料配布や自営業者向け金融支援といった制度は中断されているが、どちらも特に高齢者層を対象とした仕組みだった。

高齢者のための福祉制度を主管する政府機関である国家高齢者事務局のK・G・ラネロール局長は、65万人以上を対象に毎月の臨時手当などの支援を実施していると語る。

同局長は「スリランカの高齢者の福祉と安全の確保が単一の機関に集中していることは、今般の経済危機の中でリソースが限られていることを思えば、大きな課題となっている」と述べた。

<高齢化の進行>

島国であるスリランカは、南アジア地域では最速のペースで人口の高齢化が進んでいる。

世界銀行によれば、同国の人口約2200万人のうち、すでに約16%が60歳以上だ。2041年までにその割合は4人に1人に増えるという。

「高齢者人口の増加は、もはや社会問題と呼べるレベルとなっている」とラネロール局長は言う。

この国には、すべての国民を対象とする年金制度は存在しない。

特に非公式セクターの労働者の場合は、複数の制度の対象範囲や利用資格からこぼれ落ちてしまう状況があり、脆弱(ぜいじゃく)な立場にある高齢者の多くが無収入となっている。

年金制度の対象外となっている1人が、かつて実験担当者として働いていたS・D・プリヤダサさん(82)だ。

貯蓄はとうの昔に尽きた。糖尿病により一方の足に生じた潰瘍の治療のために大半を使ってしまったからだ。

プリヤダサさんは毎月9キロメートルの距離を歩き、コロンボ郊外のマウント・ラビニアに暮らす旧友のもとを訪れて5000ルピー(約1800円)を受け取り、寡婦となった障害者の妹と、その幼い子どもたちと分け合う。

「1日1回しか食べないこともある」とプリヤダサさん。

「妹と私が何よりも気にしているのは、彼女の子どもたちの健康と教育だ。まだとても幼い。私の命がある間は、子どもたちが私たちよりましな人生を送れるようにと何とか頑張っている」

ミルラン・ペイリスさんとアイリーンさんの姉妹は、2人とも70代前半だ。より経済的に余裕があるきょうだいから、毎月7000ルピーの仕送りを受けている。

だがインフレの進行により、今やこの金額では寝室1つのアパートの家賃を払うので精一杯だ。

彼女たちも、毎日2キロもの距離を歩き、国際慈善団体ヘルプエイジが運営する高齢者向けのデイケアセンターに通っている。ここに行けば、食事は全て無料で振る舞われる。

「かつては衣料品工場で働いていた。これまでずっと、自立した女性として生きてきた。物乞いはしたくない。でもこうした支援もいずれ終わってしまうのではないかと心配している」とアイリーン・ペイリスさんは言う。

<ニーズの増大>

慈善団体は、支援要請は驚くほど多いと話す。

ヘルプエイジのスリランカ支部でエグゼクティブ・ディレクターを務めるサマンサ・リヤナワドゥゲ氏によれば、同国経済の状況が急速に悪化して以来、食料その他の支援を求める高齢者からの要請が明らかに増加しているという。

ヘルプエイジでは移動可能な医療機器や在宅介護サービスを提供してきたが、国家がもっと動かなければならないと主張している。

「私たちは、政府が果たすべき役割を演じるよう求められている。最善は尽くしているが」とリヤナワドゥゲ氏は語った。

国家高齢者事務局を擁する社会参加促進担当省にコメントを要請したが、今のところ回答は得られていない。

現在の危機の中で、やむにやまれぬ選択に追い込まれた1人が、シングルマザーのニシャンティ・フェルナンドさんだ。

フェルナンドさんはコロンボ市の南にあるタルピティヤという街で小さな食料品店を営んでいる。その収入で、12歳になる自閉症の息子と67歳の父親との生活を支えている。夫は家を出ていき、金銭的な支援は何もしていない。

フェルナンドさんは昨年、自分のわずかな収入ではもはや2人を養っていくことはできないと悟った。特に、父親の医療費は上がり続けている。

「恐怖を感じた。選択肢は2つしかなかった。自分が潰れてしまうか、父親に出ていってもらうか」とフェルナンドさん。ストレスのあまり自殺も考えたという。

「息子には私しかいない。だから、父に高齢者施設に行ってくれと頼むしかなかった」

フェルナンドさんは慈善団体が運営する施設のコストを賄うため小額の料金を払い、できるかぎり父親の面会にも足を運ぶ。

「もし給料のいい仕事に就いていたら、赤の他人が介護するような施設に父を送り込むことはなかった」とフェルナンドさんは言う。

「でも今は、高齢者施設もそれほど悪くないことが分かった。私にはできない世話をしてくれるだろう」

(Piyumi Fonseka記者、翻訳:エァクレーレン)

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