March 10, 2020 / 6:25 AM / in 4 months

焦点:株急落で消えた「日本売りの円安」、円暴騰の舞台裏

[東京 10日 ロイター] - 3年4カ月ぶりの高水準となる101円台まで円が急騰した9日、金融市場では奇妙な安ど感が広がった。リスクオフ時に「日本売り」の色彩を帯びた円安が発生する可能性が警戒されていたためだ。急激な株安が投機的な円売りポジションを巻き戻させ、旧来通りの円高が進んだが、円を巡る構造が変化する中、懸念はくすぶっている。

 3月10日、3年4カ月ぶりの高水準となる101円台まで円が急騰した9日、金融市場では奇妙な安ど感が広がった。写真は都内で10日撮影(2020年 ロイター/STOYAN NENOV)

<株安イコール円高に大きな疑問符>

米10年債利回りが過去最低の0.3%台、原油先物は31%安、米株式市場では金融危機以来の緊急取引停止措置となるサーキットブレーカー発動と、目を疑うようなニュースが相次いだ9日から一夜。10日の東京市場では、一時800円超下落した日経平均がプラス圏へ反発、ドルも104円台まで切り返すなど、とりあえず動揺は一服となった。

前日までの円暴騰は、新型コロナウイルスの感染拡大と原油価格の急落が主因とされる。だが、この動きには円相場固有の重要な伏線があった。一時112円台まで進んだ円安だ。

話は2月半ばまでさかのぼる。ウイルス感染者数の増加が株価の重しとなり始め、日経平均が続落し始めたにもかかわらず、ドルはほとんど反応を見せることなく、109円台で一進一退が続いた。下値で国内投資家が買いを入れているとのうわさは出回っていたものの、株安を見事なまでに素通りする円の安定ぶりに、首をかしげる参加者は少なくなかった。

そして2月19日。前日に日経平均が直近高値から900円近い水準まで下げたにもかかわらず、円は夕方からじりじりと下落し始め、翌20日の海外で112円台と10カ月ぶり安値をつける。リーマンショック後の金融緩和環境下でセオリーとなった株安は円高、という円相場の構造に、大きな疑問符がついた瞬間だった。

<円キャリー需要減、円買い機運も退潮>

その後発表された国際収支などで、2月は国内の年金資金が2兆円超の大規模な外債投資を行ったことが明らかとなっている。しかし、それだけで1日の取引高が89兆円(8710億ドル・国際決済銀行調べ)に達するドル/円を上昇させるのは困難。市場では「リスクオフはもはや円高ではなく、ウイルスの感染拡大や成長率低下といった日本の悪いニュースで、円が売られているのではないか」(トレーダー)との声が飛び交った。

リスクオフの円高に疑念が生じたもうひとつの要因は、円調達のキャリートレードが下火となったことにある。低金利通貨を調達して高金利通貨で運用し、金利収入を狙うキャリートレードを、円と同じくマイナス金利が長期化するユーロで行う動きが海外勢の間で始まったのだ。[nL4N2AK10X]

そもそも、世界経済の成長を損なうようなニュースが出ると円高になるのは、グローバル投資家が持ち高を圧縮してリスク量を絞り込む過程で、キャリートレードの手じまいで円を買い戻す動きが相次ぐためとされる。つまり、キャリートレードに伴う売りが出ないのなら、買い戻す必要も当然なくなり、それに追走する投機的な円買いの機運も低下する。

実際、ユーロは2月下旬にほぼ3年ぶり安値となる1.07ドル台へ下落した後、世界的な株安が加速すると、買い戻しが一気に活発化。前日海外で1.14ドル台と、2週間半で700ポイント超の上昇を見せた。イタリア全土に移動制限がかかり、欧州の国債や銀行債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が急上昇していることなど、お構いなしだ。

<「買われるうちが華」>

少なくない参加者が「リスク回避の円高」終焉の可能性に賭けていた様子もうかがえる。米商品先物取引委員会(CFTC)がまとめたIMM通貨先物の非商業(投機)部門の取組状況によると、2月25日までの1週間に円は、差し引き5万枚超へ売り越し幅を拡大。日経平均が4カ月ぶり安値を更新する中、円売りポジションは昨年半ば以来の高水準へ膨らんでいたのだ。

しかし、こうした「円相場の構造変化の可能性」をにらんだ円売りは、株安が加速する中で次第に失速。強制的な買い戻しを執行する大量のストップロス注文は、たった1日で円が4円超上昇する土壌を作り、今回はリスク回避が円高につながるセオリーを確認する結果となった。

ドルは前日の海外市場で101.18円と3年半ぶり安値を更新した後、きょうにかけて104円台へ反発した。日銀がレートチェックに動いたとのうわさが出回ったことなどをきっかけに買い戻しが強まった形だが、日本売りの円安が一時現実味を帯びた市場では、相変わらず通貨高を嫌う当局の姿勢に「買われるうちが華なのに」(外銀幹部)と、冷めた声もこぼれる。

新型ウイルスの急拡大という未曽有の事態が、世界経済に与える影響は依然未知数。円相場も見通しづらいが「当面は100円割れを含めて下値警戒を続けたい。5日移動平均線が走る104.70円前後の回復が底入れの最低条件」(シティグループ証券チーフFXストラテジストの高島修氏)になるという。

(編集:石田仁志)

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