July 19, 2018 / 6:33 AM / 3 months ago

コラム:高まる貿易戦争リスク、落ち着き失わない市場の謎

[ロンドン 18日 ロイター] - 世界的な貿易戦争が本当に起きれば、金融市場は大きな打撃を被って株式その他の資産価値が数兆ドル単位で消滅する恐れがある。そうした事態が現実化する可能性が刻一刻と高まっているにもかかわらず、投資家が落ち着き払っているように見えるのは実に不思議だ。

 7月18日、世界的な貿易戦争が本当に起きれば、金融市場は大きな打撃を被って株式その他の資産価値が数兆ドル単位で消滅する恐れがある。ニューヨーク証券取引所で6日撮影(2018年 ロイター/Brendan McDermid)

ニュースの流れと市場の間には今、驚くべき相関関係が築かれつつある。つまり関税や対抗措置を発動したり、今後実施するとの報道が増えるほど、主要株価が上昇し、ボラティリティは下がっている。

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ(BAML)がまとめた最新の月例機関投資家調査によると、世界的な貿易戦争は単一のテールリスクとしては6年前のユーロ圏債務危機以降で最大とみなされているのに、実際の市場の動きは前述した通りなのだ。

世界中に保護主義がまん延していた1930年代などの過去の教訓をくみ取るなら、投資家は姿勢を低くして自身の資産を守るためにできることは全てするべきなのだが、現実には何も行動していない。

金融市場のボラティリティは低く、さらにじりじりと下がっている。これは投資家もしくは企業が、オプションを活用して株価や債券、為替の大幅な変動に対するヘッジをしようという意欲が乏しいことを意味する。

第2・四半期の米国債と主要通貨のボラティリティは、前年同期を下回った。米国株の場合、2月のボラティリティ・インデックス(VIX)高騰の余波があったため平均で前年同期よりも高くなったとはいえ、再び低下しつつある。

BAMLの最新調査結果は示唆に富んでいる。機関投資家の約6割は、貿易戦争が現在市場にとって最も大きなテールリスクだと回答した。これほど強いコンセンサスが形成されたのは、2012年以来という。

当時ユーロ圏は危機の真っ只中にあった。ようやく全面崩壊が避けられたのは、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁がユーロ防衛のために「何でもやる」と宣言したからだ。

ユーロ圏危機は2011─12年まで16カ月にわたって市場の一番のリスクだった。貿易戦争は今年4カ月間主要リスクとなってきており、投資家の視野に躍り出たのは今月になってから。とすれば事態が改善する前にもっと悪くなってもおかしくない。

そして世界貿易の枠組みは複雑なので、対応面でドラギ氏式に「何でもやる」のは不可能だ。もちろんトランプ米大統領が通商問題と「米国を再び偉大にする」方針に関して行った全ての発言を撤回することはできるが、すぐにそれが実現するという有力な証拠は見当たらない。

<鍵は成長率>

オックスフォード・エコノミクスのアダム・スレーター氏が注目するのは1930年代の動きだ。1929─32年に世界の輸出は30%も落ち込んだ。経済には順応力があるため、世界各国の合計国内総生産(GDP)の長期的な減少幅は懸念されたほどではなかったが、金融市場やコモディティ市場に及んだ悪影響の度合いは深刻だった。

世界の貿易システムはばらばらになり、その痛手は数十年続いた。各国が関税の壁を築き、金融市場と保護主義が相互に作用することで損害が増幅されたのだ。

現在の保護主義の動きは、1930年代と比べればずっと小さい。一方、当時よりも世界経済の貿易依存度ははるかに高まり、世界のGDPに占める貿易の割合は6割前後と1920年代終盤の3倍超に達している。

スレーター氏は「貿易摩擦が始まれば、エスカレートの期間は長くなりかねない。金融市場へのフィードバック効果は非常に大きくなる可能性を秘めている」と指摘した。

国際通貨基金(IMF)は今週公表した世界経済見通しで、「貿易」という言葉を26回も使用した。各国が今の通商政策だけなく、示唆している政策も全て導入したとすれば、世界のGDPは2020年までに想定より0.5%ポイント下振れする、とIMFは警告。米国経済は「とりわけ脆弱」だという。

しかし実にこの点に、市場が足元の貿易摩擦をさして重視していない理由がある。なるほど米国が中国製品に関税を課し、中国は通貨安を容認しているかもしれない。だがまだ経済成長は目に見える形で被害を受けていないのだ。

当のIMFでさえ、今年と来年の世界のGDP成長率は3.9%に達するという4月の見通しを変えていない。成長率と企業利益はこれまでのところ、苦境に置かれていない。

それでも米連邦準備理事会(FRB)の元エコノミストで、調査会社マクロポリシー・パースペクティブズの創設者兼社長を務めるジュリア・コロナド氏は「今の明るい経済見通しにとってリスクは下振れ方向ではないかと思う」と述べ、オーストラリア準備銀行(中央銀行)のロウ総裁の先月の発言を引き合いに出した。ロウ氏は「一国が障壁を築くことでより豊かになり、生産性の伸びを高められると考えることが果たしてできるだろうか」と保護主義に警鐘を鳴らした。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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