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〔焦点〕第3次世界同時株安、安全資産からの資金回帰には時間必要か

 伊賀 大記記者

 [東京 16日 ロイター] リーマン・ブラザーズLEH.Nの破たんは第3次世界同時株安を招いた。金融不安は世界に伝播し資金は債券など安全資産に逃避している。同時に世界的な景気後退懸念が強くなっており、株式などリスク資産に資金が回帰するには時間が必要との見方が多い。日本株は大きく下落したことで割安感が出ているとの指摘もあるが、円高や需要先の新興国経済減速の兆候が出ており、当面は不安定な動きが続くとみられている。

 <高をくくっていたマーケット>

 「予想外の破たんだった」(大手証券)──。前週末までマーケットはリーマンの破たんはないと高をくくっていた。

 サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)問題が世界の金融市場を大きく売り動かしたのは、これで3度目だ。昨年8月にフランスの大手銀行BNPパリバBNPP.PAが3つのファンドについて価格の算出を一時的に停止したことをきっかけに、世界同時株安の現象が起き、今年3月にはベアー・スターンズの経営行き詰まりで世界の株価が下落した。その都度、米政府は流動性の供給や受け皿作りなどに奔走し、危機を回避してきた。

 9月に米政府系住宅金融機関(GSE)2社への公的資金注入を決めたことで、経営不安がうわさされていたリーマンも、どこかの金融機関に買収されるか、もしくは公的資金が注入されると市場は踏んでいた。だが結果は受け皿が見つからず会社更生手続きとなる米連邦破産法11条の適用を申請。予想外の破たんに世界の株式市場は激震にみまわれた。

 米当局が「救済」を見送ったのは「市場で当然視されていた公的資金注入への注入期待に、歯止めをかけたかったということだろう」(大和証券SMBCグローバル・プロダクト企画部部長の高橋和宏氏)とみられ、モラルハザードの回避が目的との声が多い。

 ただ、その代償も大きく、15日の欧州株式市場に続き、米市場ではダウ.DJIとS&P.GSPC.SPXが2001年9月11日の世界同時多発攻撃の直後以来の大幅な下げとなった。休場明けの東京株式市場でも一時、日経平均が650円を超える大幅な下落となり、香港や韓国など他のアジア市場も軒並み株価が下落した。

 <次のリーマン探しには先手>

 とはいえ米政府が何もしなかったというわけではない。マーケットの不安に対し対応策も施している。週末にはバンク・オブ・アメリカ(バンカメ)BAC.NがメリルリンチMER.Nを買収すると発表。米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)AIG.Nは15日、流動性危機に対応するため複数の銀行と協議しているが、200億ドルの保険契約者の資産を担保に設定することをニューヨーク州当局から認められた。

 「今後想定される最も厳しいシナリオは、マーケットが『次のリーマン』を探すパターンだ」(クレディ・スイス証券チーフ・ストラテジストの市川眞一氏)とみられていたが、「標的」となりそうな企業への対応策を可能な範囲で打ち出した。

 だが、これで沈静化するほどマーケットの不安は小さくないのが現状だ。15日の東京市場では「マーケットはAIGの次を探しに行き始めた」(準大手証券トレーダー)との声が出るなど、「一段落」の感触とは程遠い。

 また、スタンダード・アンド・プアーズは15日、バンカメのカウンターパーティー格付けを1ノッチ引き下げた。メリル買収がバンカメの経営状態を一段と圧迫するというのがその理由だ。市場関係者の間では、バンカメがメリルの不良資産を引き継いで、体力をすり減らすことはないのか懸念する声も出始めている。

 <3月よりも景気後退不安は強まる>

 世界の資金は株式などリスク資産から債券といった安全資産に逃避。幸か不幸かリスクマネーは原油市場には向わず、懸念されていた原油高シナリオは現時点では回避され、1バレル=150ドルに向うとの予想が広まっていた3月とは、様相がかなり異なる。為替もドル/円JPY=では100円を割り込むほどの円高だったが、現在は104円前半と3月よりは円安水準だ。

 市場では「ファンダメンタルズからみれば、3月安値を割り込んでどんどん安値を付ける状況ではない」(外資系証券ストラテジスト)との声があるほか、「逆張りスタンスを取る個人投資家からの問い合わせが、支店に殺到している」(前出の準大手証券)との声も出るなど悲観一色というわけではない。株価下落で配当利回りなどからみた日本株の割安感は強まっているとの指摘もある。

 ただ一方で、3月と比べて世界的な景気減速感は強まっている。鉄鉱石や穀物などを運ぶばら積み船運賃の総合指数で、景気先行指数の1つであるバルチック海運指数.BADIは19日連続で低下。中国など新興国での需要に変化が出てきているのではないかと懸念されているほか、ユーロ安に象徴されるように欧州経済変調の兆しもある。

 クレディ・スイス証券の市川氏は、株式相場の転換点は11月以降になるとの見方だ。1)中間決算の発表時点で、名実ともに今期2けた減益が織り込まれること、2)解散・総選挙のイベントを終え、日本政府が本格的な経済対策を行うこと、3)米国の新大統領が、より抜本的な策を打ち出すとみられること、4)インフレ懸念の後退を受け、欧州中央銀行(ECB)が利下げを実施する可能性があること──などにより、11月中旬以降に相場の転換点が到来する可能性があるという。半面、それまでは不安定な株価の動きが続くとみている。

  (ロイター日本語ニュース 編集:田巻 一彦)

(daiki.iga@thomsonreuters.com;03-6441-1785;ロイターメッセージング:

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