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アングル:記者が見たイルマの目、ハリケーン・ハンターと突入
2017年9月11日 / 07:21 / 2ヶ月後

アングル:記者が見たイルマの目、ハリケーン・ハンターと突入

[ハリケーン・イルマの目、9日、ロイター] - 空が暗くなると、稲妻が光り、米空軍の気象観測機「WC-130J」のキャビンが急に大きく揺れた。機体は風を切りながら、大西洋で観測された最大級のハリケーン「イルマ」の目を目指して進んでいた。

ターボプロップエンジン4基を備えたこの機体を操縦しているのは、過去22年間で約40から50のハリケーンに飛び込んできたジム・ヒッターマン予備役中佐(49)だ。

ハリケーンはどれも1つ1つ異なるが、ヒッターマン氏は、ハリケーンに飛び込む体験を、自動洗車機になぞらえる。ただ、1つだけ大きく異なる点があるという。

「自動洗車機を通過中に、ゴリラが何頭も屋根に飛び乗ってくるみたいなものだ」。ヒッターマン氏はそう例える。時には揺れが激しすぎて、計器が読めないこともあると言う。

ロイター記者は8、9日の両日、「ハリケーン・ハンター」として知られる空軍観測部隊に同行した。ハリケーン・ハンターは、イルマのようなハリケーンの中心に危険を冒して飛び込み、人命の救助に役立つ気象予報に必須のデータを直接収集している。

気象衛星にはできない役割だと専門家は言う。

「衛星で、ハリケーンの強さや大きさを推測することはできる。だが、飛び込むことでしか、中心の位置や、構造、最大風速に関する正確な数値は得られない」。米国立ハリケーン・センターの元所長で、現在は気象専門テレビ局に勤務するハリケーン専門家リック・ナブ氏はそう語る。

一般にハリケーン・ハンターと呼ばれるのは「第53天候偵察中隊」で、ミシシッピー州ビロクシにあるキースラー空軍基地を拠点としている。1943年に米陸軍航空隊のパイロット2人が、テキサス州近くで発生したハリケーンの中を突っ切って飛べるかどうか、度胸試しをしたことに由来があると隊員たちの間で語られている。

今日では、ハリケーン・ハンターの任務のほとんどは米空軍の予備役が担っており、数日から数週間ストームを追いかけた後は、民間の仕事に戻るという。

ヒッターマン氏は、普段はデルタ航空のパイロットで、趣味でオートバイに乗っている。

今回の任務に同乗している気象学者のニコル・ミッチェル少佐は、経験豊かなテレビニュースの気象解説者で、8カ月の男の子の母親でもある。普段は、ミネソタ州に住んでいる。

ミッチェル氏は、自分が収集するデータが正確であればあるほど、イルマや他のハリケーンが近づいた時に避難警報を出す判断の根拠となる予報も、より正確になると考えている。

「私たちの仕事は、確実に役に立っている」と、彼女は断言する。

<危険な仕事>

今回の任務では、イルマの目を4回通過した。進入時と脱出時に、ひどく揺れることもあった。4回目に通過したのは、イルマがキューバ北岸を襲った9日のことだった。

キューバの陸地に接触したイルマは、カテゴリー5からカテゴリー4に勢力を弱めたが、米国立ハリケーンセンターは、再び勢力が増すとみられると警告していた。

イルマは10日朝にフロリダ州に上陸し、暴風と洪水によって全米4位の人口を抱える同州に甚大な被害をもたらすとみられていた。数百万人の住民に避難指示が出ていた。

イルマのような強力なハリケーンは、地上に大きな危険をもたらすことは間違いないが、ハリケーンの中心に飛び込むという任務は、驚くべき無事故記録を誇っている。最後に観測機を損失する事態が起きたのは1974年で、その後40年以上、機体損失は起きていない。

9月9日、ロイター記者は「ハリケーン・ハンター」として知られる空軍観測部隊に同行した。写真は8日、イルマに向かって飛行する観測機(2017年 ロイター/Kevin Lamarque)

だが、リスクがない訳ではない。気象専門サイト「ウェザー・アンダーグラウンド」によると、これまでに計6機のハリケーン観測機が失われ、53人が犠牲になっている。

同サイトのジェフ・マスターズ氏は、1989年のハリケーン「ヒューゴ」で米海洋大気庁が飛ばした気象観測機に乗り込んだ時、危うく惨事となるところだったと振り返る。

パイロットが機体のコントロールを失い、エンジンの1つから出火、機体は急降下を始めた。乗組員は、衛星データをもとにカテゴリー3だと思い込んでいたが、実際はカテゴリー5で、その強さのハリケーンを観測するには飛行高度が低すぎたためだ。

「高度1500フィートで突入したが、これはカテゴリー5ではやってはいけないことだった。われわれは、めちゃくちゃにされた」と、マスターズ氏は振り返る。だが機体がヒューゴの目に入ると、パイロットは機体の制御を回復することに成功した。

イルマの観測飛行では、機体がハリケーンの目に近づくにつれて揺れがキャビンを襲い、機器がガタガタと揺れた。緊急脱出用パラシュートも大きく前後に揺れていた。

だがある時唐突に、機内にある全てものが落ち着いた。

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シートベルトを外しても大丈夫なほど機体は安定した。飛行はなめらかになった。

目の中では、空が大きく開けていた。機体を取り巻く雲からなる暗い色の「目の壁」が、操縦席の窓の外に見えた。

<ドローンと観測気球>

現在は経験豊かな乗組員が担っている危険な仕事だが、将来的にはドローン(無人飛行機)で代替できるという見方もある。

だが、今回のフライトの操縦室からみると、その実現可能性はまだ遠いように思える。

この機体を含め、第53天候偵察中隊の「WC-130J」10機は全て、気象データを収集してハリケーン・センターに配信する専用機器を搭載している。その中には、手動で操作する機材もある。

例えば、落下しながらイルマの気圧や風速、風向きなどのデータを観測して発信するセンサーを、機体の腹部から投下する操作は、手動で行われている。

任務中、この「投下ゾンデ」と呼ばれるセンサーに異常が発生した。

機材の積み下ろし担当で、センサー投下も行うカレン・ムーア技術曹長は、イルマの風の中を降下しているセンサーからGPSのシグナルが届いていないことに気付いた。

そこでムーア氏は、ドライバーを取り出すと、センサーを1つ1つ修理し始めた。これはドローンにできないことだろう。

ヒッターマン氏は、将来的に、操縦者のいない機体がデータ収集のためハリケーンに飛び込む姿を想像できるという。「だがそれは、ずっと先の事になるだろう」

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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