[東京 17日 ロイター] - 日銀は17日、金融システムの現状と展望をまとめた「金融システムリポート」を公表した。分析によると、これまでのペースで企業の借り入れ需要が減少を続ける場合、10年後には地域銀行(国内基準行)と信用金庫の半数以上が最終利益で赤字に転落。5年後にリーマン・ショック並みの危機が発生するケースでは、半数超の地域銀行(同)の自己資本比率が6%以下(規制水準は4%)に低下する厳しい結果となった。
リポートでは、日本の金融システムの現状について「全体として安定性を維持している」との判断を維持したが、地域金融機関を中心に信用力が低めの「ミドルリスク企業」向けの貸し出しが増加しており、「総じてリスクアセット拡大に見合った収益を確保できておらず、自己資本比率、ストレス耐性は緩やかに低下している」と分析した。
預貸金業務といった本業収益が低下を続けるもとで、収益を下支えしてきた信用コストの低下や有価証券の益出しも「足元でみると、変調の兆しがみられる」と指摘。経営環境が厳しさを増す中で、本業収益は「今後も下押し圧力がかかり続け、それに伴って自己資本比率の低下も継続していく」可能性が高く、今回のリポートではマクロ・ストレステストについて、これまでの足元に加え、5年後にイベントが発生したケースも分析した。
前提となるベースラインシナリオの下でも、これまでと同じペースで企業の借り入れ需要が減少を続けると想定した場合、当期純利益は減少傾向をたどり、特に国内基準の銀行は5年後の2023年に21%、10年後の2028年に58%と半数超が赤字に転落する。
その上で、5年後にリーマン・ショック並みのイベントが発生した場合、信用コストの増加を主因に自己資本比率は軒並み低下。特にミドルリスク企業向けといった低採算向けの貸し出しが相対的に多い地銀の落ち込みが大きくなる。
同じ国内基準であっても、信用金庫は平均で10.7%(現在12%程度)を確保するのに対し、銀行は6.5%(同10%程度)に低下する見込みで、半数を超える銀行の自己資本比率が6%以下になると分析している。
日銀は5年後にイベントが発生しても「全体として規制水準を上回る」としながら、「個別にみると、地域銀行を中心に下方へのばらつきが大幅に拡大する」と指摘。その上で、個別金融機関への影響の広がり次第では「金融面から実体経済への下押し圧力が増幅される可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
<不動産向け融資の対GDP比、28年ぶり「過熱」>
また、今回のリポートでは金融活動の過熱や停滞の有無を色で可視化した「金融活動指標(ヒートマップ)」の14指標のうち、2018年末の「不動産業向け貸し出しの対GDP比率」が「過熱」を示す赤色となった。同指標が過熱となるのは、1990年末以来では初めて。
それでも不動産市場における「地価の対GDP比率」「不動産業実物投資の対GDP比率」など他の指標には過熱感は観察されておらず、日銀では「不動産市場全体がバブル期のような過熱状態にあるとは考えにくい」としている。
もっとも、不動産向け融資の残高が増加を続けている背景には、アパート・マンションローンや不動産投資信託(REIT)向けといった長期の貸し出しが拡大していることがある。人口減が進む中で将来的な空室増加や賃料の下落といったリスクを抱え込んでおり、日銀では「注視していく必要がある」としている。
*内容を追加しました。
伊藤純夫
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