[ニューヨーク 27日 ロイター BREAKINGVIEWS] - シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻は2つの教訓を残した。1つ目は、ある銀行が危機に陥った際に、全面的な保険対象となっていない預金者はあっという間に逃げ出す可能性があること。もう1つは、金融当局が行き過ぎたスピードで拡大を続ける銀行を上手に監督できていないということだ。SVBのファースト・シチズンズ銀行への売却は、前者の問題を解決するとともに、後者に関しては状況を悪化させたと言える。
ファースト銀はSVBの資産1100億ドルを、165億ドルもの割引価格で取得。これを受け27日にファースト銀の時価総額は大きく膨らんだが、その理由は簡単に分かる。なぜなら当局は通常、銀行同士の合併に良い顔をしないからだ。ファースト銀がライバルのCITを買収した案件は、昨年1月の審査完了までに1年余りも費やされた。またSVBの売却を取り仕切る連邦預金保険公社(FDIC)にとって、ファースト銀のフランク・ホールディング最高経営責任者(CEO)はなじみの人物でもある。ファースト銀は2009年以降で少なくとも破綻した15の銀行を手に入れてきたことが、FDICのデータで分かる。
銀行救済では逃げ場のない状況で厳しい選択を迫られることは、1週間前にスイス当局がルールを曲げてまでUBSによるクレディ・スイス買収を認めた事実で明らかだ。SVBの場合、FDICはローン債権の潜在的な損失の一部を負担することに合意している。ただもっと大きな犠牲は、買い手の銀行の規模が非常に大きくなるのを当局が許さざるを得ない点にある。ファースト銀の資産はCITの取得で倍になり、SVBを手に入れてさらに倍の2190億ドルに達する。ホールディング氏は、これまでほとんど縁がなかったベンチャーキャピタル向け融資などの事業も本格的に展開できる。
当局がこれまで、急拡大する銀行の監督に苦戦している様子を見せていなかったのであれば、問題はないかもしれない。ファースト銀は、より厳格な監督対象となる資産基準の2500億ドルのなお一歩手前にとどまり、ホールディング氏もこれを超えるつもりはないと発言している。だが連邦準備理事会(FRB)を含む当局は、現在のファースト銀と同規模だったかつてのSVBがどうして経営に失敗したのかまだ明確に説明していない。FRBのバー銀行監督担当副議長は27日、議会証言の準備書面で銀行の規模に応じて異なるルールが適用される仕組みを見直しているところだと述べている。
これらは明日の問題でもある。今のところ、当局はSVBの解体にはつながらない解決策を何とかひねり出し、JPモルガンやバンク・オブ・アメリカといった本当の大手銀行がさらに巨大化する事態も避けられた。しかし今回の対応は、「大き過ぎてつぶせないリスク」を払拭するのではなく、単に別の形に仕立て直しただけという危険をはらんでいる。
●背景となるニュース
*米連邦預金保険公社(FDIC)は26日、経営破綻したシリコンバレー銀行(SVB)のローン720億ドルと預金560億ドルを、ファースト・シチズンズ銀行が取得したと発表した。
*ファースト銀は資産1100億ドルを割引価格で買い取り、FDICは200億ドルの損失を被ると見積もっている。
*SVBに続いて破綻したシグネチャー銀行の預金340億ドルは、ニューヨーク・コミュニティー・バンコープの傘下銀行が取得した。FDICが見込む損失は25億ドル。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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