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アングル:スウェーデンの高福祉制度が育む「欧州シリコンバレー」

[ストックホルム 11日 ロイター] - スウェーデンの後払い式決済サービス会社クラーナの創業者セバスチャン・シェミャートコフスキ氏(39)は、同社の上場準備を進めており、実現すれば欧州フィンテック企業として最大級の規模となる。こうしたまさに資本主義の醍醐味を味わえるシェミャートコフスキ氏が、ほぼ順風満帆だった成功までの道のりをもたらしてくれた要因として挙げたのは、意外なことにスウェーデンの高福祉制度だった。

 8月11日、スウェーデンの後払い式決済サービス会社クラーナの創業者セバスチャン・シェミャートコフスキ氏(39、写真)は、同社の上場準備を進めており、実現すれば欧州フィンテック企業として最大級の規模となる。ほぼ順風満帆だった成功までの道のりをもたらしてくれた要因として同氏が挙げたのは、意外なことにスウェーデンの高福祉制度だった。2020年8月、ストックホルムで撮影(2021年 ロイター/Supantha Mukherjee)

特に同氏は、1990年代終盤に政府が打ち出した各家庭のコンピューター取得を支援する政策の恩恵を強調する。「私たちのような低所得の家庭にとってコンピューターは手の届かない存在だった。だがこの政策が導入された次の日には、母が私にコンピューターを買ってくれた」という。

16歳でプログラミングを始めた同氏は、それから20年余りを経て自ら立ち上げたクラーナの価値が460億ドル(約5兆円)に高まり、新規株式公開(IPO)を計画する段階に到達した。詳しい内容は明らかにされていないが、多くのバンカーは来年早々ニューヨークに上場すると予想している。

スウェーデンが家庭へのコンピューター普及を促し、同時にインターネットの接続環境整備のためにいち早く投資を行ったことが、首都ストックホルムを新興企業が花開く土壌とし、クラーナだけでなく音楽配信のスポティファイ、ネットコミュニケーションのスカイプといった企業を続々と輩出した理由と言える。ロイターが取材したシェミャートコフスキ氏や他の何人かのハイテク企業の最高経営責任者(CEO)、ベンチャーキャピタリストはそろってこうした見解を口にした。

家庭へのコンピューター普及制度は1998年から2001年まで実施され、この間にコンピューターを購入したのは85万世帯と、当時の全世帯数400万の4分の1近くに上る。各家庭の負担はゼロで、その中には自費では買えなかった多くの人々が含まれていた。

また世界銀行のデータでは、クラーナが創業した2005年時点で、スウェーデンのブローバンド通信契約者は100人当たり28人と、世界平均の3.7人をはるかに上回り、米国の17人よりも多かった。米国でもまだダイヤルアップ通信が主流だったのだ。

スポティファイは、アップルの「iTunes」が依然としてダウンロード方式だった時期に、もうストリーミング配信を導入。そのおかげでストリーミング配信が世界中で当たり前となった局面で優位に立つことが可能になった。

シェミャートコフスキ氏は「これは他の多くの地域のネット接続速度がとても遅かったのに対して、ずっと前からブロードバンド通信が標準化していた国だからこそ起きた現象だ。われわれの社会は数年先を行くことができた」と胸を張る。

高福祉制度はしばしば、起業家精神とは相いれないとみなされてきた。しかしスウェーデンはそうした制度でもイノベーションを育めると証明している、と複数の企業幹部や同制度の提唱者は強調する。こうした結果は、1950年代の高福祉制度の設計者たちには想定されていなかったかもしれない。

例えばスウェーデンでは、子育ての分野はほとんどが無料。事業に失敗するか失業しても、300日間は前職の給与の最大80%を保障する手厚い所得保険もある。

セールスや顧客との対話のためのビデオメッセージサービスを手掛けるVaamの共同創業者ゴハル・アバギャン氏(31)は「われわれがスウェーデンで享受している社会的安全網のおかげで、リスクを背負う上での弱みが小さくなる」と述べた。

<活発な起業>

投資全体の規模で言えば、英国やフランス、そして両国に古くからある金融センターの方が大きいとはいえ、スウェーデンには幾つか傑出した面がある。

経済協力開発機構(OECD)のエコノミストが2018年にまとめた調査に基づくと、雇用されている1000人当たりの開業者は20人と世界第3位で、新規事業が3年存続する比率は74%と世界最高だ。

ベンチャーキャピタル(VC)企業アトミコのサラ・グエムリ氏によると、評価額が10億ドルを超える新興企業、いわゆるユニコーンの数でも、ストックホルムは人口10万人当たり0.8社前後だ。世界でこれより高いのは米シリコンバレー地区の1.4社しかない。

もちろんキャピタルゲイン税率が30%、所得税が最高60%にもなるスウェーデンで、こうした新興企業のにぎわいが続いていくと誰も明言はできないだろう。

スポティファイは2016年、高い税金のために海外から人材を集められないとの理由から、本社のスウェーデン国外移転を検討中だと明らかにした。

VC企業QEDインベスターズのパートナー、ユスフ・オズダルガ氏は、スウェーデン語を話せない人にとっては、起業に関する資金調達、行政手続き、法務などの作業を進めていくのも難しいのではないかと懸念する。

オズダルガ氏が対照的な例として挙げるのはオランダの首都アムステルダムで、4月に当局が英語を公用語として採用したことから、外国企業の事業環境が改善している。

<失敗できる社会>

それでもロンドンを拠点とするVC企業ノースゾーンのパートナー、ジェッペ・ジンク氏は、スウェーデン1カ国だけで欧州のフィンテック企業に関する投資で回収される資金の3分の1をもたらしていると指摘。政府の政策がこの流れに寄与していると述べ、「これはわれわれベンチャーキャピタリストにとっては興味深いジレンマだ。われわれは規制が市場を生み出す事態に不慣れであり、事実として直感的に規制には不安を抱く」と付け加えた。

スウェーデンのイーゲマン・デジタル開発相は、社会的な規制は「失敗を可能」にして、イノベーターを再び立ち上がらせると明言した。

リチウムイオンバッテリーを電気自動車(EV)に供給し、現在117億5000万ドルと評価されている新興企業ノースボルトのカリソンCEOは、最終的には成功が成功を呼ぶと主張。「誰かの成功を見れば波及効果が生じる。地域のエコシステムを創造するためにはそれが恐らく一番大事な点だと思う」と話した。

(Colm Fulton記者、Supantha Mukherjee記者)

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