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コラム

コラム:スイスとの証取リンク、中国の疑念で「待った」

[香港 17日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 中国企業とスイスの証券取引所を接続する制度が、当の中国当局の怒りを買っている。ブルームバーグは16日、中国の証券規制当局が中国本土企業によるチューリヒでのグローバル預託証券(GDR)発行申請について、認可を中止したと報じた。

3月17日、中国企業とスイスの証券取引所を接続する制度が、当の中国当局の怒りを買っている。写真はスイスの国旗。ベルンで2020年10月撮影(2023年 ロイター/Arnd Wiegmann)

中国の投資家が海外でGDRを買って国内で売り、手早く一儲けしようとしている、という当局の懸念は正当なものだ。しかし、国際的な機関投資家がGDRに関心を抱いていない以上、そもそもこの制度自体がほとんど役に立たない。

ディールロジックのデータによると、昨年以降に中国企業11社がスイス証券取引所でGDRを発行し、総額36億ドルを調達した。本国より上場基準が緩く、認可スピードも速いため、ドル資金を調達したい中国企業にとって、スイス証取は魅力的な発行の場所となった。

IFRは先月、少なくとも30社が新たにチューリヒでのGDR発行計画を発表したと報じた。世界最大のリチウムイオン電池メーカー、寧徳時代新能源科技(CATL)は、欧州における中国GDR発行で過去最大規模となる50億ドルの発行を計画している。

だが、GDRは新たな国際的投資家を呼び込むどころか、中国のトレーダーにとって手軽な裁定取引の手段と化している。中国本土企業のGDRは、大半が国内の実勢価格より10%程度安く発行され、通常120日のロックアップ期間が過ぎれば、上海か深センの上場株に転換できる。

このため海外資金にアクセスできる目ざとい投資家たちは、中国上場株を空売りして割安なGDRを買うことで、比較的小さいリスクで手早く儲けを手にできる。

スイス発行のGDRがほとんど売買されていないのは、このためだ。電池メーカーの欣旺達電動汽車電池は昨年11月、深セン上場株より16%安い価格で4億4000万ドル相当のGDRを発行したが、その半分以上は深セン上場株に転換されたことを最近明らかにした。

同業の国軒高科は昨年、GDRを発行したものの、ロックアップ期間が空けて以来、売買が一切行われていない。

中国規制当局がGDRの認可手続きを厳格化し、参加する投資家を精査するようになれば、新規投資家の誘致に関心が無い企業をふるいにかけることが可能かもしれない。国境を越えた裁定取引を取り締まれば、GDRを本土上場株に転換する際に生じる本土株の下落圧力を和らげることもできそうだ。

それでも根本的な問題は残る。国際的な投資家は欧州の証券取引所で中国株を買うことにほとんど関心がない。CATLなどの株は上海や深センといった、より流動性の高い市場で直接取引する手段がいくらでもあるからだ。

中国株のロンドン上場を可能にする同様の制度も、流動性の低さが一因で苦戦した。中国企業の上場を呼び込みたいスイスおよび他の欧州証券取引所も同じ運命をたどりそうだ。

●背景となるニュース

*ブルームバーグが16日報じたところでは、証券監督管理委員会(証監会)は中国本土企業によるチューリヒその他の海外証券取引所でのGDR発行申請について、認可を停止している。検討作業は続いており、認可が再開される可能性はある。

*それによると、政策当局者らはGDRの発行が「中国株式市場への大きな下落圧力」につながる可能性を危惧している。

*ロイターが14日報じたところでは、中国のリチウムイオン電池メーカー、寧徳時代新能源科技(CATL)はスイスで少なくとも50億ドルのGDRを発行する計画だが、当局が発行規模の大きさに懸念を持ち、承認が遅れている。

*中国とスイスの証取を接続する制度は昨年始動し、ディールロジックによると、中国企業11社が総額36億ドルのGDRを発行した。 

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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