April 27, 2018 / 3:39 AM / 25 days ago

焦点:スイスフランの安全神話崩壊か、逃避資金のロシア還流も

Tom Finn

 4月20日、長年にわたり、有事の資産避難先として、また税務当局の目を逃れる隠れ家としての地位を確立していたスイスフランの威信はいまや失われつつあるのかもしれない。写真はスイスフランとユーロ硬貨。2015年撮影(2018年 ロイター/Thomas Hodel)

[ロンドン 20日 ロイター] - 長年にわたり、有事の資産避難先として、また税務当局の目を逃れる隠れ家としての地位を確立していたスイスフランの威信はいまや失われつつあるのかもしれない。少なくとも、スイスや自国で摘発リスクにさらされているロシアの富豪たちにとっては。

スイスフランは19日、対ユーロで一時1.20スイスフランまで下落し、3年ぶりの安値を更新。この水準はかつて対ユーロの為替相場の上限だったが、2015年1月にスイス国立銀行(中央銀行)が突然この枠を撤廃し、いわゆる「スイスフランショック」を巻き起こした。

最近のスイスフラン安が特に注目を集めるのは、地政学的な緊張が急激に高まったタイミングと符合するからだ。かつては、緊張が高まれば、有事でも価値が変わらない安全資産の1つとして、スイスフランが買われることが常だった。

今年に入り、スイスフランはユーロに対して2.5%下落している。一方、やはり安全資産とみなされている金と円は、それぞれ5%近く上昇した。今月のシリアに対する米英仏3カ国による報復的ミサイル攻撃や、多くのロシア企業に壊滅的な影響を与える米制裁が実施されても、スイスフランの上昇にはつながらなかった。

その理由は単純だ。今年後半に欧州中央銀行(ECB)が債券購入プログラムを終了することで、金融政策を引き締めに転じた場合でも、スイス中銀は同調姿勢を示すことを拒んでいる。スイス中銀のトーマス・ジョーダン総裁は、超緩和政策の終了は検討課題としても上がっていないと強調している。

その結果、スイスフラン売りに賭ける動きを再燃させ、同通貨の突出した下落につながったとの声も出ている。米商品先物取引委員会(CFTC)によれば、スイスフランに対するネットショートポジションは14億スイスフラン(約1555億円)に達しており、1カ月前の2倍近くに膨らんでいる。

UBSアセット・マネジメントで通貨戦略を担当するジョナサン・デイビス氏は、対ユーロで「1.20台の前半」が適正水準だと述べ、その理由は「両中銀による金融政策トレンドの乖離が、スイスフラン安の方向に働くから」だと説明する。

バンクオブアメリカ・メリルリンチで欧州向けG10外為戦略担当ディレクターを務めるカマル・シャルマ氏は、対ユーロでのスイスフラン売りを推奨している。

「スイスフランの下落は見えないところで進んでいる。ユーロと円に対してさらに下落しても意外ではない」とシャルマ氏は言う。

<ロシアに帰還>

しかし、直近のスイスフラン安は、今月初めに導入されたロシア企業や経営者を対象とする米追加制裁の回避手段として、ロシアの富豪たちがスイスから資産を引揚げていることも一因だとみられている。

スイスの銀行は、長年にわたって、ロシアなど世界の富裕層に、本国での課税回避や、単に資金を国外保管する目的で利用されてきた。

2017年にロシアから海外流出した資金の14%はスイス向けであり、米国向けの約3倍だった。INGバンクのアナリストはロシア銀行(中銀)のデータを使ってそう指摘する。

しかしスイスの銀行に対しては、マネーロンダリング防止と制裁対象となっている個人の資金取扱い停止を求める圧力が高まりつつある。

スイス金融市場監査局(FINMA)は、国内銀行に対して外国政府による制裁の執行を義務付けてはいないが、「訴訟リスクやレピュテーションリスクを最小限に抑える責任がある」と述べている。

スイス中銀はスイスフラン相場に関するコメントを拒否した。

今月の制裁措置がスイスフラン安を招いた直接の原因と決めつけることに対しては、為替専門家は懐疑的だ。コメルツ銀行のアナリスト、エスター・ライヒェルト氏は「制裁導入以降、スイスフランに特有の顕著な弱さを示す取引パターンは見受けられない」と語る。

6日からの週に、ルーブルがスイスフランに対して6%下落したことは、ロシアマネーの引揚げによってスイスフランの下落が生じたという考え方と矛盾する。

ロシアマネーがまずロンドンやルクセンブルクなど他の欧州金融センターに移動したかどうかは不明だが、制裁によるプレッシャーは、これらの金融センターにも影響していると考えられる。

<政治よりも脱税摘発>

だが、今年に入ってからのロシアマネーの潮流とスイスフランの相場変動とのあいだに何らかの関係があっても不思議はない。それも、最近になって新たに課せられた制裁以外の部分における関係だ。

「ロシア逃避資本の本国還流は現実のテーマだが、最新の地政学的な緊張は、根本的な理由というよりは、単に火に油を注いだにすぎない」と、コンサルタント会社TSロンバードのマネージング・ディレクターであるクリストファー・グランビル氏は語る。

ロシアは2016年、脱税摘発に向けた経済協力開発機構(OECD)のイニシアチブ「金融口座に関する自動的情報交換」に参加したが、スイスを含む参加国間の情報交換プロセスが稼働開始したのは、2018年1月になってからだと、グランビル氏は指摘する。

「ロシア納税者としては、もはやスイスに資産逃避しても安心できなくなった以上、資産を自国に引揚げて、タックス・アムネスティ(租税特赦)を活用し、(ロシアの)税率13%で納税した方がいいかもしれないと感じている」とグランビル氏は言う。

この措置に伴い、どれだけの資金がロシア本国に還流したかは不明だが、中銀のデータによれば、ロシア向けの資金流入のうち約5分の1は、スイスから流入した個人資産だった。

そして過去2カ月の推移をみると、スイスフランは実際、ルーブルに対して約5%下落している。

それと同時にロシアは、租税特赦や特別債券プログラムを使ったり、さらには引揚げていない還流資産に対する処罰をちらつかせたりすることで、オフショア資産が本国に還流するよう圧力をかけている。

ロシア財務省の政策当局者は、ここ数カ月で「数十億ドル」の資産が国営銀行に流入しているとロイターに語り、OECDの自動的情報交換プログラムにより、この流れはさらに加速すると予想した。

「制裁と自動的情報交換プログラムのうち、どちらの効果がより大きいのかは分からない」と同当局者は語った。「資産家らは、資産の逃避先をわれわれが追跡できるとは思っていなかったが、今では、大半が申告を始めている」

(翻訳:エァクレーレン)

 4月20日、長年にわたり、有事の資産避難先として、また税務当局の目を逃れる隠れ家としての地位を確立していたスイスフランの威信はいまや失われつつあるのかもしれない。写真はスイスフランとユーロ紙幣。2015年撮影(2018年 ロイター)

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