[左営(台湾) 14日 ロイター] - 早朝、台湾海峡から冷たい風が吹きつける中、ぽつんと離れた埠頭に少数の海兵隊員が震えながら立っている。1日の大半を海中で過ごした彼らの短パンや薄いジャケットはぐっしょりと濡れたままだ。
「お前たちは眠れる森の美女か? ここで落伍するのか?」と訓練教官が怒鳴りつける。引き締まった体型の男たちはこの数日ろくに睡眠もとっていない。粗いコンクリート舗装の上で腹筋運動などのトレーニングをしながら、中には疲労のために意識が混沌としてくる者もいる。
そこへホースから冷たい水を浴びせられ、彼らはハッと意識を取り戻す。
米国海軍の特殊部隊シールズや英国の特殊舟艇部隊に相当する、台湾海軍のエリート部隊「両棲偵捜大隊(ARP)」に入ることは、意気地なしには向いていない。
台湾を自国領であると主張し、軍事的・政治的圧力を強めている中国との間に戦端が開かれれば、「フロッグマン」と呼ばれるARPの隊員は小型の舟艇に乗り、夜陰に乗じて台湾海峡を渡り、敵の拠点を偵察して攻撃を誘導することになるかもしれない。
10週間の訓練課程を開始した31人のグループのうち、最後までたどり着いたのはわずか15人。最終週の訓練会場は台湾南部に広がる左営海軍基地で、ロイターは貴重な取材機会を与えられた。
「天国への道」と呼ばれる障害物コースでの最後の訓練を終了したフー・ユーさん(30)は、「死を恐れてはいない」と語る。コースには約100メートルにわたって大小の岩石を敷き詰めた部分があり、そこをほふく前進しつつ、訓練教官がいいと言うまで腕立て伏せなどの課題をこなさなければならない。
「(命を投げ出すことが)兵士の責任であり、我々の任務だ」とフーさんは言う。彼は以前にもこの課程に挑戦したが、その時は途中で挫折していた。
ARP入隊を志願する者は、最終週、昼夜を問わず6日間にわたり、長時間の行進から何時間もの水中活動に至るまで、あらゆる訓練に耐えなければならない、そのあいだ、教官には怒鳴られ放題だ。
訓練の多くは海中かプールで行われ、長時間にわたって息を止め、完全な戦闘装備で泳ぎ、海中から海岸に潜入するといった技術を学ぶ。
6時間おきに1時間の休憩が与えられる。その間に免疫系を強化するためにニンニクをまるごとを貪るなど食事を済ませ、医師の診療を受け、トイレを済ませ、睡眠もとらなければならない。
結局5分しか寝られないという場合もある。床に寄り集まって薄い緑の毛布をかぶったかと思うと、けたたましいホイッスル音で起こされる。
訓練の狙いは、どれほど困難でも任務を完了する鉄の意志を兵士に叩き込み、仲間の兵士と軍に対する堅い忠誠心を生み出すことだ。
訓練参加者は全員志願者だ。特殊部隊入りを目指す動機は、愛国心もあれば、自分の限界を試したいという願いまでさまざまである。
ウー・ユーウェイさん(26)は、訓練課程を修了することを「個人的な挑戦」と捉えていると語る。
「何よりも難しいのは、休めるかどうかよりも、そのタイミングだ。わずか15分しかないのに、トイレに行って、水をガブ飲みして、次のセクションに移動しなければならない」
「最初の何日かは疲労困憊(こんぱい)だったが、じきに慣れる。意志の強さ、決意の固さが頼りだ」
「天国への道」のゴールラインを越え、海軍陸戦隊(海兵隊)のワン・ジュイリン司令官の祝福を受けると、隊員の中にはこの1週間のストレスがあまりにも大きかったのか、修了を見届けるために招かれた誇らしげな家族の腕に抱かれて泣き崩れる者もいるほどだ。
教官は全員、同じ課程の修了者だ。「地獄の1週間」に残酷な意図はなく、極端な睡眠不足など戦争の厳しい状況をシミュレートし、任務を遂行するスタミナとガッツのある者を見極めることにあるという。
「もちろん、誰に対しても絶対に強制はしない。ここにいるのは全員が志願者だ。だからこれほど苛酷な訓練をして、厳しく選別していく」とチェン・ショウリー教官(26)は言う。「志願しているからといって、誰でも歓迎というわけではない」
(Ann Wang記者、Ben Blanchard記者、翻訳:エァクレーレン)
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」