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コラム

コラム:岸田新総裁を待ち受ける総選挙と市場評価、問われる発信力

[東京 29日 ロイター] - 自民党総裁選を勝ち抜いて次の首相の座を確実にした岸田文雄前政調会長には、国民の審判を仰ぐ衆院選が待ち受ける。地方票で2位に甘んじて議員票で逆転した「ねじれ」の結果は、衆院選勝利が「低いハードル」ではないことを示している。また、28日に起きた米長期金利上昇を起点にした世界的株安は、企業や消費者の心理を冷え込ませかねない存在として浮上した。

 9月29日、自民党総裁選を勝ち抜いて次の首相の座を確実にした岸田文雄前政調会長には、国民の審判を仰ぐ衆院選が待ち受ける。写真は29日、都内で自民党総裁に岸田氏選出の号外を読む人(2021年 ロイター/Issei Kato)

この2つの関門を無事に通過するには、岸田氏が示した政権公約の中で何が最も優先される項目かはっきり打ち出す強いメッセージ力が不可欠だ。安倍晋三元首相が持っていたような発信力を発揮できるのか、いきなり試される場面に直面している。

<地方票と議員票のねじれ>

自民党の名門派閥・宏池会の会長が首相に就任するのは、宮沢喜一元首相が退陣した1993年以来、28年ぶりとなる。首相の有力候補と目されながら昨年の総裁選で敗れた岸田氏の胸中には、抑えがたい感慨が沸き上がっているに違いない。だが、新総裁就任の喜びも、これから待ち受けるハードルを考えると急に冷めるかもしれない。

待ち受ける1つ目のハードルは、11月とみられている衆院選だ。菅義偉首相の辞任表明後、自民党総裁選をめぐる国内メディアの連日の報道に後押しされ、自民党の注目度は急上昇し、各種の世論調査でも支持率が急回復している。

このため岸田新総裁での衆院選は楽勝との声が、この日の総裁選投票前から同党内でささやかれていた。だが、事態はそれほど楽観できるのだろうか。

まず、象徴的なのは1回目の投票結果だ。地方票の獲得率は岸田氏が29%と河野太郎行革担当相の44%の後塵を拝した。地方票は河野氏の169票に対し、岸田氏は110票だった。これを議員票でひっくり返し、河野氏の86票に対して146票を獲得した。地方票と議員票の「ねじれ」現象が明確に出たと言える。

地方票は、全有権者の世論の動向を映し出す鏡に近い働きがあると政治学の専門家は指摘している。つまり、世論がより支持するだろうとみられていた河野氏ではなく、岸田氏が総裁になって衆院選に勝てるのか、という問題があるということだ。

実際、29日の東京株式市場の午後の取引では、いったん買い戻されていた日経平均が1回目の投票結果判明後に下げ幅を拡大。結果に反応したとの見方が市場の一部で聞かれた。「岸田氏では、衆院選で勝ったとしても僅差になり、その後の政権基盤が不安定になるリスクを感じた」(国内証券)との声も出ていた。

<株安長期化なら、企業・個人の心理に冷水>

また、総裁選前日の28日のニューヨーク市場で、米国のインフレ懸念と米連邦準備理事会(FRB)の政策修正が後手に回るのではないかという「ビハインドザカーブ」への危惧から米長期金利が急上昇。米株が急落したことで29日の日本株も大幅下落となった。

当初、菅政権から新政権への移行を材料に、日経平均は3万2000円台を回復し、年末には一段高になるとの「株高シナリオ」が、国内市場関係者の一部でささやかれていた。だが、このシナリオは今回の世界的株安でとん挫した格好だ。

岸田氏にとって、この株安現象は「一時的な調整」と言って放置していたら危険な展開になりかねない「爆弾」になる可能性がある。今回の米長期金利の上昇は、FRB幹部が指摘してきた「一過性」の可能性が低下し、金利上昇と株安が長期化するシグナルである公算が大きいからだ。

新政権発足の出はなをくじくような株安が長期化すれば、企業の投資マインドを冷え込ますだけでなく、国内総生産(GDP)の6割近くを占める個人消費の復調をさえぎり、衆院選にも悪材料になりかねない。

<強いメッセージと政策優先順位の明示>

この2つの難関を突破するには、岸田新政権が何を最優先の政策として掲げ、どの公約を短期間に実施していくかと具体的に示すことが必要だ。

岸田氏は総裁選に当たり、新型コロナウイルス対策では「医療難民ゼロ」、「ステイホーム可能な経済対策」、「電子的ワクチン接種証明の活用と検査の無料化・拡充」、「感染症有事対応の抜本的強化」の4つを掲げた。

また、令和版「所得倍増計画」や「健康危機管理庁」の創設、数十兆円の経済対策も主張した。

いったい、どれから手を付けて、何を最優先に実行するのか。中長期的にどのような国づくりを目指いしているのか。それが、国民の目からみてはっきり分かるような岸田氏自身の言葉による強いメッセージが必要だと指摘したい。

安倍元首相のアベノミクスには、多くの批判があるものの、停滞した日本を変えるという強いメッセージがあった。それが、国内では多くの有権者の支持を受けて衆参の選挙で連勝し、海外勢の注目を集めて日本株の上昇につながった。

岸田流の強い「発信力」を発揮することができるのかどうか。筆者は、米政権のような「100日間で達成できる目標」を掲げ、「日本は変わる」というイメージを強く打ち出してほしいと思う。

だが、発信力を発揮できず、党役員人事や組閣で総裁選の論功行賞と思われる起用が目に付いた場合、世論調査の支持率や株価で低い評価が示される危険性も残されている。

さらに来年7月には参院選が控えている。半数改選の対象になる前々回の選挙では安倍ブームで大勝した自民党だが、実績を残せなければ、単独過半数の確保に黄信号が点灯しかねない。岸田氏の真剣勝負は、すでに始まっている。

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