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アングル:「ディープフェイクから守って」、声優や俳優が権利訴え

[トビリシ 18日 トムソン・ロイター財団] - 声優のベブ・スタンディングさんはある日、友人からのメッセージに驚愕した。「Tik Tok(ティックトック)のテキスト読み上げ機能の声はあなたの声だよね」と聞かれたのだ。その驚きはやがて怒りに変わった。

 5月18日、 声優のベブ・スタンディングさんはある日、友人からのメッセージに驚愕した。「Tik Tok(ティックトック)のテキスト読み上げ機能の声はあなたの声だよね」と聞かれたのだ。写真はディープフェイクと呼ばれる顔の表情の加工途中の映像。2019年2月撮影のロイターTV動画より(2022年 ロイター)

人気ソーシャルメディアであるティックトックからの仕事を受けたことはない。だが、その声は疑いようもなく自分のものだった。

何年も前に別のクライアントのために録音した自分の声をティックトックが何らかの手段で取得し、アルゴリズムで処理して、テキスト入力した文章を読み上げて音声として動画に重ねることができる機能としてアプリに導入した──。スタンディングさんはこう結論した。

スタンディングさんはティックトックを訴え、9月に決着を迎えた。パフォーミング・アーティストたちはこの訴訟について、クリエイティブな仕事をする人々に対して人工知能(AI)が突きつける課題の深刻化を象徴している、と語る。

「私にとってはビジネスだ。自分の商品を保護しなければならない。私の商品とは、この声だ」とスタンディングさんはトムソン・ロイター財団に語った。

「ティックトックは私のクライアントではない。いわば、私が車を買ったのに、誰かがそれに乗って行ってしまったようなものだ。買ってもいない人間が乗り回すべきではない」

亡くなった著名人をデジタル映像として復活させることから、外国映画の吹き替えに唇の動きをうまく同期させることまで、近年、映画や音響産業ではAIの利用が拡大している。一方で、倫理や著作権をめぐる議論も白熱している。

シェフの故アンソニー・ボーディン氏のドキュメンタリーは、AIを使って同氏の声を再現したことで批判を浴びた。

現役の俳優などのパフォーミング・アーティストらは、自分たちの生業にAIが与える影響についても懸念している。一部には、自分の作品とその使われ方についてもっと多くの権利をクリエイターに与えるべきだという声もある。

英国の俳優・コメディアンであるリック・キースウェッターさんは、数年前にテクノロジー企業から受けた仕事の中で、録音・録画された自分の声や顔の動きについて、すべての権利を放棄する契約にサインした。

だが、今になって何やら不安を感じている。

「これがどんな使われ方をされるか全く関知できていない。ポルノ作品にまで使われてしまいかねない」とキースウェッターさんは言う。

<技術に追いつかない法律>

俳優団体は、アーティストがAIに仕事を奪われるリスクがあり、声や演技スキルをコンピューターに提供しているパフォーマーが正当な報酬を受けていない例も多い、と主張している。

パフォーミングアートで働く人を代表する英国の組合「エクイティ」によれば、AIは新たな雇用機会を生み出す一方で、パフォーマーが自分の姿や声を許可なく使われてしまう例も広がっているという。

エクイティでは、AI関連プロジェクトのために働いたパフォーマーが、自らの権利を十分に理解していないという懸念も提起している。

エクイティに加入しているキースウェッターさんは、「あらゆるテクノロジーと同様に、遅れが生じている」と述べ、急速に複雑化するテクノロジー企業との契約に追いつけていないエージェントもいる、と指摘する。

英エクスター大学で法律を教えるマティルド・パビス氏によれば、世界各国には、ディープフェイク動画などAI生成による模倣からアーティストを保護する手段が存在しない例が多いという。法律がテクノロジーの発展に追いついていないからだ。

英仏を含む多くの国にはパフォーマーの権利を守る法律があるが、通常は、アーティストが、記録された自分のパフォーマンスを視聴する権利を留保するか、その対価を得ることを認めるものだ。

だが法律は一般的に、パフォーマンスの創造的な側面を保護するものではない。これは、AIが生成するものを含め、模倣が容認されていることを意味する、とパビス氏は指摘する。

「パフォーマンスの複製や海賊版作成、大規模な盗用が生じうるのは、そのパフォーマンスが何らかの形で記録されている場合だけだ、というのがこれまでの想定だった」とパビス氏は言う。

パビス氏もエクイティも、創造性に関する権利を強化する新たな法律が必要だと主張している。

パビス氏は、パフォーマーに自らのパフォーマンス内容に関する著作権を与え、彼らに完全な管理権を委ねる方が良いと主張する。あるパフォーマンスを利用するにはアーティストの同意が必要になり、アーティストはそこから受動的に所得を得られるようになる、とパビス氏は言う。

<AIは「作者」になりうるか>

法律とAIに関する著作のある英サリー大学のライアン・アボット教授は、アルゴリズムにも権利を与えるべきだと主張する。

コンピューターは音楽から物語に至るまで、あらゆるものを創作するスキルを高めつつあるが、米国では「作者」として登録されるものは人間に限られており、コンピューターによる作品には十分な保護が与えられていない、とアボット教授は言う。

こうした状況を変える試みとして、アボット教授は米著作権局を相手取り、コンピューターが作成したデジタル美術作品の作者としてAIを登録し、作品から生じる利益の最終的な受益者となる著作権保有者をそのAIの保有者とすることを求める訴訟を起こした。

機械は権利を必要としていないが、著作権による保護がなければ、機械の保有者や開発者は無防備になり、投資やイノベーションが圧迫されるリスクが生じる、とアボット教授は言う。

同教授はさらに、人間のアーティストの役割を貶めることを避けるためにも、AIが生み出した作品は明確に特定すべきだ、と説明する。

「誰かが私の声を1時間録音し、AIを訓練して音楽を生み出すこともできる。あっという間にAIが作った大ヒット曲が誕生するが、それはまるで私が歌っているように聞える」とアボット教授。

「そうなった場合、私が作者として登録されるのは不当だと言わざるをえない。それではまるで私が優れた音楽家のようだが、実際の私の音楽の才能ときたら酷いものだ」

AIは通常、人間による膨大な量の作品からテクニックを「学び」、その上で作品を生み出す。この学習プロセスでパフォーマンスを利用された場合、人間のアーティストはその対価を受け取るべきだという主張もある。

この点も含め、結局のところ、立法の過程で何が公正と判断されるかに帰着する、とアボット教授は言う。

「企業がビジネスをやりやすくすることを望むのか、それとも創作者がその対価を得ることを望むのか」

パビス氏は、そうした立法における判断は、エンターテイメント産業だけでなく、職場における権利などにも影響を及ぼす可能性がある、と指摘する。コロナ下で仕事の電話やビデオ会議でのやり取りを録音することが当たり前になっているからだ。

「何が認められ何がダメなのか、何が合法で何が違法だと考えるのか、パフォーミング・アーティストたちはちょっと実験用動物に似ている。私たちのデータや顔の画像をどのように作品に使うのが適切だと考えるのか、彼らはそうした論争の最前線に置かれている」と、パビス氏は指摘した。

(Umberto Bacchi記者)

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