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アングル:スマホは「鼻」になるか、難関はにおい検知技術
2016年6月26日 / 02:27 / 1年前

アングル:スマホは「鼻」になるか、難関はにおい検知技術

Jeremy Wagstaff

 6月23日、携帯電話や腕時計は、いまや音や光、動き、接触、方向、加速度、さらには天候まで検知するほどスマートになっているが、まだ「におい」をかぐことはできない。においの検知はテクノロジーの難所となっている。写真は仏アリバル・テクノロジーズが公開した「NeOse」と呼ばれる試作機。50種類の一般的なにおいを検知できる携帯デバイスになるという。パリで4月撮影(2016年 ロイター/Christian Hartmann)

[シンガポール 23日 ロイター] - 携帯電話や腕時計は、いまや音や光、動き、接触、方向、加速度、さらには天候まで検知するほどスマートになっているが、まだ「におい」をかぐことはできない。

においの検知はテクノロジーの難所となり、いくつもの企業が10年以上を費やして挑んできたが、ほとんどは失敗に終わった。

ハードウェア系の新興企業に資金を提供してきたベンチャーキャピタリストのレッジ・スノッドグラス氏は、高性能で携帯可能な「電子の鼻」が生まれたら、健康、食品、個人衛生、さらにはセキュリティに至るまで、さまざまな分野で新たな展望が開けるだろうと話している。

スノッドグラス氏は想像可能な例として、食品や飲料が発散する化学物質に基づいて飲食の内容を分析する、アプリによって病気を早期発見する、潜在的なテロリストが抱く恐怖をにおいで探知する、などを挙げる。「においはパズルの重要な1ピースだ」と語る。

成功していないのは、努力が足りなかったからではない。この分野には、中止されたプロジェクトや破綻した企業が無数に見られる。しかしそれでも、新たな参入者の挑戦が止まるわけではない。

仏グルノーブルに本拠を置くアリバル・テクノロジーズは最近、「NeOse」と呼ばれる商品の試作機を公開した。ひとまず50種類の一般的なにおいを検知できる携帯デバイスになると同社のトリスタン・ルーセル最高経営責任者(CEO)は言う。「リスキーなプロジェクトだ。もっと簡単にできることが世の中にはいくらでもあるのに」と同氏は率直に語る。

<エネルギーではなく質量>

米ハーバード大学で化学工学を研究するデビッド・エドワーズ氏によれば、光や音と違って、においはエネルギーではなく「質量」であるという点が問題だという。「非常に種類が異なる信号だ」と言う。

これはつまり、検知すべき「におい」ごとに別々の種類のセンサーが必要になるという意味であり、デバイスは大きくなり、性能は限られてしまう。たとえば、コーヒーの香りは600以上の要素で構成されている。

限られた産業用途ではあるが、初めて「電子の鼻」を実現したのは仏アルファ・モス(AMOS.PA)である。だが、もっと高性能で小型のモデルを開発しようという同社の試みは暗礁に乗り上げている。

アルファ・モスの米国事業部ボイド・センスは、スマートフォン(スマホ)ににおいの検知・分析機能を与えるデバイスの試作機を発表したが、1年もしないうちに同社のウェブサイトは消滅してしまった。コメントを求めるメールに両社とも回答しなかった。

アダマント・テクノロジーズは2013年、スマートフォンと無線で接続し、ユーザーの呼気から健康状態を判定するデバイスを開発すると約束していたが、やはり沈黙したままだ。創業者にコメントを求めるメールを送ったが、回答はなかった。

今のところ、新興企業はもっと範囲の狭い目標に集中するか、携帯性を必要としない産業用に力を注いでいる。

たとえば、カリフォルニアに本拠を置くAromyxは、大手食品メーカーと協力し、「エッセンスチップ」を使ってあらゆるにおいのデジタル特性を把握しようとしている。このデバイスの前で何らかの食品を振ると、そのデジタル特性を捉えることで、まるで音声・画像ファイルのように操作できるようになる。

 月23日、携帯電話や腕時計は、いまや音や光、動き、接触、方向、加速度、さらには天候まで検知するほどスマートになっているが、まだ「におい」をかぐことはできない。においの検知はテクノロジーの難所となっている。写真は仏アリバル・テクノロジーズが公開した「NeOse」と呼ばれる試作機と同社のトリスタン・ルーセルCEO。パリで4月撮影(2016年 ロイター/Christian Hartmann)

ただ、同社CEOクリス・ハンソン氏によれば、「チップ」という名称とは裏腹に、この機能は半導体によって実現されているわけではない。持ち運んだり身につけたりできるようなデバイスでもない。「モバイル機器、ウェアラブル機器になるのは、少なくとも10年は先だろう」とハンソンCEOは言う。

問題の1つとして、人間や動物がどのようににおいを検知し解釈しているのか、いまだに十分理解されていない点がある。嗅覚、つまりにおいの原理を解明したことに対してノーベル賞が与えられてから、まだ12年しか経っていないのである。

「嗅覚をめぐる生物学は、依然として科学における最前線領域であり、神経科学の最前線と深く絡み合っている」と前出のエドワーズ氏は語る。

<においの検知よりも発散>

こうした状況のために、新興企業は手の届きやすい成果をめざすようになっている。

 6月23日、携帯電話や腕時計は、いまや音や光、動き、接触、方向、加速度、さらには天候まで検知するほどスマートになっているが、まだ「におい」をかぐことはできない。においの検知はテクノロジーの難所となっている。写真はワシントンで桜の花の香りを嗅ぐ男性。3月撮影(2016年 ロイター/Yuri Gripas)

前出のスノッドグラス氏は、空気の品質を測定するウェアラブル機器「Tzoa」を開発する新興企業に投資している。同氏によれば、この製品に対しては、大気汚染のひどい中国からの関心が特に高いという。

別の例としては、先月、食品にタンパク質やグルテン、ピーナッツ、牛乳などの成分が含まれているかどうか調べることのできるデバイスを開発するために、900万ドル(約9億2000万円)の資金調達を行ったNimaがある。同社によれば、最初の製品はまもなく入手可能になるという。

今のところ、携帯電話はにおいの検知よりも、むしろにおいを発生させるようになる可能性の方が高い。

4月、エドワーズ氏が経営するVapor Communicationsは、「シラノ」という製品を発売した。手のひらサイズで、スマホアプリから指示を送って、香りを発生させることができる。「iTunes(アイチューンズ)や「スポッティファイ(Spotify)」がスピーカーに指示を送って音が鳴るのと同じことだ。

日本の新興企業Scenteeは、共同創立者の坪内弘毅氏によれば、芳香剤を噴霧するスマホ用モジュールを改良し、香りのメッセージの送信から、部屋の香りをコントロールする方向へとシフトするという。

懐疑的な見方はあるかもしれない。私たちの生活に香りを持ち込もうとして失敗した例は、実際の歴史でも映画のなかでも、1930年代から無数に見られる。だが企業は、そうした試みが復活する気配を嗅ぎつけている。

オランダのフィリップス・グループ(PHG.AS)は、先日、嗅覚を含むユーザーの感覚を刺激することによってユーザーの行動に影響を与えるデバイスに関して特許を出願した。ナイキ(NKE.N)も、これに類似しているが、ユーザーのヘッドフォンやアイウェアから香りを噴出させることで競技性能の向上を図るという特許を出願している。

とはいえ、やはり究極の目標はにおいの検知である。

韓国サムスン電子(005930.KS)は最近、スマートフォンから電子タトゥーに至るまで、どんなデバイスにも組み込むことのできる嗅覚センサーに関する特許を取得した。

香りの専門家で、その科学的な仕組みについての著書もあるエイヴリー・ギルバート氏によれば、いずれはこのようなデバイスが当たり前になり、専門的なアプリケーションが私たちの生活に徐々に組み込まれていくだろうと言う。「何もかも一気に解決されるとは思っていないが」と同氏は付け加えた。

(翻訳:エァクレーレン)

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