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焦点:米アップルの中国労働環境改善、製造業全体に波及へ

[サンフランシスコ 29日 ロイター] 米アップルAAPL.Oが中国での主要生産委託先と労働環境の改善で合意したのを受け、すでに中国での賃金上昇に悩まされている衣料品メーカーや玩具メーカーなどの製造業には、新たな圧力がかかることになる。

3月29日、米アップルが中国での主要生産委託先と労働環境の改善で合意したのを受け、すでに中国での賃金上昇に悩まされている衣料品メーカーなどの製造業には、新たな圧力がかかることになる。都内のアップルストアで昨年10月撮影(2012年 ロイター/Yuriko Nakao)

アップルは29日、「iPhone(アイフォーン)」や「iPad(アイパッド)」の生産を委託している富士康科技集団(フォックスコン・テクノロジー・グループ)との間で、賃金や労働環境の改善に取り組むことで合意。中国で事業を行う欧米企業として大きな一歩を踏み出した。フォックスコンは台湾の鴻海精密工業(ホンハイ・プレシジョン・インダストリー)2317.TWの関連企業。

アップルの今回の動きは、衣料品メーカーなど、中国に工場を持つ労働集約性のより高い製造業にとっては、間接的な賃金上昇圧力となり、利益率の低下をもたらす可能性がある。

サプライ・マネジメントのコンサルタント会社ブラボソリューションのポール・マーティン氏は「電子機器メーカーの賃上げは、結果として製造業全体に影響を与えることになる」と述べた。

アップルとフォックスコンの合意は、米国のデルDELL.Oやヒューレット・パッカード(HP)HPQ.N、アマゾン・ドット・コムAMZN.O、モトローラ・モビリティMMI.N、フィンランドのノキア、日本のソニー6758.Tなど、フォックスコンに生産委託している他のメーカーにとってもコスト高につながる可能性がある。ただ、人件費はこうした企業のコストのごく一部にしかすぎないため、商品値上げや利益率圧迫への圧力は限定的なものになるとみられる。

欧米や日本の企業は過去数十年にわたって中国拠点を積極的に拡大してきたが、現地の安価な労働力はもはや限りがあるようにみえる。中国の右肩上がりの賃金上昇は、現地労働力に大きく依存する企業にとっては大きな懸案となっている。

中国のエレクトロニクス産業での賃金引き上げはすでに、衣料品や靴、玩具のメーカーなど、構造が単純で人件費の比率が高い製造業にも波及している。

29日にロイターのインタビューに応じた米家電量販店ベスト・バイBBY.Nのブライアン・ダン最高経営責任者(CEO)は、中国での賃金上昇を注視しているとしたうえで、同社が直面するような利益への圧力は、どこも感じているとの考えを示した。

<勝者と敗者>

アップルが合意した労働環境の改善には、数万人の従業員を新たに雇用し、不法な残業をなくし、安全手順の改善や従業員の住宅、その他の設備の刷新を行うことなどが含まれている。これらはいずれ、製造業全体の賃金上昇圧力につながるとみられる。

今回の合意は、独立系労働監視団体である公正労働協会(FLA)から、アップルの製品は中国労働者の犠牲の下に生産されていると指摘されたことを受けたもの。同協会はフォックスコンの3工場で働く3万5000人以上の労働者に対する調査に基づき、極端な長時間労働や残業代未払いなど、労働法に反する行為が行われていると指摘していた。

FLAのファン・ヒールデン会長は、ロイタ―に対し「アップルとフォックスコンは明らかに、ハイテクセクターの2大プレーヤーだ。この2社が共にそうした改革を主導することから、セクター全体の基準が設定されることになるだろう」と語った。

ノートパソコンやスマートフォンの製造では、マイクロチップやセンサー、高性能ディスプレーなどのコストに比べて人件費はほんの一部であり、iPhoneの場合、一部アナリストはコスト全体の約5%と指摘している。

米デルはロイター宛ての電子メールで、フォックスコンの労働慣行改善は喜ばしいとしたうえで、「長時間労働の減少や賃金の上昇がフォックスコンのコストにどう影響するかは憶測を控えたい」と述べた。

アナリストによると、家電業界では、部品価格の変更や利益率のより高い製品の投入により、賃金上昇は見えにくくなったり、相殺される傾向にある。

調査会社ABRインベストメント・ストラテジーの共同創業者ブラッド・ガストワース氏は「中国での賃金は過去数年で大幅に上昇しているが、小売価格には何の影響も与えていない。ウルトラブックなど利益率のさらに良い製品へのシフトが、労働コストの上昇を相殺する役割を果たす傾向も起きている」と述べた。

中国南部の一大製造業集積地である広東省深セン市は2月、工場経営者や輸出業者の反対を押し切り、市の最低賃金を13.6%引き上げた。

中国の受託生産最大手であるフォックスコンは、他の小規模なライバルに比べると有利なポジションに立っているが、それでもアップルやHP、アマゾンなどの取引先を賃上げの矢面に立たせることは難しそうだ。

デトワイラー・フェントンのハイテク担当リサーチ部門の責任者、マーク・ガーバー氏は「もしフォックスコンが値上げを試みれば、アマゾンはクアンタ(広達電脳)やウィストロン(緯創資通)、ぺガトロン(和碩聯合科技)、インベンテック(英業達)といった他社に乗り換える可能性がある」と述べた。

一方、ブラボソリューションのマーティン氏によると、衣料品や玩具など人件費の影響をもろに受けるメーカーは、賃金上昇を埋め合わせるため、製品の品質を犠牲にする可能性がある。

同氏は「製品の多様性や品質が低下するかもしれない。衣料品や玩具など、これらセクターの一部で起きた変化の結果として、不良品が増えるかもしれない」と指摘。電子機器製造業の賃金上昇がゆくゆくはプラスチック玩具メーカーにも波及し、米国のファストフードチェーンが子供向け販促グッズに質の悪いプラスチック玩具を使わざるを得なくなるかもしれないと述べた。

(ロイター日本語ニュース 原文執筆:Noel Randewich記者、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)

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