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焦点:米ホームオートメーション市場、多業種参入で競争激化

[ニューヨーク 23日 ロイター] 世界最大手の住宅用錠前メーカーでもある米インガソール・ランドIR.Nのポール・キャムティ最高技術責任者(CTO)は、自宅の鍵がどこにあるか分からないという。その理由は、スマートフォンが鍵代わりになるからだ。

8月23日、米ホームオートメーション市場は、ケーブル・通信サービス会社も参入計画を進めており、新たな競争が生まれつつある。写真はバージニア州で建設中の住宅。15日撮影(2012年 ロイター/Larry Downing)

セキュリティ関連商品から空調システムまで手掛ける産業機械大手のインガソールは、ホームオートメーション(HA)市場に参入しようとする数多くの米メーカーの1つだ。HA技術を使えば、外にいながら自宅の鍵の開閉やエアコン、電気使用などをコントロールできる。

この市場では、ハネウェル・インターナショナルHON.Nやユナイテッド・テクノロジーズUTX.N、タイコ・インターナショナルTYC.Nが先行しているが、ベライゾン・コミュニケーションズVZ.NやAT&TT.N、コムキャストCMSCA.O、タイム・ワーナー・ケーブルTWC.Nといったケーブル・通信サービス会社も参入計画を進めており、新たな競争が生まれつつある。

インガソールの予測では、米国におけるエネルギー・セキュリティ関連HAの市場規模は今後5年で、現在の15億ドル(約1180億円)から最高25億ドルになるとみられている。ただ、その実現には機器などの低価格化が進む必要があるという。

現在、HAシステムが整備されている米住宅はわずか3%。しかし専門家によると、この市場では今後2桁の成長が見込まれる。ブロードバンドインターネットやスマートフォンの普及がその成長につながるという。

成長の阻害要因としては、なお低迷する米経済や住宅市場のほか、スマートフォンを通じてセキュリティシステムに侵入する恐れがあるハッカーなどが挙げられる。しかし、アナリストらが指摘する最大のハードルは、消費者の認知だ。自宅に帰る前にアプリでエアコンを付けるなどは今でも奇抜なアイデアで、小難しく見える。

しかし、消費者にサービスの使いやすさを理解してもらう必要があるという点では、多くの経験を持っているのがケーブル会社や通信会社だ。

AT&TデジタルライフのCMに登場するある住宅オーナーは、「外出しているときに、水漏れになった経験がありますか。外にいながら元栓を閉めることができる」とPRする。

一方、ハネウェル関連会社のロン・ロスマン社長はケーブル会社などがパートナーであると同時に競合相手であると言う。メーカーはシステムをつなぐためにケーブルや電話線が必要で、ケーブル会社などはメーカーが提供する機器を利用したサービスを提供しているからだ。

そのロスマン社長は「業界を押しとどめている、つまり普及率やまだ高くない理由は使いやすさだ」と分析する。

<子どもやペットなどをモニター>

業界専門家によると、HAの実験的な試みは規模の小さい海外の市場にも存在するが、米国はHA技術の導入では他国にかなり先んじているという。

業界1位のタイコのADTサービスでは、外出先からエネルギー使用をモニターすることが可能。シェア25%を占める同社の売上高は、2位と3位の合計額の5倍に上っている。

通信機器の低価格化で、これまであったさまざま電子機器に制御・モニター装置を安価に取り付けられるようになり、エネルギー使用からエアコンフィルターなどの消耗品交換まで、あらゆるデータを取れるようになった。

メーカー各社は、機器販売よりも高い利益が得られることが多い使用契約型のHAサービスを拡大させる計画を進めている。電気タービンやエレベーターなど重機メーカーなどで既に採用されている同モデルでは、売り上げを予想しやすくなり、循環的な景気変動にも柔軟に対応できるという利点がある。

HAの活用例は多種多様で、学校からの子どもの帰宅が遅くなったり、ネコが外出したり、高齢の家族に支援が必要になったりした際にメールを送ることができるほか、庭師を敷地に入れたり、宅配が届いた場合にガレージの扉を開けるという使い方もある。

バーンスタインリサーチによると、HAサービスで監視されている住宅は北米で約3000万戸で、景気後退(リセッション)前の3600万戸から減少している。侵入防止用アラームを取り付けているだけの住宅が多いが、そうしたケースが成長の基盤になるとみられる。

コンサルティング会社TRGアソシエイツ社長で、セキュリティコンサルタントのジョン・ブラディ氏は、「HA分野において、できることはまだたくさんある」と指摘。セキュリティシステムが備わっている米住宅は25%以下で、ケーブルテレビの普及率のおよそ半分程度だという。

こうしたサービスは今後高齢化に伴って普及し、照明や温度制御から医療サービスに発展するとみられる。健康サービス事業者にとっては、患者が薬を飲んだり、緊急ケアが必要な場合に把握することもできるようになる。

HAサービスを提供する企業は、今後数年間でビジネスモデルについて決定することになる。機器の販売・設置、契約型サービスの提供、近くHAシステムの提供を始めるロウズなど大手小売りとの提携などのモデルから、どれが自社にとって最適かを選ばなければいけない。

サービスが始まってまだ間もないため、市場規模の予想はさまざまだが、ハネウェル関連会社のロスマン社長は、出発点を親会社のハネウェルがこれまでに全世界でサービスを提供してきた1億5000万戸だと指摘。その多くは容易に機器の機能をアップグレードできるという。

ロスマン社長は「われわれはソフトウエアを持つハードウエア製造会社だ」と述べ、「ソフトはもっと販売したい。しかし、なおハードも重視している」と話している。(原文執筆:Nick Zieminski記者、翻訳:橋本俊樹、編集:宮井伸明)

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