February 1, 2018 / 11:00 PM / 6 months ago

コラム:米テスラの「過ち」、CEOに最大6兆円の成果報酬

[ロンドン 31日 ロイター BREAKINGVEWS] - 企業は、時として先を見通す能力のある天才的経営者を必要とする。だが時には、もっとありふれたスキルを持つ人物が不可欠だ。

1月31日、企業は、時として先を見通す能力のある天才的経営者を必要とする。だが時には、もっとありふれたスキルを持つ人物が不可欠だ。写真は米ユタ州ソルトレイクシティで2017年9月撮影(2018年 ロイター/Lucy Nicholson)

米電気自動車(EV)大手テスラ(TSLA.O)は、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)に今後10年で最大600億ドル(約6兆5600億円)の株式を供与する計画を発表したが、これは、どのような経営者が自社に適切かについての混乱ぶりを示している。

「イーロン」(株主宛の手紙で、テスラ創業者にしてCEOの天才をこう呼んでいる)が新たな大目標を達成した場合、同社の10%を彼に差し出すという方針について、投資家はそれほど心配していないようだ。1月23日の発表以降、同社株は2%しか下落していない。

マスクCEOがテスラを大成功に導くことを株主は夢見ているようだ。だがそれは、大きな飛躍だ。2017年1─9月期に、テスラの営業損失は売上高の11.5%相当に達していた。赤字経営で大きな成長は望めない。第3・四半期の売上高は、前年同期比8%と凡庸な増加だった。

さえない決算には、もっともな理由がある。

売り上げの伸び悩みは、テスラの新車種「モデル3」量産の苦労を反映している。損失は、新興メーカーとしては当然とも言える「規模の経済」の欠如から来ている。

しかし、マスクCEOが目標達成して巨額の富を手にするには、テスラはスタートアップの真逆にならなければならない。株式インセンティブの最後の1%を手にするには、テスラは米自動車メーカーで現在最も成功しているゼネラル・モーターズ(GM.N)と同程度の規模と利益率に成長する必要がある。これは、本当の挑戦だ。

そこに到達するには、マスク氏の技術革新マジックが必要だが、素晴らしいアイデアだけでは不十分だ。大局観と天才のひらめきでは、自動車の組み立てラインは動かない。

製造業には、あらゆる細部に絶え間なく注意を注ぐことが求められる。米自動車メーカーが痛い目に遭いながら学んだように、普通の技術力はもちろん、意欲ある労働者、協力的サプライヤー、友好的な規制当局者、強力な品質管理が十分でなければ、失敗が待っている。

テスラが直面する障壁は、経験豊富な既存自動車メーカーのどれよりも高い。単に追いつくだけでは不十分だ。数百万の新規顧客を獲得するには、ライバルの上を行く必要がある。

これは不可能ではない。EV分野ではテスラが先行している分、なおさらだ。だがEVが自動車であることに変わりはない。製品に価格競争性を持たせつつ安全性を確保するには、挑戦者は、現在のイマジネーションを基調とした企業文化に、伝統的な官僚的信頼性を追加しなければならないだろう。

マスクCEOの巨大報酬スキームに潜む英雄崇拝は、テスラがまだこうした現実を把握していないことを示唆している。

創業者のアプローチは、ほとんど文字通り火星を目指すものだ。それは、競争が激しく、コスト削減が漸進的にしか進まない資本集約型の産業に必要な、綿密さや慎重さを推奨する考え方ではない。

この賭けは高くつく。小さな誤ちでも人命が失われ、企業の評判を失墜させかねないため、急ぎすぎは会社の命取りになりかねない。一方で、テスラの学びが遅すぎれば、経験豊富で資金力のあるライバル企業に競合製品を開発する時間を与えてしまう。

これまで収益性の高い大量生産企業を経営した経験のないマスク氏は、正しいバランスを見極めるには不適切な人物であると思われる。

確かに、巨額を手にするための最善策は、より経験豊富な幹部を執行責任者に起用することだとマスクCEOが気付く可能性はある。だが今回の報酬案を見る限り、謙虚さを身に着けたようにはみえない。

テスラ経営陣とマスク氏は、シリコンバレー的な困惑に陥っている可能性はある。テスラは、グーグルの親会社アルファベットや、フェイスブック、マイクロソフトのような新しい種類のソフトウェア企業だと考えているのかもしれない。

テスラの株主は、これら3社のような収益性はもちろん歓迎するだろう。3社の直近年度における営業利益率の平均は、驚きの32%だ。だがそれは、10%の営業利益率でも極めて高いとみなされるほど競争の激しい自動車産業においては、無駄な夢だ。

あるいはマスクCEOは、自分の会社を次のアップルにしようと考えているかもしれない。アップルの昨年の利益率は27%だった。

だがここでも、模倣は無意味だ。徹底したアウトソーシングのおかげで、アップルの年間売上高は、バランスシート上の物的資産価値の7倍近くに達している。大半の自動車メーカーでは、この値は4─5倍だ。

確かに、EVにおいては、ソフトウェア対金属の比率がガソリン車よりも高い。だがそれでも、サーチエンジンやソーシャルネットワーク、スマートフォンより、はるかに高いレベルの精密エンジニアリングが全ての自動車に求めらることに変わりはない。

そして、 素早く時に軽率なシリコンバレーのイノベーションは、極めて高い耐久性が求められ、エラー許容度が極めて低い自動車産業には向いていない。

少なからず存在するテスラに懐疑的な人は、同社が成功するには奇跡的な変身が必要だと言う。現在の株主は、今回のマスクCEOに対する報酬計画がもたらす株式の希釈は、その実現のために必要な代償だと考えているとみられる。しかしながら、株式市場の夢はいずれ、生産市場の現実に取って代わられる。

マスクCEOに会社の所有権をさらに手渡す約束をするより、テスラの社外投資家は、もっと会社のコントロールを握る方向へと動くべきだ。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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