[サンフランシスコ 2日 ロイター] - 米電気自動車(EV)大手・テスラのサプライヤーが戦々恐々としている。景気が減速する中で積極的な値下げに踏み切った同社のマスク最高経営責任者(CEO)と幹部陣が、サプライヤーに取引価格のさらなる引き下げを迫ってくるのではないか、とみているためだ。複数の業界幹部やサプライヤーなどが明らかにした。
サプライヤー側が不吉な前兆と受け止めたのが、先月のテスラのカークホーン最高財務責任者(CFO)の発言。カークホーン氏は、テスラがサプライチェーン(供給網)を含めたあらゆる分野でコスト圧縮と格闘しているところで、サプライヤーと協力して取り組んでいくと表明した。先週にはマスク氏も、景気後退(リセッション)がほぼ全ての投入コストの「相当な低下」につながる可能性があると述べた。
弁護士でサプライヤーの代理としてテスラや他の自動車メーカーとの折衝に当たるダン・シャーキー氏は「(自動車メーカーが)車の値下げをする局面は、下請けにしわ寄せがいくので、サプライヤーにとって決して朗報とは言えない」と話す。
その上で「私のメッセージは、サプライヤー側にもういかなる余裕もないということに尽きる。多くのサプライヤーは資金面で苦境にある」と訴えた。
事情に詳しい2人の関係者によると、テスラは同社の世界第2位の市場である中国でも、サプライヤーにコストを圧縮するよう圧力をかけている。
例えば、1月半ばのある会合でサプライヤーの1社は、競争激化を理由に10%のコスト削減目標をテスラから提示されたもようだ。
テスラはコメント要請に応じていない。また、パナソニックやLGエナジー・ソリューション、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)などテスラの大半のサプライヤーは、守秘義務協定を結んでいる関係で、テスラに関する情報を公的に議論するのを避けている。
このようにテスラがコスト圧縮に熱心になっているのは、同社に追随してライバルのフォード・モーターも値下げに動き、価格競争が加速して利益率が縮小しかねない事態になっているという事情がある。テスラの利益率は現在、業界で最も大きい。
あるテスラのサプライヤーの幹部は、新型コロナウイルスのパンデミック中にテスラが重視していたのは価格よりも納期で、部品をより早期に入手するためにむしろ割高な取引価格を受け入れていたと説明。先月の業績発表後に飛び出した一連のコメントは、様相が変わるシグナルではないかと不安を感じている。
<慈善団体ではない>
コンサルティング会社・ベインの調査に基づくと、パンデミック期間にテスラや他の自動車メーカーは、値上げを実現してしっかりした利益率を確保した。
その半面、サプライヤーはコスト上昇分を取引価格に完全には転嫁できず、利益率は低下した。昨年第3・四半期で比べても、メーカーの利益率はサプライヤーを3ポイント近く上回っている。
既に経営環境が厳しい一部サプライヤーにとって、取引価格をさらに下げられれば深手を負いかねない、と複数の業界幹部は懸念する。
実際、テスラを最大口顧客としていた自動車部品メーカーのギッシング・ノースアメリカは昨年、人件費とコモディティー価格の高騰を理由として破産申請した。
弁護士のシャーキー氏は「慈善団体のサプライヤーなど1社も存在しない。彼らは利益を稼ぐ必要があり、赤字になれば資金的に立ちゆかなくなる」と警告する。
マスク氏は、価格を下げても販売数量の増加で元が取れるとの理屈でサプライヤーを安心させるつもりではないか、との見方も聞かれる。
ただ、一部のサプライヤーは、原材料費の高騰を理由に取引価格の引き上げに動いている。
NXPセミコンダクターは1日、自社の投入コスト上昇のため顧客に請求する製品代金を上げると発表した。シーバースCEOによると、自動車会社からは値上げに対する大きな反発はないという。NXPはテスラのサプライヤーかどうか公表していないが、アナリストによるテスラ車の解体で、その証拠が示されている。
テスラ元幹部の1人はロイターに、同社の場合はサプライヤーに対して経営効率化の取り組みを「共有」することで取引価格を下げてほしいと交渉するか、単純にサプライヤーに自分たちの利益率を犠牲にして価格を下げろと強要するか、どちらのケースもあり得るとの見方を示した。「他の全ての(メーカー)が何十年も実行してきたことを、テスラはこれからやろうとしている」という。
いずれにしても、サプライヤーからの抵抗は必至とみられる。サプライヤーと仕事をしているコンサルタントのローリー・ハーバー氏は「コスト削減を巡るサプライヤーからの風当たりは相当に大きくなるだろう」と述べた。
(Hyunjoo Jin記者)
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