October 25, 2012 / 3:57 AM / 7 years ago

コラム:オバマ米大統領の続投でドル安は本当か=高島修氏

[東京 25日 ロイター] 2週間後に迫った米大統領選挙は思った以上の接戦になりそうだ。民主党のオバマ大統領と共和党のロムニー候補の経済政策上の対立軸なども随分明確になってきた。

現在のところ、為替市場は「オバマ大統領の続投でドル安」「ロムニー候補の勝利でドル高」というモノクロ的な理解をしているようだが、果たしてそれで良いのだろうか。

オバマ大統領続投でドル安と解釈される一つの理由が、「財政の崖」である。オバマ大統領は共和党のブッシュ大統領が導入した減税策の継続には否定的。減税打ち切りに伴う実質増税と歳出自動削減の実施で「財政の崖」は大きくなる。景気に下押し圧力が加わり、バーナンキ議長率いる米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和第4弾(QE4)など、さらなる金融緩和策を断行し、ドル相場は下落する。雇用対策を兼ねて製造業の復活を掲げているオバマ政権は、そうした政策によって生じるドル安を事実上は歓迎するはずだ、というストーリーである。

一方、ロムニー候補が勝利する場合は、ブッシュ減税は延長されやすくなり、「財政の崖」はオバマ大統領続投のケースに比べれば小さくなる。景気への悪影響も限られ、追加緩和観測は後退。しかも、ロムニー候補は2014年1月に任期が切れるバーナンキ議長を再任しないと公言しているから、FRB議長は辞任の可能性も含め1年以内に交代する公算が高い。その場合、現行の緩和路線を痛烈に批判している人物(たとえば、ブッシュ政権下で大統領経済諮問委員会委員長を務めたハバード・コロンビア大教授など)が後を継ぐ可能性がある。その結果、金融政策は引締め色を増しドル相場は底堅さを回復。副大統領候補のライアン下院議員はドル高政策を訴えており、オバマ政権とは対照的に、ロムニー政権ではそうして生じるドル高は歓迎されるはずだ、といったストーリーである。

ここで気がつくことは、ドル高かドル安かを占うに当たって、FRBの金融政策が焦点となっている点だ。

「FRBの金融緩和でドル安、金融引締めでドル高」というのは非常に分かりやすいロジックだが、筆者は単純化しすぎていると考えている。

確かに、過去におけるFRBの利上げはドル高として結実したことが多く、利下げはドル安を招いたことが多い。だが、08年末に政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利はゼロ金利となり、その後、現在までFRBが勤しんでいるのは量的緩和など非伝統的金融政策である。その金融経済に及ぼす効果が不透明であることは、FRBをはじめとした各国の中央銀行が認めているところだ。

実際、為替市場でも、FRBがバランスシートを急拡大させ始めた09年以降、米ドルの通貨インデックスは下げ渋り、むしろ02年以降の長期ドル安相場に終焉の兆しさえ強まってきた。過去を振り返っても、01年から06年にかけて、日銀が量的緩和策を導入、拡充した際には、円安どころか円高が進行した。当時、FRBの果敢な利下げがドル安圧力を生み、日銀の量的緩和はそれに対抗できなかったからだ。目下、金利政策という手段を持たないFRBの金融緩和の可能性に過度に依存して、大統領選挙後のドル相場の行方を占うのは危険である。

<財政収支との相関から占うドル相場>

一方でより実証的に、長期間にわたってドル相場との相関を確認できるのが、米国の財政状況だ。為替相場が変動相場制に移行して以降、レーガン政権下でインフレ撲滅のため「強いドル政策」がとられ、景気不振から財政赤字が拡大した80年代前半を除けば、米財政赤字(経済規模比)と米ドル通貨インデックスは粗方の方向性を一致させてきた。

経常赤字国である米国はその赤字のファイナンスを海外に依存している。通常、対米証券投資の8割強は債券投資によって占められ、その中心は市場規模の大きな米国債への投資である。こうした収支構造下、米国景気が悪化し、財政赤字が膨らむ時には、米国債の発行量は増え、しかもFRBの金融緩和で債券利回りは低下(債券価格は上昇)する。需給が悪化し、かつ割高化した低利回りの資産で海外の投資家は米国の経常赤字をファイナンスさせられるため、為替市場ではドル安が進みやすくなる。

反面、米経済が回復し始めると、財政赤字の縮小に伴って米国債の供給は減少。その時、FRBの金融引締めで、米国債利回りは上昇(債券価格は下落)している。需給が改善し、かつ割安化した高利回りの資産で米経常赤字はファイナンスされる。その結果、為替市場ではドル高が進みやすくなると考えられる。

<むしろドル高を示唆するオバマ氏続投>

このように純粋に、財政収支とドル相場の関係に着目するならば、米財政収支を半強制的に改善させる「財政の崖」が必ずしもドル安要因とは言えないことが理解できる。というより、むしろ「財政の崖」が大きければ大きいほど、「ドル高を示唆している」と捉えるのが基本的な理解であるべきだろう。

もちろん、来年、米国で想定されるのは税制変更に伴う財政収支の改善だけだ。過去とは異なり、米経済の回復に裏打ちされたFRBの金融引締めとそれに伴う米国債利回りの上昇が期待できる訳ではない。また、米経済が安定的な回復基調を辿り、税収が自然増とならなければ、財政収支の改善は持続的なものとはならない。「財政の崖」によるドル高効果は表面的な財政収支の改善の割には限定的で、一時的なものに留まるだろう。

ただし、02年以降の長期ドル安局面を振り返ってみると、01年と03年に行われたブッシュ減税とそれに伴う米国の財政収支悪化が、長期化した米ドル安の一大要因であったことは間違いないだろう。そのブッシュ減税を巻き戻す「財政の崖」は、09年頃から続く米ドルの長期底入れの支援要因になってくるのではないか。

短期的には、FRBの金融緩和観測に着目し、「オバマ大統領続投でドル安」「ロムニー候補勝利でドル高」との反応を為替市場は見せよう。だが、ロムニー候補の場合、「財政の崖」の規模の小ささに加え、減税志向の財政政策が中期的には米財政収支の改善を遅らせ、結果的にドル安方向に作用する懸念がある。反面、オバマ政権の下で、景気回復に伴って、緩やかながらも着実な自然税収増が期待できるのなら、相対的には「ドル高を示唆している」との解釈が妥当だろう。

*高島修氏は、シティバンク銀行のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年にシティバンク銀行へ移籍。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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