November 6, 2012 / 4:12 AM / 5 years ago

コラム:日銀依存シンドロームとデフレへの処方箋=加藤隆俊氏

[東京 6日 ロイター] 海外経済の減速の強まりや日中関係の緊張による先行き不透明性の増大を受け、日本の景気の弱含みを示す指標がこのところ相次いでいる。こうした足もとの動向を背景に10月30日の日銀政策決定会合が一段の金融緩和の強化を決定したことは、妥当であり市場の強い期待に応えたものであるといえよう。

また、デフレ脱却に向けた政府および日銀双方の課題が共通の認識として整理されたことは、デフレ問題に関する内外の議論を誘導する枠組みを明確化するものとして評価したい。

日中問題の影響など海外経済のさらなる落ち込みによる景気の底割れを防ぐ措置として今後も金融当局への期待が高まることはありえようが、金融緩和のみによって長期の経済低迷から脱却できるかのような見方には反対である。

そもそも金融政策は、潜在成長率の持続的な向上を約束するものではない。その目標は物価や通貨価値の安定であり、それによって安定的な経済活動を促すことである。潜在成長率の引き上げに必要な成長セクターへの資源配分は、規制緩和など構造政策を通じて実現される性質のものだ。

米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)との比較で、日銀の措置がいまだ不十分だと主張する人たちは、日米欧の金融緩和の背後にある「三者三様の事情」に改めて目を向けるべきである。たとえば、なぜECBが3年物資金の無制限供給オペにまで踏み出したかと言えば、ユーロ圏のマネーマーケットが機能不全に陥り、流動性を供給しないと域内経済活動が阻害される懸念があったからだ。ところが、日本は現時点で、そこまでの事態には至っていない。

一方、米国の場合は、リーマンショック後のマネーマーケットの大混乱は収まったが、サブプライム問題で甚大な打撃を受けた金融機関はいまだ復調に向けた歩みの途次にある。家計も相当な規模の債務整理を迫られており、景気は通常のリセッション後の回復パターンとは違った足取りをたどっている。

日本は、この点でも違う。バブル崩壊後に過剰債務の整理で苦しんだ経験もあり、邦銀はサブプライム関連商品への投資に慎重な姿勢を貫き、欧米勢が陥ったような資本不足に悩む状況にはない。家計部門に目を転じても消費は弱いが、信用収縮に伴う債務整理を迫られているような状況にはない。ただ一方で、日本の実体経済は世界経済が一気に冷え込んだ影響に伴う財やサービスの輸出の落ち込みや福島原発事故後のエネルギー輸入代金の著増を通して、大きな打撃を被っている。2012年度上半期の貿易収支は、半期ベースでは過去最高の3兆2190億円の赤字となった。

この事態に対して日銀は、低金利の維持、資産買い入れ基金の創設、その規模や対象の拡大、そして時間軸の延長で対応してきた。日銀のバランスシートを見ると、リーマンショックが発生した2008年以降の拡大ペースこそFRBやECBに比べるとかなり緩やかだが、国内総生産(GDP)に対する比率は08年以前から一貫して高く、最近ECBに抜かれるまで主要中銀の中で最も大きかった。他面、こうした日銀のバランスシートの増大が金融面の不均衡を蓄積させる要因に結びつくリスクはないのか、今後とも金融緩和を強化していくにあたっては点検し続けることが必要であろう。

<先進国の量的緩和が新興国に及ぼす悪影響>

確かに、FRBは、金融政策の目的としての「雇用の安定」を強調している。しかし、雇用は本当に金融緩和によって持続的に回復するような性格のものなのか。この点については、米国の経済学者の間でも両様の見方があると理解している。

そもそも米国や日本に限らず先進国が等しく直面している雇用問題は、グローバリゼーションが進展する中で新興国に雇用が移り、中間層の没落が進んでいるという国際経済の構造変化に由来している。これは、紙幣の大増発のみで解決できるような類の問題ではない。

先進国に必要なのは、新興国に対して比較競争優位を持てる産業・需要の創出であり、それには硬直した既存の規制枠組みにメスを入れるなどの経済構造改革が不可欠だ。また、自由貿易協定(FTA)などの締結によって貿易パートナーとの取引を活性化させ、特に新興国の成長を取り込むことも重要な戦略であり、実際に欧米はその方向に向かって突き進んでいる。

欧州連合(EU)と米国はFTA締結に向けた交渉を来年から始める予定だ。ちなみに、韓国は双方とFTAを結んでいる。これで欧米が互いにFTAで結びつけば、日本は蚊帳の外にはじき出される。困ったときの日銀頼みではなく、そうした危機感を持って、FTAや環太平洋連携協定(TPP)問題にアプローチするほうが重要ではないだろうか。

また、これは日本だけに言える問題ではないが、先進国の量的緩和が新興国の資産価格や一次産品価格に与えるネガティブな影響にも留意すべきだ。

海外からの資金流入によって、新興国の中には、株価が急騰したり、自国通貨が対ドルで最高値を更新したりしている国が増えている。この状況を放置すれば、通貨のさらなる切り上げを通じてバブルを招く恐れがある一方で、安易に介入すれば、インフレ圧力が増し、景気の腰を折る可能性がある。先進国の節度なき量的緩和は、新興国に経済政策の難しいかじ取りを迫るリスクがあることは先進国側も十分認識しておくべきであろう。

*加藤隆俊氏は、元財務官(1995─97年)。米プリンストン大学客員教授などを経て、2004─09年国際通貨基金(IMF)副専務理事。10年から公益財団法人国際金融情報センター理事長。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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