November 7, 2012 / 8:27 AM / 5 years ago

コラム:オバマ再選が導く強力緩和体制、崖の先に日本のリスク

田巻 一彦

[東京 7日 ロイター] オバマ米大統領の再選が決まり、バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長のリーダーシップによる量的緩和第3弾(QE3)路線が強くサポートされるだろう。懸念される財政の崖をめぐる米経済へのマイナス効果は、短期的にはQE3の強化で乗り切るシナリオが予想される。

仮に米金融政策の余波でドル安/円高が進展しそうになれば、12月にも日銀が追加緩和に踏み切るシナリオも排除できないだろう。欧州では欧州中銀(ECB)による新たな債券買い入れプログラム(OMT)が導入され、米欧日とも強力な金融緩和政策を推進し、その効果が出ている間に財政赤字削減に向けた構造改革に取り組む体制が出来上がったと言えるのではないか。

ただ、米国が財政の崖を克服した後に、大きな地殻変動が待ち受けている可能性がある。住宅や自動車販売などの回復、シェールガス・シェールオイルを背景にしたエネルギー革命が奏功し、米経済が目覚ましく回復すれば、米長期金利は上昇に転じるのではないか。その動きが日本国内に波及すると、先進国で最も安定している金融システムが一転、激しく動揺するリスクも出てくる。

<6000億ドルの米財政の崖、放置なら米経済下押し>

共和党のロムニー候補が当選した場合、米国のマクロ経済政策で最も影響を受けるのは、金融政策の運営スタンスであるとみられてきた。ロムニー候補はQE政策に批判的で、QE3政策の変更やバーナンキ議長の任期切れ前の辞任の可能性なども予想される展開の1つだった。

しかし、オバマ大統領が再選されたことで、バーナンキ議長の強い指導力で進められているQE3が、このまま遂行されることが決まったと言える。強力な金融緩和政策で米経済のリスクを低減しながら、オバマ大統領による米経済の構造変革を促す政策を実行していくかたちが整ったと見るべきだろう。

当面は、米財政に待ち受ける財政の崖の問題をどのように解決していくのかが、最大の問題となる。上下両院選の結果、上院の民主党多数と下院の共和党多数も確定し、ねじれた米議会とホワイトハウスの調整が難航すれば、約6000億ドルという財政からのサポートがなくなる事態に直面する。これは米国内総生産(GDP)の約4%に相当し、米経済を大きく下押しする力になる。

<早ければ12月にQE3の下で緩和強化へ、円高進展なら日銀追加緩和も>

12月に入っても調整の難航が予想されれば、FRBがその機動性を生かしてQE3の枠組みの中で緩和を強化する可能性が高まるだろう。今年12月末には長期国債を買って短期国債を売却するいわゆる「ツイストオペ」が終了する。1つの選択肢として、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で短期国債売却の停止後も長期国債の購入を継続する対応を決める可能性がある。また、モーゲージ担保証券(MBS)の購入額を毎月400億ドルから引き上げる選択肢も検討される可能性がある。

12月FOMCにおいて、QE3の枠組みの下で緩和が強化された場合、ドル安の観測がマーケットに広がりやすくなるだろう。2年米国債利回りの低下余地はほとんどなく、ドル安/円高にはなりにくいとの見方もあるが、10年米国債利回りには低下余地があり、対ドルで円高の圧力が高まりやすくなると予想する。

円高の進展が強まれば、企業や個人のマインドが冷え込み、輸出主導で落ち込んできた日本経済の一段の下振れリスクを大きくさせかねない。中国や欧州、米国など海外経済の減速度合いによっては、日銀が9月、10月に続いて12月にも追加緩和に踏み切る展開もあり得るのではないか。

<米欧日の緩和体制、リスクオン心理呼ぶ要因に>

一方、米欧日の先進国経済に視野を広げてみると、オバマ大統領の再選によってFRBのQE3路線が維持されたことで、強力な金融緩和体制が米欧日の三極に出来上がったとも言える。QE3で財政の崖を克服しようとする米国、OMTで南欧国債の利回り上昇を回避しようとしている欧州、そして共同文書を作成して政府・日銀がデフレ脱却に向け強力に連携することを示した日本と、仮に危機的な状況に陥っても機動的に対応できるスキームは整った。

その意味で、市場関係者の中から今回のオバマ大統領の勝利を以て、リスクオンの機運が高まってくる機会になるとの見方が出てきたのも、うなづける点が多い。この時間的な猶予を有効に使って、米欧日とも政府が財政赤字の削減や経済構造の改革に向け、思い切った対応策を打ち出すべきだ。もし、足元での温和的な市場の動向を横目で見つつ、米欧日の政府がともに何もせず、惰眠をむさぼっていれば、大きなしっぺ返しを市場から受けることになると予想する。

<崖乗り切り後、米経済回復と長期金利上昇のシナリオ>

また、別の次元でも油断のならない状況が待ち受けている。もし、QE3の下での緩和強化によって、米経済が財政の崖を乗り切ったとしたら、その後には予想を超えるスピードで米経済が回復する展開もあるのではないか。

FRBによる累次の金融緩和政策の結果、自動車ローンを中心にしたローン残高は拡大傾向を示しており、最近の米自動車販売の急回復は、その反射的効果の側面が大きいようだ。さらに住宅市場も長らく続いた下降局面から持ち直しに入っており、足元でのローン金利の低下が需要を押し上げる要因として働きだしている。

また、シェールオイルの増産の結果、米国の原油産出高は2013年にはサウジアラビアを抜いて世界トップに躍り出るという予測もあり、エネルギーコストの低下を背景にした「交易条件の好転」をテコにした米経済のエンジン温度上昇が、だれの目にも明らかになる展開が考えられる。

2013年半ばにかけ、こうした点がマーケットに認識されれば、米長期金利は現在の1%後半から2%台ないし3%台に上昇し、4%をうかがうこともあり得ると考える。その時に欧州情勢が小康を維持していれば、米独日の長期金利は、米長期金利の上昇を起点として、上昇過程に入る可能性がある。

<米長期金利上昇に無防備な日本の銀行と金融システム>

ここで問題なのが、わが日本の実態だ。国内銀行はメガバンクから地方銀行に至るまで国債保有比率を高めてきた。もし、日本の長期金利が米長期金利上昇の波及を受け、現在の0.7%台から1.7%台へと100bp上がると、銀行の資産状態を直撃することになる。そればかりではない。長期金利の上昇によって、日本の財政赤字が発散する懸念について、海外からの厳しい目にさらされるリスクも増大するだろう。

短期的なドル安/円高のリスクばかりに目を奪われ、中長期的な対応策を取らなければ、その先に何倍もの高いツケを払わされるリスクがあると指摘したい。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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