November 15, 2012 / 7:24 AM / in 7 years

コラム:金融緩和に依存する安倍氏の政策、財政規律緩むリスク

田巻 一彦

11月15日、安倍晋三・自民党総裁が講演などで打ち出しているマクロ経済政策は、日銀の金融政策に過度に依存している印象だ。写真は都内で撮影(2012年 ロイター/Yuriko Nakao)

[東京 15日 ロイター] 安倍晋三・自民党総裁が講演などで打ち出しているマクロ経済政策は、日銀の金融政策に過度に依存している印象だ。自民党が次期衆院選で勝利して安倍政権が発足し、表明している政策がそのまま実行に移され、日銀が追加緩和政策として日本国債の買い取りを大幅に増加させた場合、積極的な公共投資の推進もあいまって、政府の財政規律が大幅に緩むリスクが高まる。

公的債務残高の対国内総生産(GDP)比率は、短期間で200%後半に上昇する懸念がある。

債務残高の急速な上昇は、日本国債の格下げを招き、円安と長期金利の上昇が互いに影響しあいながら継続する現象を発生させるだろう。安倍総裁は3%のインフレターゲットに言及しているが、債務膨張─長期金利上昇─円安の経路で物価上昇が実現する可能性がある。ただ、このケースでは残念ながら付加価値の増大は伴わず、スタグフレーションに陥るリスクが高いだろう。日本経済の成長力強化に的を絞った政策対応が、何よりも求められている。

<金融政策が柱、安倍総裁が強調>

安倍総裁は14日夕の講演で、自民党が政権を奪還した場合、デフレ脱却の政策では金融政策が大きな柱になるとの見解を表明。インフレターゲットを設定して達成まで無制限な対応が必要だと述べた。15日の講演では、インフレターゲットの水準が2%か3%かは専門家に議論してもらうとの方針を表明。2%の水準にも言及した。

また、15日には2013年度予算を景気刺激型にし、公共投資を増額させる方針も明言した。自民党は総額200兆円規模の国土強靭化計画を打ち出しているが、総選挙勝利後には早速、2013年度予算編成で実行に移す手はずになっているようだ。

マクロ経済政策における金融政策依存度の大きさと、公共事業を積極的に展開する政策方針は、一見すると別々の政策目的による別個の政策対応のように映る。しかし、私の目にはこの2つの政策が強くリンクしているように見える。

<緩和強化による国債買い取り急増、市場の警鐘機能弱めることに>

住宅ローン担保証券(MBS)の発行残高が巨大な米国では、量的緩和政策の一環として米連邦準備理事会(FRB)がMBS買い入れを主要な政策手段の1つとして実行できる素地が整っている。これに対し日本では、そうした流動性の厚い証券市場が見当たらない。その結果として、日銀が量的緩和政策を一段と強化する際には、日本国債の買い取り増が主要な手段にならざるを得ない外的環境の制約が存在する。

安倍政権が発足し、日銀が政府と歩調を合わせ追加緩和を強化するなら、日銀の国債買い取りは増加テンポを速めていくことが予想できる。日銀が国債買い取りを増加させれば、市場での国債流通量は減少し、需給のタイト化を背景に国債価格は上昇(長期金利は低下)するだろう。そのことは政権にとって、国債の新規発行を容易にさせる環境の好転と映るに違いない。

つまり市場金利が上がることで、財政規律の緩みに警鐘を与えるという重要な市場機能が、日銀の国債買い取り量の急増によって、実質的に失われることを意味する。痛みを感じないまま、国債を増発して公共事業の増加に充てることが、大手を振ってまかり通る展開が予想できる。

<安易な国債発行増、財政規律緩めることに>

財政規律の緩みを黙認するような政権の体質が露呈するようなら、消費税率の引き上げによる税収増を果たしても、財政赤字を抑制することは難しくなる。2012年度末に公的債務残高の対GDP比率は210%台に上昇するとの試算があるが、大盤振る舞いの財政出動を継続すれば、数年で200%後半に上昇する可能性が高まる。

300%に接近するような債務残高をみれば、日本国債の格下げは必至だろう。長期金利の上昇を待たずに円安が進行し、その円安進行をみて国内投資家にも財政悪化の危機感が広がれば、長期金利がある時点から不連続に上昇するシナリオの実現性が出てくる。このケースでは、円安による輸入物価の上昇などコスト増を背景に物価が上がり出すと予想される。

<金利上昇は日本経済の抱えた爆弾>

安倍総裁は、金融緩和の強化によって景気がよくなり、期待インフレ率が上昇して、物価が上がり出すというイメージを持っているように見える。だが、現実には財政規律の緩み─債務残高の累増─格下げ─円安と長期金利の上昇という経路で、物価上昇が引き起こされる懸念がある。

世界経済の動向にもよるが、円安と物価上昇によって日本企業のコスト競争力が低下し、日本経済全体として付加価値を生み出す力が弱まって、物価上昇と景気後退が併存するスタグフレーションの招来という最悪のケースもあり得る。

また、低成長と低い長期金利というペアで、巨額の債務残高を抱えながらバランスを維持してきた日本経済は、長期金利上昇という「寝た子」を起こし、危機的な状況に直面するという「爆弾」を実は抱えている。このことを安倍総裁が意識しているのかどうか、その点が政策遂行能力を推し量る点で、極めて重要であると指摘したい。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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