November 26, 2012 / 5:27 AM / 6 years ago

コラム:老いるアジアと老いた日本の「富」争奪戦=竹中正治氏

[東京 26日 ロイター] 中国やインドの過去20年余りの高度成長を見て、「日本は豊かな国としての先進国の地位を21世紀を通じて果たして維持できるだろうか」と悲観する人もいるようだが、果たしてどうだろうか。人口動態の観点から見れば、インドを除くアジア諸国の経済成長率は実は今がピークで、今後趨勢的に下がる可能性が高い。この点については、「超長期予測 老いるアジア」(小峰隆夫教授・日本経済研究センター編、日本経済新聞出版社刊)に詳しい。

<人口動態の転換点で生じた資産バブルの崩壊>

下の図は、日米中韓そしてベトナムの従属人口比率(15―64歳の生産年齢人口に対する14歳以下と65歳以上の従属人口の割合)の推移を示したものだ。実質経済成長率は、労働者数の増加率と労働生産性(一人当たり労働者の付加価値生産)の伸び率の和である。したがって、他の条件が同じならば、従属人口比率の低下すなわち生産年齢人口の相対的増加は経済成長を押し上げ(人口ボーナス)、逆に同比率の上昇は経済成長を押し下げる(人口オーナス)。

日本は1990年代初頭に、この人口動態上の転換点を迎えた。それは成長率の長期的な下方屈折を意味するが、同時に資産バブルの崩壊が起きた。米国はこの転換点を2007―08年に越えた。その後の成長率は下方シフトしたものの、下のグラフで分かる通り、変化の速度は日本より緩やかだ。若い移民労働力の流入などが高齢化の速度を緩めているからである。興味深いことにやはり同時にバブル崩壊が起こった。

韓国はこの転換点を2010年前後に迎えた。そしてやはり成長低下とバブル崩壊現象が発生している。一方、中国がこの転換点を迎えるのは2015年前後だ。韓国も中国も、この人口動態の転換点を越えた後の高齢化の進行速度は日本と同じか、あるいはそれ以上に急である。

転換点を迎えると、趨勢的な成長率が低下すること自体は分かりやすい。しかし、バブルとその崩壊現象が転換点付近で起こることに、なんらかの必然性はあるのだろうか。循環的な景気後退と長期的な成長見込みの下方修正の波が重なった時に、それまでの高成長下での信用の膨張、金融レバレッジの拡大が一気に収縮に転じ、資産価格が急落するのだと仮説を立てることはできる。

この点について、日本同様にすでに転換点を過ぎた西欧諸国について見てみたが、サンプル数が少なすぎて、バブル現象との相関性は明確ではない。しかし、日本、アメリカ、そして韓国と似た現象が続いていることは不気味な暗示だ。

また、人口の変化は極めてゆっくりなので、人口動態予測は20―30年のタイムスパンでは高い精度で当たることも言い添えておこう。したがって、中国に代表されるアジア新興国の21世紀前半の問題は「老いる前に十分裕福になれるか」ということだ。

この点について、これからの中国は、日本が90年代初頭に経験した人口動態面での転換点と、70年代以降に直面した「技術面でのキャッチアップ型高度成長要因の終焉」という2つの転換点に同時に直面することになる。しかも、経済は依然として国有大企業と国有銀行を中核に党官僚と企業幹部が癒着し、彼らが自らの既得権益を最大化する構図に支配されている。官民の固定資本形成(建設・設備投資)に依存し過ぎた過去の成長パターンからの転換は至難であろう。

<日米の金融純資産額はドイツの倍以上>

大手保険・金融グループのアリアンツ(ALVG.DE)が2011年末時点のデータで示した主要国の一人当たり名目国内総生産(GDP)と金融純資産の分布を見ると、GDPと金融資産の双方で最も裕福なのはスイスであり、これは世界中から超富裕層が資産をスイスに移転して住んでいる結果だろう。スイスは相続税をゼロにすることで、世界中から富裕層を呼び込む政策をとっている。

スイスを除くと主要先進国の一人当たり名目GDPは概ね円換算300万円から400万円台に分布している(11年末の為替相場で換算)。その中で、日本(名目GDP370万円、金融純資産931万円) と米国(名目GDP370万円、金融純資産904万円)は、金融純資産額では他の先進国と比較して突出して高い位置にある。国民一人当たり平均で見て、日米ともにドイツの倍を上回る金融純資産を保有している。ただし日米家計の資産分布は全く異なる特徴を持つ。ひとことで言うと、米国家計の金融資産は超富裕層に一極集中しており、日本の場合は60歳以上の高齢者に比較的薄く広く分布している。

日本の問題は、今後も人口の高齢化が進む中で、21世紀中葉までを展望して、これまでに実現した経済的な豊かさを維持できるかということになる。

<財政赤字軽視論の落とし穴>

筆者が懸念するのは、やはり日本の財政赤字の膨張である。「財政赤字軽視論者」が言うように日本政府の財政赤字は大きいが、基本的に国内の貯蓄でファイナンスされている。それは日本の経常収支が黒字であることと表裏一体の事実だ。誰かの金融資産は他の誰かの負債(含む出資金)である。したがって「日本全体で対外的に赤字や負債超過にならなければ問題はない」と言えるだろうか。実はそうではない。

当然のことなのだが、経済が今より豊かになるためには、現在の民間貯蓄は将来の付加価値を生み出す投資に回らなくてはならない。反対に政府の赤字国債に吸収され、給付されて消費されるだけなら、将来の付加価値は増えない。

赤字国債を発行すると政府のバランスシートの負債側には「国債発行残高」が増えるが、政府の資産側には負債に見合う資産は何もない(建設国債の場合は公共事業による建設物が資産として生まれる。ただし日本で急増しているのは赤字国債である)。その結果、日本政府のバランスシートを見ると、計算のベースによって異なるが、数百兆円規模の債務超過となっているのだ。

2000年代の日本の家計、民間企業、政府、海外の4部門の資金バランスを見ると90年代前半を境に様変わりしていることに気がつく。80年代まで家計貯蓄は一般企業部門(非金融法人企業)の投資超過に吸収され、一般企業の設備投資に向けられていた。ところが90年代後半以降は企業部門が貯蓄超過に転じ、家計と企業の貯蓄超過は政府部門の赤字に吸収されている。

「需要が増えないのだから投資も増やせない」と思う方が多いだろう。しかし、対策の選択肢はある。たとえば、オーストラリアのように若い移民の受け入れを拡大すれば、需要と労働供給が同時に拡大する。

また、本当に投資ニーズがないわけでもない。キャッシュフローが増えても内部留保を増やす(借金があれば返済する)ばかりで、技術開発など将来に向けた投資や人員を削減している「縮み志向」の企業は多くないだろうか。社会資本を見れば、様々な公共インフラの老朽化が進み、潜在的な更新需要は急速に増えているのが実情だ。企業も家計も縮み志向のために「需要減・生産減・投資減・需要減」の縮小再生産のループを自己実現しているのではなかろうか。

投資は将来の供給力を増やすと同時に投資時点ではそれ自体が需要でもある。今の日本にとりわけ必要なのはすぐに実現して従来通りの供給力を増やす短期的な時間軸の投資ではなく、広義かつ長期の時間軸に基づいた「投資需要」の喚起なのだ。それは将来の大規模なイノベーションをもたらす可能性を秘めた技術開発や教育への投資であろう。マクロの需給バランスは確かに供給超過だが、問題は陳腐化した供給力が残存する一方で、こうした長期的に望まれる投資に資金が回っていないことではないのか。政府の財政資金、民間の資金共々に、将来の経済的な富の増進に繋がるインフラ、技術開発、教育などに向かうように流れを変えることができなければ、21世紀中葉の日本は豊かさを維持できないだろう。

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職、経済学博士(京都大学)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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