December 4, 2012 / 6:42 AM / 7 years ago

コラム:景気減速に狼狽は禁物、対症療法より根本治療を=武田洋子氏

[東京 4日 ロイター] 日本経済は7―9月期、3四半期ぶりにマイナス成長に陥った。10―12月期も厳しい状況に変わりはないが、2013年入り後は海外経済が緩やかに持ち直し、春以降は日本の生産や内需にも波及して徐々に回復軌道へ戻していくことが見込まれる。

だが、海外の経済情勢をめぐる不確実性は高い。以下の3つのリスク次第では国内景気の後退局面が深く長くなる可能性はある。

第一に、チャイナリスクだ。中国では、外需の悪化に加えて、国内の構造問題も表面化している。所得格差と社会不安、過剰投資問題、産業構造転換の必要性、そして高齢化の進展と社会保障制度の整備など、課題は山積だ。仮に中国経済が急激に失速すれば、世界経済が景気後退局面入りする可能性は高い。また、そこまで至らずとも、日中関係の冷え込みから、日本の対中輸出が今後も伸び悩む可能性はある。

第二に、米国の「財政の崖」問題だ。民主・共和両党の交渉は恐らく年末までもつれることになるだろう。両党の対立構図がより明確になれば、経済の先行きに対する不透明感が高まり、消費者マインドや企業の景況感の悪化を招きかねない。「財政の崖」は回避するとしても、すべてが先送りされ政治のこう着が続く可能性もある。連邦債務残高上限の引き上げ問題も同時に抱えており、米国の財政運営リスクは決して軽視できない。

最後に、欧州債務危機の行方だ。欧州中央銀行(ECB)による安全装置の準備や銀行監督一元化での合意などを受けて、世界的な金融危機に発展する可能性は一時期よりも後退したが、スペイン支援要請の行方やイタリア政局など懸念材料は多い。欧州安定メカニズム(ESM)による金融機関への直接資本注入や統合深化に向けて具体的な行動が伴わなければ、金融市場が再び動揺する可能性はある。

グローバル化が進んだ今日、日本だけがこれらの海外経済のリスクから免れることはできない。ただ、日本の経済政策運営は、近視眼的にならないことが大切だ。足元の景気減速を示す諸現象に狼狽して、中長期の成長戦略と財政再建という大局を見失ってはいけない。対症療法に過度に頼らず、復興の着実な実行や規制緩和などを通じた中長期の成長力を高める根本治療を実施することに力を注ぐべきだ。便乗予算は見直すべきだが、被災地の事業の実行は加速させる必要がある。復興予算は執行しなければ、国内総生産(GDP)にカウントもされない。

<円高だけが競争力低下の原因か>

日本経済の行方を展望する際に気になるのは、世界経済減速による日本の輸出減と、競争力低下によるシェア縮小の双方が同時並行で起きている点だ。今回の日本の景気失速の主因は前者だが、過去数年間のデータを見ると、世界の家電市場などにおいて日本企業のシェアが奪われつつある。もともとシェアが低下しているトレンドの中で、世界経済が減速し需要も下がり、日本の輸出そしてGDPへの影響が相対的に強く出ている可能性がある。

確かに、日本の輸出セクターが円高によって不利な競争環境に置かれてきたことは、否定しない。たとえば、中国の自動車市場におけるドイツ勢の躍進はユーロ安に負うところも大きく、欧米の家電市場における韓国勢の躍進の背景には(最近でこそ上昇しているが)長く続いたウォン安トレンドがある。円高の修正が続けば日本の輸出セクターにはプラス要因となる。

だが、たとえ円安になったからと言って、それだけでアップル(AAPL.O)のiPhoneのような世界的なヒット商品が日本企業から生まれるわけではないだろう。日本企業にとっての課題は、成長分野を見極め、経営資源をそこに投下するマネジメント力、技術を事業化し普及させるためのマーケティング力、そして業界横断的なシステム・インテグレーションの強化である。

<信認が最後のアンカー>

日本にとってもう一つの厳しい現実は、海外の投資家が欧州債務危機を経て国家債務に対してかなり敏感になっていることである。その厳しい目は、今のところは欧州に注がれているが、いつ何時、日本に向けられないとも限らない。

なぜGDPの2倍超という先進国中最悪の借金を抱えた日本の金利がこの間低くとどまり、日本国債がむしろ安全資産として見なされてきたかといえば、結局は「日本政府ならば、きちんと財政再建を果たすはず」という信認がアンカーとなっているからだ。特に消費税率が他国に比べて低く、まだ上げる余地が十分にある点が、信認の大きな源となっている。

これに対して、「日本国債の9割強は国内投資家が保有しており、海外の保有比率は10%に満たない」という反論もあろうが、最近は海外保有比率がじわじわと上昇し始めている。実際、12年4―6月期に海外投資家が購入した長期国債は約5.9兆円にのぼり、国内金融機関による購入金額の約5.8兆円を上回った。何らかのきっかけで海外勢が売りに転じて金利が上昇し、国内投資家の狼狽売りを招かないとは誰にも断言できないだろう。

ちなみに、政府債務問題がクローズアップされたスペインやイタリアでは実際に2年間で長期金利が3%上昇している。日本で同じことが起これば、両国の比でない巨大な損失が金融機関に生じよう。日銀の試算(金融システムレポート2012年10月号)によれば、国内金利が一律1%上昇するだけで、3月末時点で大手銀行に3.7兆円、地域銀行に3兆円の債券時価損失が生じる。

長期金利上昇に伴って株価も下落すれば、家計支出や企業の設備投資は減退し、金融機関の貸し渋りが起こり、信用収縮圧力となって、マイナスの成長幅は7―9月期(年率3.5%減)の比ではなくなるだろう。「信認維持」の重要性は一段と高まっている。

*武田洋子氏は、三菱総合研究所のチーフエコノミスト。1994年日本銀行入行。海外経済調査、外国為替平衡操作、内外金融市場分析などを担当。2009年三菱総合研究所入社。米ジョージタウン大学公共政策大学院修士課程修了。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、個人的見解に基づいています。

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