December 17, 2012 / 7:33 AM / 6 years ago

コラム:自民圧勝で「アベノミクス」始動、アキレス腱は金利上昇

田巻 一彦

12月17日、衆院選で自民、公明両党が3分の2を超す大勝利となり、次期首相が確実視される安倍自民党総裁による経済政策「アベノミクス」が、実際に動き始める(2012年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 17日 ロイター] 衆院選で自民、公明両党が3分の2を超す大勝利となり、次期首相が確実視される安倍晋三・自民党総裁による経済政策「アベノミクス」が、実際に動き始める。

大規模な財政出動と積極的な金融緩和のポリシーミックスが骨格になるとみられるが、日本経済の潜在成長率を引き上げる政策がなければ、一過性の刺激策の効果が出尽くした後に、一段の債務残高累増が残るだけという"実験結果"に終わりかねない。長期金利上昇という副作用を強く意識した経済運営が望まれる。

<注目される補正予算と国債発行の規模>

アベノミクスの最初の展開は、2012年度補正予算編成となる。13年度予算案の編成に関連し、自民党の石破茂幹事長は概算要求段階から見直す姿勢を示したと一部で報道されており、2カ月近い暫定予算の編成が予想されている。日本経済は足元で景気後退の動きを鮮明にしつつあり、長期暫定予算で景気が落ち込むことを回避するためにも、補正予算案の規模膨張の可能性が高まっている。安倍総裁も補正予算案の規模が大型になっていく方針を示している。

仮に10兆円規模の補正予算案を編成すると、新たに5兆円を超える新規国債発行に追い込まれる可能性がある。安倍総裁は必要な公共投資を行っていくと16日夜に言明しており、2013年度予算編成における公共事業費が、大幅に上積みされる公算も大きくなっている。民主党政権の下では、2012年度予算における44兆円の新規国債発行額を13年度予算案編成におけるシーリングとする意向だったが、自公新政権ではこの方針が撤廃され、大幅な国債発行増になる可能性が高まっている。

<積極的な金融緩和期待を表明する安倍総裁>

一方、安倍総裁は17日の会見で、日銀と政策協定(アコード)を締結し、物価目標を2%に引き上げて金融緩和を強化させる方針をあらためて表明した。日銀は、内外経済の情勢を判断し、金融政策判断は適切に行っていくスタンスを強調しているが、安倍新政権と自公の新連立与党は、日銀に対してこれまで以上に積極的な緩和方針を求めることが確実。

26日にも正式に発足予定の安倍新政権は、日銀の追加緩和によって国債買い入れ額の増額が実施され、結果として増発される国債の需給が崩れないことを期待していると私には見える。17日の会見で安倍総裁は、金融政策に関する自身の主張が衆院選で多くの支持を得たと指摘。19、20日の金融政策決定会合に関連し「適切な判断を期待している」と述べ、日銀の追加緩和実行を促す姿勢を明確にした。

<短期的に円安/株高、刺激効果一巡後に需要落ち込むリスク>

このような財政拡張・積極的な金融緩和政策が実際に発動されれば、マーケットは円安進展を期待し、それを起点に株高が持続する可能性がある。同時に日銀の追加緩和期待で長期金利は低位に抑制され、円安/株高/長期金利低位安定が短期的には展開される可能性が高まるだろう。

しかし、この政策にはいくつかの死角がある。まず、公共投資主体の経済対策は、日本経済の実力を高めることにつながらないリスクが高い点だ。確かに地方経済は疲弊し、公共投資を全国展開することで、一時的にその疲弊を打開できるかもしれない。しかし、投資が終了すると地方の需要は再び沈下する公算が大きい。

今、1000兆円を超す債務残高が存在する理由の1つとして、バブル崩壊後の経済沈滞からの脱出を目指した1990年代の公共事業の大盤振る舞いと、その財源となった国債の大量発行があるのは間違いない。そして、日本の潜在成長率は、2%台に乗せているとの幻想から長く抜け出せず、足元ではついに0.5%前後まで低下してしまっている。この間に起きた現象への反省がなければ、「失われた20年」と同じ過ちを繰り返すことになると危惧する。

<生産年齢人口の減少、建設労働者の不足顕在化の公算大>

2つ目の死角は、生産年齢人口の減少という経済成長の足かせ要因に対する認識が、安倍総裁やその周辺のブレーン、自民党幹部に薄いのではないか、と思われる点だ。東日本大震災の復興事業が、なかなか進ちょくしない理由の中に、建設労働者の不足という深刻な問題が存在している。もし、自民党が10年間で200兆円規模の国土強靭化計画を実施しようとすれば、その人手不足が全国で展開されることになるだろう。

その時に何が起きるのか──。建設労働者の人件費の大幅な上昇か、もしくは賃金引き上げができないために労働者が集まらず、工事が予定通りに進ちょくできないという現象のどちらかだ。仮に工事の進ちょくを優先して、賃金の引き上げを認めれば、予算額の大幅な積み増しか、工事量の圧縮のどちらかを選択せざるを得なくなると予想される。建設労働者の不足は、日本経済のボトルネックとしてマーケット参加者の注目を浴びることになるだろう。

2つ目の要因とも関連するが、建設労働者の人件費の上昇が強く意識されると、他の人件費にも影響が出始め、この20年間では経験したことのない労働コストの上昇という問題が、目の前に出現する可能性も出てくる。そのことを意識し出したマーケットでは、長期金利がこれまでと違って低下しにくくなり、外的要因に影響され、従来よりも長期金利が上がりやすくなる地合いに変化する懸念も生じる。

<回避すべき財政ファイナンス懸念の台頭>

また、中長期的には国債発行量が急増することで、公的債務残高が累増し、債務残高と足元の超低金利が本当にバランスしているのか、というマーケットの疑念を高めることにつながりやすい。例えば、1年後にこれまでの国債発行残高の増加ペースをかなり上回るペースで残高が増加していて、日銀の国債買い取り量も大幅に増加していた場合、どこかの時点で日銀による財政ファイナンスへの疑いが、市場に浮上してくるリスクも高まる。

長期金利が足元の0.7%台から2%へと短期間に上昇した場合、マーケットは日本の債務支払い能力に疑問をもつだけでなく、国債を大量に保有する国内金融機関の財務体質にも不安が出かねない。長期金利の上昇は、アベノミクスにとって最大のアキレス腱とも言える。

<歳出膨張圧力緩和に向け、安倍総裁も汗かくべき>

このような事態を回避するには、財政拡張一辺倒ではなく、大胆な規制緩和による民間資金の流入を促進するなどの大がかりな仕掛けが必要だ。また、生産年齢人口の減少に対応する対策を大々的に打ち出す必要もある。さらに特別会計の見直しを含めた行財政の無駄排除にも力を注ぎ、歳出膨張の圧力を少しでも緩和させる努力をすることだ。

もし、こうした努力なしに国債の大量発行と日銀の国債買い入れの増加が、長期間継続されるとマーケットが判断すれば、国内勢が国債の9割を買っているという事実だけでは、日本国債は暴落しないという「神話」を維持させることはできないだろう。安倍総裁自らが「汗をかく」ということが、何よりも重要だと考える。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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