December 17, 2012 / 8:33 AM / 7 years ago

コラム:圧勝の次に来る安倍「円安」相場の正念場=佐々木融氏

[東京 17日 ロイター] 16日に投開票を行った衆議院選挙は、安倍晋三・自民党総裁の戦略勝ちと言えるかもしれない。「デフレ脱却・円高是正」に焦点を当てて、日本銀行に対しさらに大胆な追加金融緩和を迫った結果、海外投資家が反応し、積極的な円売り・株買いを行った。

自民党の圧勝に終わった今回の選挙結果を受けて、外為市場では翌日17日早朝から円は売られ、ドル円は3月につけた84.18円を上回り、2011年4月以来の84.48円まで上昇した(ユーロ円は本年3月以来の111.29円まで上昇)。

ヘッジファンドなどの海外投資家は、今度こそ安倍政権下で日本の「失われた20年」が終了し、日本経済がデフレから脱却するのではないかとの期待を強めているようだ。実際、海外投資家とのミーティングを通じても、日本の変化に対する期待は相当なものであると実感できる。過去2カ月間の円売り圧力は、率直に言って、従前の予想を大幅に上回る強い動きだった。

安倍自民総裁はテレビ特番のインタビューで、選挙期間中に印象に残った有権者の声は何かと問われ、「景気を良くしてくれ」「給料を上げてくれ」という声が強かったと答えていた。日銀に積極的な追加緩和を求める言動を続けることで、市場を味方につけ、為替を円安方向に、株価を上昇に導き、国民の期待を高めたことが、やはり今回の総選挙における自民党の勝因なのだろう。

<市場が失望すれば、円高・株安に逆戻り>

ただし、言うまでもなく、新政権が今後問われるのは、自らの言動により増幅してしまった国民や市場の期待に応えられるかどうかだ。

確かに安倍自民総裁は、金融政策に圧力をかけることで鏡(市場)の位置を変えることには成功を収めた。しかし、政権公約にも記されている「成長戦略の推進」「大胆な規制緩和」「日本の産業を再興させるための政策」などを実施し、実体経済を少しずつでも目に見える形で変えていかなければ、いつしか鏡は本当の姿を映してしまうことだろう。

その意味で、まずは再開される経済財政諮問会議や新設される日本経済再生本部などを通じて、国民が将来に自信を持って投資や消費を行えるような経済構造の構築を急ぐ必要がある。

そもそも、市場の期待に応えるのはたやすいことではない。国民の最初の審判は来年7月の参議院選挙だろうが、市場の審判はそんなに長くは待ってくれない。

先週、欧米のヘッジファンドや海外の同僚からは「総選挙後、補正予算はいつ成立するか」「日銀法改正はいつ行われるか」「200兆円の国土強靭化計画はいつから始まるか」といった質問が相次いだ。市場は一つの事柄が終了すれば、すぐに次の動きを求めるようになる。

上記のような質問に対して、筆者は「年内に行われる特別国会では特に新しい動きはなく、1カ月後くらいに通常国会が開かれ、2月頃には10兆円程度の補正予算が成立するだろう。日銀法改正はそう簡単に行われる話ではなく、改正されるとしても数ヶ月は必要。また、200兆円の国土強靭化計画は具体的にどういう話なのか、はっきりしない」と切り返したが、こうした答えに満足する海外投資家は少ない。

海外投資家は自民党政権がかなり大胆な財政拡大路線をとると期待しているようであるが、公務員の人件費削減、プライマリーバランスの改善を公約に掲げ、消費税引き上げを前にした政権が、本当にそれほど大胆な積極財政路線に転換できるのだろうか。

市場の期待というのは、際限なく広がり、最終的には失望という結果で終わることが多い。市場が失望し、円相場が反転上昇し、株価が反落すれば、結局は国民も失望する。市場の期待・動きを上手く利用して勝利した自民党・安倍政権は、今度は市場の期待を裏切らないように政策を本当に積極的に進めていかなければならないと考えられる。

<今週はドル円の行方を占う重要局面>

国民と市場の審判を左右するという意味で、今後の注目イベントは以下の通りだ。

まず12月26日頃、特別国会が召集される。ただ、そこで具体的な政策議論は行われない見通しであり、10兆円規模の補正予算成立や日銀・政府間でインフレ目標などを記す「アコード」に関する議論は1月20日頃に召集される通常国会まで待たねばならないだろう。

そして、1月21―22日には、安倍政権誕生後最初の日銀金融政策決定会合が開かれる。その頃には、白川日銀総裁(任期は4月8日まで)、山口・西村両副総裁(任期は3月19日まで)の後任に関する思惑・議論が活発化するだろう。

ちなみに、日銀総裁・副総裁人事は衆参両院の同意が必要だ。自公が衆議院で3分の2の安定多数を獲得したからといって、過半数の議席を有さない参議院で人事案がすんなり通る保証はない。日銀法改正や官民協調外債ファンドなどに関する議論が本格的に活発化するとしても、おそらくは2月から3月になるのではないか。

こうしたスケジュールを踏まえたうえで、今後のドル円相場の見通しをどう立てていくべきか。繰り返すが、ここ数カ月、海外勢の日本の変化に対する期待や円売り圧力は、明らかに従前の想定以上に強かった。米金利の上昇がほとんど見られず、貿易収支は赤字となっていても、ここまでの急激な円安を発生させるフローの変化は見当たらなかっただけに、予想外だった。

とはいえ、円安基調の持続性については、慎重に判断する必要があるだろう。以下の理由から、本来であれば今週は利食いの円買い戻しが入りやすいと考えられるからだ。

まず総選挙が終了し、「Sell on rumor, Buy on fact(噂で売り、事実で買う)」という典型的な動きが出やすい。第二に、今月19―20日に行われる今年最後の日銀政策決定会合で、一部に追加緩和見送りを予想する向きもある。仮に本当に見送りとなると、円買い戻しにつながる可能性は非常に高い。

第三に、米国の「財政の崖」問題に関して依然として進展が見られず、このままだと、市場のリスク回避志向が一気に高まり、円買いとなってしまうリスクがある。最後に、来週から欧米はクリスマス休暇入りする。今週の日銀政策決定会合が終わると、日本からも今後1カ月は特に新しい動きが出る可能性が少ない中で、大きなポジションを抱えたままにしておくのはリスクが高い。

しかし、こうした状況下でも、仮に今週を通じて一段と円安が進むか、ドル円相場が83円台を維持するようならば、前述した海外勢を中心とした短期的な円売り以外のフローが最近の円安の流れを支えていると判断できよう。その場合、75―85円という来年のドル円の予想レンジを変更する必要が出てくると考えられる。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に、「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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