December 27, 2012 / 9:17 AM / 8 years ago

コラム:円安では完治しないガラパゴス症候群=斉藤洋二氏

過去半世紀、自動車産業と共に日本経済を牽引してきた家電産業が苦境に陥っている。その主役であるソニー(6758.T)、パナソニック(6752.T)、シャープ(6753.T)の3社は2012年3月期に合計で約1兆6000億円という巨額の最終損失を計上。13年3月期も、テレビや液晶パネルの不振により、パナソニックとシャープは2期連続の大幅赤字へと見通しを下方修正。残るソニーは黒字維持を予想するが、フィッチ・レーティングスは11月にパナソニックもろともその長期信用格付けを「投機的」とされる水準に引き下げた。

この3社合計の時価総額は、5年前の16兆円水準から2.5兆円程度(12月27日終値ベース)へと細っている。経営トップ自らが「デジタル家電分野の負け組」と称する日本勢とは異なり「勝ち組」とされる韓国のサムスン電子(005930.KS)(時価総額17兆円)や、シャープとの提携交渉が長期化している台湾の鴻海精密工業(2317.TW)(同3兆円)には、大きく水をあけられてしまった。

日の丸家電産業の惨状の背景には、技術水準で追いつかれたこと、M&Aによる合従連衡が進まなかったこと、米ゼネラル・エレクトリック(GE)(GE.N)が家電分野を徹底的に圧縮しエネルギーなどに注力したような業務ポートフォリオの見直しが不十分だったことなどがある。

さらに、「円高」だ。国際決済銀行(BIS)によれば、1970年1月を100とする実質実効為替レートは2012年11月時点で日本円が180に上昇したのに対して、米ドルは66、韓国ウォンは60である。事実上のドル・ペッグを採用してきたアジア通貨に対して、日本の通貨高は突出している。技術力などに絶対的な格差があったときならばいざ知らず、すでに東アジアの経済が離陸した現在、一般労働者の賃金がおおよそ韓国・台湾の2―3倍、中国(上海)の9倍である日本企業が同じ土俵での体力勝負に立ち向かえなくなるのはやむを得ない。

とはいえ、いくら円安を望んでも、変動相場制下における為替調整機能の発揮など期待通りにならないことは40年の歴史に学んだ通りだ。また、そもそも円安だけでは、国内における高いエネルギー価格、高い法人税、そして諸外国との競争環境の劣後など、製造業ひいては日本経済が直面する根本的問題を解決できるとは言い難い。

<日本はアジアで失速した一羽の雁>

1960年代初頭に注目された「雁行形態論」は、リーダーが群れを率いて飛ぶ雁(がん)の姿から名付けられた。この東アジア経済の発展モデルは、日本が産業発展を切り開き、低付加価値・低技術の産業を他の国へ順次移転させてゆくプロセスを示唆したが、現実に日本から四小龍(シンガポール、韓国、台湾、香港)へ、そしてその次の段階において東南アジアや中国沿海部など安価な労働力を有する地域へと産業は移転された。

93年の世界銀行調査報告書は、この成果を「東アジアの奇跡」と呼んだ。次の段階において、日本経済が停滞し存在感が希薄化する一方で、東アジア経済はアップル(AAPL.O)の製品が中国(広東)で台湾企業により生産されるように、ITなど新興分野において、米国、中国、四小龍、そしてアセアン諸国との地域分業体制へとシフトした。

この20年で、東アジアは通貨危機を乗り越えて一段の飛躍を遂げ、07年の世界銀行調査報告書はこれを「東アジアのルネッサンス」と評価したが、その過程において、「世界の工場」となった中国を中心とした大中華圏が形成され、日本は先頭を切る飛雁から一転して失速した一羽の雁となり、その群れに飲み込まれた。

この間、「日本のガラパゴス化」が指摘されてきた。エクアドルの沖合い900キロにあるガラパゴス諸島は1835年にダーウィンがピーグル号で訪れ「進化論」を着想したといわれる場所。大陸から隔絶され「特殊進化」した生物は「一般進化」したものと比べ外敵への適応力が弱く、絶滅の危機に晒されることに由来する。

日本の技術力は高機能の携帯電話、耐震構造の建築技術などに見られる通り、その先端性の例は枚挙にいとまがない。しかし、世界の標準仕様に照らせば特殊仕様になっていることから国際的には汎用性に欠ける。さらには海外へ輸出する場合は、品質をわざわざ落としたものとせざるをえないという皮肉な結果にもなっている。

一方、ヒト・モノ・カネの流入に対してはアレルギー反応を起こし、また若者の海外への興味が薄れるなど、日本人の内向き志向すなわちガラパゴス化が様々な場面において成長の阻害要因となっており、今後「脱ガラパゴス」が日本経済発展の鍵となるのではなかろうか。

日本は輸出立国と常々言われてきたものの、企業活動の実態は、一部の産業を除けば生産拠点の海外シフトが遅れ、また国内市場でのパイを奪い合って生き残りを図ってきた。これは日本が地理的に隔絶されていることや、長い鎖国政策により特殊進化してしまった結果とも言える。世界的にボーダレス化が進む中、生産・消費両面において、急激に成長するアジアとの垣根を低くし共生を図ることが、適者生存の生物界のルールに適うものと言えよう。

<「リオリエント」の時代に乗り遅れるな>

現在、東アジアにおける地域共同体については、通貨、財政、政治と統合のステップを進める欧州を参考としつつ、そのあり様が種々構想されている。しかし、北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)が一体的に東へと拡大し巨大な市場を築いた欧州と前提条件が異なっており、その道のりは一段と困難となるだろう。

なぜなら政策研究大学院大学の白石隆学長とハウ・カロライン京都大学東南アジア研究所准教授が共著「中国は東アジアをどう変えるか」で説いているように、東アジアの地域システムは、米国のヘゲモニーの下で運用されてきた「安全保障システム」と、中国を中核とした「通商システム」という二元性の故だ。

その結果、軸足をアジアに移した米国と海洋権益を主張する中国との構造的緊張は南シナ海や東シナ海での領土問題に見られる通りで、今後も東アジアの共同体構築を阻害するだろう。とはいえ現在、東アジアのGDPは、インドをも含めるとすでに世界の25%以上を占め、2050年には50%以上に達するとも試算される。それは18世紀、ムガル帝国と清朝が隆盛であった頃に匹敵するものであり、「リオリエント」(東洋への回帰)と言われもする。この地域の発展性は日本が看過するには大きすぎる。

翻って日本は、2055年には人口が9000万人を割り込む見通しであり、国内市場は縮小する。一方で、日本の貿易総額に占める自由貿易協定(FTA)相手国の割合は19%にとどまり、30%を超える欧米や韓国などに比較するとその自由化の進捗は遅く、日本企業は不利な競争条件下に置かれている。

したがって、世界貿易機関(WTO)で新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)が休止状態に陥っている現在、日中韓が交渉開始を決定したFTAや経済連携協定(EPA)、あるいは環太平洋連携協定(TPP)など様々な自由貿易交渉の戦略的取り組みは喫緊の課題である。それは、「脱ガラパゴス」へと日本の背中を押してくれるはずだ。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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