January 22, 2013 / 10:42 AM / 7 years ago

焦点:アルジェリア人質事件、襲撃指揮に「謎のカナダ人」

[アルジェ 21日 ロイター] アルジェリアのセラル首相は21日記者会見し、過去数年で最悪の人質事件の1つとなった同国南東部イナメナス近郊のガス関連施設で発生した人質拘束事件について、隣国マリで計画され、「チェダド」と名乗る謎のカナダ人が指揮していたと発表した。

1月21日、アルジェリアのセラル首相は、同国南東部イナメナス近郊のガス関連施設で発生した人質拘束事件について、隣国マリで計画され、「チェダド」と名乗る謎のカナダ人が指揮していたと発表した。写真は19日、アルジェリアで撮影(2013年 ロイター/Louafi Larbi)

約40人のイスラム系武装集団が同施設を襲撃してから5日が経過し、事件の全体像が浮かび上がりつつある。

同事件では、施設で働いていた米国人、英国人、フランス人、日本人、ルーマニア人、ノルウェー人、フィリピン人が死亡もしくは行方不明となっており、人質と武装勢力の死者数を合わせると67人に上る。人質5人の安否が依然確認されていない。

脱出できた英国人は手を縛られ、口にテープを張られたほか、首にはプラスチック爆弾を巻き付けられたと話した。また別の脱出者は、武装勢力が居住施設内を捜索する中、自分のベッドの下に1日半以上隠れていたと語った。

セラル首相の会見によると、事件はマリで企てられ、武装勢力はニジェールとリビアを経由してアルジェリアに入国。武装勢力のメンバーにはエジプト人、モーリタニア人、ニジェール人、チュニジア人、マリ人、アルジェリア人が含まれているほか、事件を指揮したのは「チェダド」というカナダ人だと明かした。

同施設は高い塀で囲まれ、アルジェリア軍が定期的に周辺のパトロールをしており、難攻不落と思われていたかもしれない。しかし、それは幻想にすぎなかった。施設は火薬庫と化した隣国リビアとの国境から約80キロしか離れていない。

アルジェリアの治安当局者はロイターに対し、少なくとも16日未明に同施設を急襲した武装勢力の一部は、密輸に使われるルートを使ってリビアとの国境を越えてきたと述べた。

<9台のトヨタ車>

アルジェリアの日刊紙「アルハバル」によると、武装勢力はリビアのナンバープレートを付け、アルジェリアの国営企業ソナトラックの色に塗られた9台のトヨタ車に乗ってやって来た。

侵入困難なはずの居住区域にも容易に入れたことは、施設内に武装勢力の協力者がいたことを示すとの考えが現地では広がっている。セラル首相は施設で働いていた元運転手が武装勢力に情報を提供していたことを明らかにしている。

脱出した人質はロイターに対し、武装勢力は施設の見取り図をまるで知っているかのように歩き回り、周到に準備していたようだったと話した。

異常を知らせる第一報は、イナメナスの通信センターに無線で届いた。オペレーターは、午前5時45分に外国人労働者を連れてイナメナスの空港へ向かうバスの運転手とのやりとりを記録していた。「バスが出発して間もなく、たくさんの銃声が聞こえた」。このオペレーターは18日、ロイターの取材にこう答えた。

<バス襲撃>

バス襲撃では、英国人1人とアルジェリア人1人が殺害された。セラル首相は、武装勢力が外国人の乗客を捕らえようとしていたが、護衛の兵士らから攻撃を受けたと語った。

ガス施設を襲撃した事件との関連性は不明だが、バス襲撃から間もなくして少なくとも3台の車両に乗り込んだ武装勢力が施設内に侵入している。首相によると、アルジェリア人の警備員が撃たれたが、亡くなる前に警報を鳴らしていたという。

同施設での勤務経験者によると、夜間は通常、外出が禁止されており、武装勢力が内部深くまでどのように侵入したのかは依然として謎のままだ。主要道路以外から侵入してきた可能性も考えられる。

先のオペレーターは、武装勢力のメンバーが銃弾に倒れたフランス人監督者の身分証明(ID)バッジを着けているのを見たと話した。

アルジェリア軍は戦車や武装ヘリコプターなどで施設周辺を直ちに取り囲んだ。セラル首相は、武装勢力との交渉を試みたことを認めたが、要求をめぐり決裂したことを明らかにした。

<実行犯の横顔>

同施設を知る人物らによると、居住区域と工場を隔てる3キロほどの道路沿いに、数百人の兵士を収容する兵舎があるという。

アルジェリアの元政府高官は、朝の5時台という時間帯を考えると、護衛たちが居眠りをしていた可能性があるとしながらも、武装勢力が地元作業員から協力を受けていた可能性を指摘。「700人もアルジェリア人労働者がいれば、武装勢力はこの中から協力者を数人は必ず見つけるはずだ」と語った。

今回の犯行グループを率いた1人とされ、17日に殺害されたターヘル・ベンシェネブ容疑者など武装グループのリーダーたちは、石油関連施設での給料が良い仕事は外国人や北部出身者で占められているとし、南部で住民の不満をあおってきた。

高校の数学教師で50代だとされるベンシェネブ容疑者は、地元アンナハール紙の編集者で治安問題に詳しいアニス・ラフマニ氏によると、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」の元幹部、モフタール・ベルモフタール司令官の支持者らと合流して襲撃を実行したという。

ベルモフタール司令官は現場にはいないが、同氏はアルカイダを代表して犯行声明を出している。ラフマニ氏によると、ベンシェネブ容疑者のグループはアルジェリア国内の拠点からイナメナスに入り、ベルモフタール司令官の部下らのグループはリビアから越境してきた可能性が高いという。

<片目のジャック>

先のラフマニ氏は、ベルモフタール司令官が片目で「ミスター・マールボロ」の異名を持ち、タバコの密輸業者としても知られていることに触れ、「武装勢力は密輸業者らと同じルートを使っている」とし、作戦を成功させるにはサハラ砂漠の完璧な知識が必要だと指摘した。

2008年にニジェールでベルモフタール司令官によって拘束され、4カ月後に解放されたカナダ人外交官のロバート・ファウラー氏は当時、一緒に捕まった他の人質らと同司令官について話していることを気づかれないように「ジャック」というニックネームを付けていたと明かした。一方、同司令官は人質のことを「背教者」「異教徒」などと呼んでいたという。

約20万人が死亡したアルジェリアの内戦から10年以上。密輸や誘拐ビジネスを行いながら国内をさまよっていたイスラム武装勢力は、リビアのカダフィ大佐に雇われていたトゥアレグ人武装勢力や他の傭兵たちがアルジェリア国内に戻ってきたことで息を吹き返した。

<アルジェリア軍が攻撃>

アルジェリアの治安部隊は国境での支配力を確保しようと努めているが、砂漠にまたがる国境は曖昧である上、違法取引や観光客らを誘拐して手に入れた多額の資金が、低収入の当局者を手なずけるために使われているという現状がある。

今回の事件では、武装勢力は施設内部に入ると、欧米人らを一カ所に集めた一方、数百人いたアルジェリア人への監視についてはそこまで厳しくはなかったという。あるアルジェリア人労働者によると、武装勢力は「キリスト教徒と異教徒」の殺害にしか興味がないと語ったという。

アルジェリア政府軍は襲撃から約30時間が経過した17日正午ごろ、ヘリコプターなどで施設を攻撃。同国政府はこの攻撃について、武装勢力が人質を連れてマリとの国境まで移動しようとしていたからだと説明した。

施設からの脱出に成功したアイルランド人男性が語ったところによれば、アルジェリア軍は人質が乗った車4台を誤爆。別の車に乗っていたこの男性は脱出に成功したが、爆撃を受けた4台に乗っていた人質は全員死亡した可能性が高いという。この男性は武装勢力から首に爆弾を付けられたと証言している。また別の英国人男性は、襲撃を受ける中、妻に電話し「胸に爆弾を付けられ、自分の席に座らせられている」と伝えた。

17日のうちには人質の大半が脱出することができたが、中にはアルジェリア人を装う欧米人もいたという。しかし、施設内に何人の武装勢力と人質が残されているのかは18日の夜まで不明なままだった。

居住区域での軍事作戦を終え、部隊は武装勢力が人質を集めているとされる工業用地を包囲。しかし、アルジェリアとの難しい関係を長年続けてきた欧米諸国は、自国民の安否に関する正確な情報が得られないことに業を煮やしていた。19日朝にアルジェリア軍が最後の攻撃を開始したときも、欧米諸国は何も知らないようだった。

アルジェリアの国営通信によると、同国軍兵士は、外国人の人質7人を処刑した武装勢力メンバー11人を殺害。当局は作戦が終了したと宣言したものの、掃討はその後数時間も続き、さらに数十人の遺体が発見されるなど、答えを必要とする多くの謎が今なお残されている。

(原文執筆:Lamine Chikhi記者、翻訳:伊藤典子、編集:梅川崇)

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