January 22, 2013 / 11:34 AM / 7 years ago

コラム:白川日銀の粘り勝ち、アベノミクスに軌道修正の気配

田巻 一彦

1月22日、新しい緩和政策の枠組みは、日銀の裁量がより広く認められ、当面は極端な緩和政策の推進が回避されたとみていいだろう。中銀の独立性をギリギリで確保し、結果として日銀の粘り勝ちとも言える。写真は昨年10月、都内で撮影(2013年 ロイター/Yuriko Nakao)

[東京 22日 ロイター] 日銀が22日に決めた物価目標2%の下での新しい緩和政策の枠組みは、事前の予想に比べ、日銀の裁量がより広く認められ、当面は極端な緩和政策の推進が回避されたとみていいだろう。中銀の独立性をギリギリで確保し、結果として日銀の粘り勝ちとも言える。

一方、政府は2013年度予算案で新規国債発行額を税収以下に収める方向を打ち出しつつ、円高がかなり修正されつつあるとの認識を麻生太郎副総理兼財務・金融担当相が表明。大胆な財政出動と円安進展を中核にしてきたアベノミクスの軌道修正を図る気配も見せ始めている。22日の政府・日銀の一連の動きは、より現実的なマクロ政策運営にカジを切る可能性があることをうかがわせている。

<日銀の新システムと緩和策、予想より現実的>

今回の日銀の決定では、物価目標2%が導入され、2014年から長期国債が毎月2兆円ずつ買い増しされ、資産買取基金の残高が10兆円増加された後に、残高が維持される仕組みもスタートする。

表面上はかなり極端な緩和に走ったかに見えるが、市場の一部で取りざたされていた2%の目標達成まで、毎月一定の国債を購入する「無制限緩和」と比較すると、かなり常識的な内容であることがわかる。もし、毎月2兆円ずつ自動的に買い増すシステムが導入されれば、2013年に長期国債だけで24兆円の購入増となる。2014年度の日銀の消費者物価(CPI)上昇率の見通しはプラス0.9%であるため、14年も24兆円増加することになるだろう。

これに対し、今回の新システムでは、2013年の資産買取基金の買取ペースは、前回の金融政策決定会合で決められた内容通りであり、14年の増加額も10兆円となっている。「無制限緩和」では急増しかねなかった資産買取基金の残高の増加ペースは、より緩やかになった。

<独連銀総裁が懸念した政府の日銀への干渉>

欧州中銀(ECB)の理事会メンバーであるバイトマン独連銀総裁は21日、ドイツ証券取引所主催のイベントで講演し、日本政府が日銀にさらなる金融緩和を迫ったことは、ハンガリー政府の同国中銀に対する行為と同様、日銀の独立性を危険にさらしていると指摘。「両国では政府が積極的な緩和を求めて圧力をかけることで、中銀の領域に大いに干渉し、その独立性を脅かしている」と懸念を表明していた。

このバイトマン総裁の発言は、私が想定した「無制限緩和」的な手法を前提にしている可能性が高いと思う。もし、「無制限緩和」のような仕組みが導入されれていれば、日銀は甘んじてバイトマン総裁の批判を受けなければならなかったと考える。しかし、白川方明総裁が率いる日銀は、かつてない粘り腰を発揮し、独立性の放棄という危機を何とか脱したかたちだ。

<共同声明に入った不均衡リスク点検の意味>

白川総裁は22日の会見で、政府と発表した共同声明に関連し、物価安定の重要性や成長力強化が必要との項目が盛り込まれていると指摘。その上で「政策運営の柔軟性を確保することの重要性についても明記されている」と指摘した。加えて「中央銀行の独立性という考え方は世界的に確立された考え方であり、政府においても十分に理解頂いていると考えている」と述べた。

この説明は決して自己弁護ではなく、中銀が独自の裁量で具体的な金融政策の中身を判断する権限は、今回の"大改革"でもかろうじて守られたとのではないか。具体的には、「金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していく」と、共同声明の中で日銀のなすべきこととして明記された。

例えば、米景気の回復が鮮明になり、米長期金利が2%を超えて上がり出せば、日銀の緩和強化姿勢が強いだけに、外為市場でドル高/円安に弾みがつきやすくなるケースがありうる。政府・日銀の想定している"心地よい"水準を超えて円安が進んでも、2%の物価目標に達していない時に、緩和を継続する必要があるのか、という問題が発生する。この時に上記の項目が有効に機能すれば、日銀は緩和を止めることができる。白川総裁は会見で、不均衡が顕在化した場合の対応は「日銀が責任を持って判断する」と明言した。

<大規模な財政出動路線、麻生財務相は修正を示唆>

一方、政府・与党サイドにも昨年12月の衆院選前後とは違ったトーンが出てきている。麻生財務相は22日の会見で、2013年度予算案の編成に関し、新規国債発行額は「歳入面で、税収が新規国債(による歳入)より大きい形にしたい」と表明。さらに「新規国債発行は12年度当初(44.2兆円)を下回る方向で収めたい」と述べた。また、足元の外為市場でドル/円が89円台で推移していることに関連し、「円高がだいぶ修正されつつある」との認識を示した。

麻生財務相は政権発足当初、新国債発行額は44兆円という民主党政権時代の枠にこだわらないと発言。円安基調の相場についても、超円高の修正過程であるとの認識を述べ、円安進展のゴールについて明確な水準を指摘してこなかった。

<アベノミクス軌道修正なら、市場が反応へ>

安倍晋三首相が提唱するアベノミクスは、積極的な財政出動と大胆な金融緩和を組み合わせ、円安の進展を起点にして株価上昇を演出することで、国内の経済主体の心理を好転させようとしてきた。だが、日銀は2%の物価目標を選択したものの、当面は現実的な緩和政策を実施することが明らかになり、政府もその方針を容認した。これまでよりも財政規律を重視するメッセージを出し、円安のゴールが近いことをにおわせる発言も出てきた。

この一連の政府の動きは、アベノミクスをより現実的に運用するための「軌道修正」ではないだろうか。多くの市場関係者は、日銀の物価目標2%に目を奪われ、政府が微妙にカジを切り始めていることに気付いていないが、もし、私の想定が正しければ、いずれ市場へのインパクトが明確に出てくる時が来るだろう。円安/株高の修正局面が到来するとともに、日本国債格下げや長期金利上昇のリスクはひとまず後退するという現象だ。

これから1─2カ月の政府要人の発言をフォローしていけば、自ずと答えがわかってくるだろう。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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