January 29, 2013 / 9:53 AM / 7 years ago

アングル:B787調査が初搭載電池で難航、原因特定されぬリスクも

[東京 29日 ロイター] 米ボーイング(BA.N)787型機のトラブルの原因究明が難航している。出火や発煙を招いたバッテリーが旅客機用として初めて搭載されたリチウムイオン電池であるほか、調査が複数の国や企業にまたがっていることも作業を手間取らせている。

1月29日、米ボーイング787型機のトラブルの原因究明が難航している。写真はANAのB787型機。羽田空港で撮影(2013年 ロイター//Toru Hanai)

原因究明の手がかりとなる部品やデータが焼失した恐れもあり、原因を特定できないまま複数の安全対策を講じる必要に迫られる可能性がある。

<新技術、分業体制が裏目に>

「機内での発火は想定外」。米国家運輸安全委員会(NTSB)のデボラ・ハースマン委員長は、今月7日にボストンで起きた日本航空(JAL)(9201.T)機のバッテリートラブルについて語り、24日時点で「調査はまだ初期段階」との認識を示した。「電気系統での不具合は予想できなかった」。全日本空輸(ANA)(9202.T)機による高松空港でのトラブルを調査している日本の運輸安全委員会(JTSB)の後藤昇弘委員長も23日こう語り、「どういう調査体制を取ればいいのか苦労している」と漏らした。29日時点でも調査が「いつまでかかるかは見えない」(工藤正博主席航空事故調査官)状況だ。

国境を越えてサプライヤーが多く関与していることも時間がかかる要因だ。バッテリー本体を製造した日本のジーエス・ユアサコーポレーション(6674.T)、電気系統システムを担当した仏タレス<TCFP.PA>。米国では電池向け充電装置メーカーの米セキュラプレーン・テクノロジーズ、補助動力装置メーカー(APU)の米プラット・アンド・ホイットニーにも調査が入っている。

バッテリー内の電池(セル)の状態を監視・制御する電池管理ユニット(BMU)を製造する関東航空計器(神奈川県藤沢市)にも立ち入り検査を実施中。787型機では、コスト削減のためボーイングが直接取引するサプライヤー数を従来機に比べて絞り込んでおり、孫請け会社が多い。東京大学大学院の鈴木真二教授は「その結果として原因究明を難しくしていることも考えられる」と話す。

<外部有識者の登用>

電池業界からは「日本の調査に電池の専門家が参加していないことも原因究明を遅らせている」との声も出ている。米国では1970年代からリチウムイオン電池を研究している米海軍海上戦闘センター・カルデロック部門が参加しているが、JTSBの航空事故調査官は電池の専門家ではない。JTSBの工藤主席調査官は25日にようやく外部有識者を迎えて必要な知見を仰ぐことも検討する方針を示したが、人選はこれからだ。

GSユアサやタレスなどは当局の調査に協力しているが、メディアなどに対しては「調査中」であることを理由にバッテリーの詳細な説明を拒否し続けている。特にタレスは軍需産業を担うだけに機密が多いとされる。業界関係者は「企業秘密の部分も多く、メーカーも第三者にオープンにするのは抵抗があるだろうが、早期の原因究明と業界の信頼回復のためにも、あらゆる知見を総動員して調査に取り組んでほしい」と語る。

<リチウムイオン電池の安全性>

電池の専門家や研究者の多くは、今回のトラブルをリチウムイオン電池の安全性が問われる深刻な問題として捉えており、公開された情報などを頼りに原因を探ろうとしている。同じリチウムイオン電池でも携帯電話、EV(電気自動車)など用途が違えば材料や製造方法も各社各様。しかし、気圧や温度など使用環境が地上と異なる航空機用は「未知の領域ではあるが、基本原理は同じ」(複数の電池専門家)という。

リチウムイオン電池メーカーのエナックス(東京都文京区)創業者で、同電池を世界で初めて実用化したソニー(6758.T)の元電池技術責任者である小沢和典氏は、JTSBが公表したANA機の青い電池パックの写真から、BMUが物理的なダメージを受けてショートし、セルに「大電流が流れたのでは」と推測する。

小沢氏は、損傷していないAPU用電池パックの写真では、平行に固定されているはずのセルの位置が斜めにずれているようにみえると指摘。固定が不適切なため振動などによりセルが動き、銅製の接続部材(バスバー)を通じてBMUにダメージを与えた可能性があると話す。その結果、電池内に大きな電流が流れ、発熱につながったのではないかと推察する。

リチウム電池研究で有名なある大学教授は「リチウムイオン電池は元来燃えやすいもの。それをいかにシステムで制御するかが技術力。ボーイングは何度も実験を重ねているはずだが、どんなトラブルが起きても電池の発熱を防げるようなシステム設計が十二分にされていたかどうかだ」と指摘する。

<原因究明できない恐れ、同時にシステム再設計を>

ある電池の専門家は「原因が分かれば即、責任問題になる。何か手がかりを掴んでいたとしても、原因が完璧にわかるまでは当局の発言も慎重にならざるをえない」と推察する。原因を示すデータや部品が焼失し、究明できない恐れもあると指摘する向きも多い。ただ、その場合でも原因をいくつかに絞り込むことは可能で、それらの問題に対処する形でシステムを再設計することはできるとの見方が優勢だ。

中・大型電池に詳しい東京大学の堀江英明特任教授は「原因究明はされるべきで、究明できることを期待している」とする一方で、「ボーイングは原因究明作業と同時進行で、想定されるあらゆるリスクを回避するための安全システム全体をソフトとハードの両面から設計し直すことが大事だ」と指摘。「エンジニアリング側としてはそのシステム構築は必ずできる」と話す。

787の運航再開には、ボーイングが対策を講じたうえで、新たに安全性試験や型式証明の手続きを行う必要が出てくることが予想される。別のリチウムイオン電池専門の大学教授によれば、絞り込んだいくつかの原因を防ぐためのシステム再設計に「最低1年はかかる」こともあるという。

ボーイングは調査が終了し、米当局などから運航停止命令が解除されるまで航空会社への787の納入を再開しない方針。787型機は納入済みの50機を含めて受注数は848機。1機200億円前後といわれ、総額は約17兆円に達する。機体の約35%の部材を日本企業が供給しており「準国産機」とも呼ばれる787型機。納入停止が長期化すれば日本の部材メーカーも生産計画の修正を迫られ、ANAやJALは中長期戦略を見直さざるを得ないだけに、早急な原因究明と対策が求められている。

(ロイターニュース 白木真紀 杉山健太郎;編集 大林優香、宮崎大)

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