March 7, 2013 / 11:17 AM / 5 years ago

アングル:危機対応に奔走した白川日銀の5年間、デフレ脱却は道半ば

[東京 7日 ロイター] 19日に退任する白川方明総裁の5年間は、リーマン・ショックや欧州債務危機、東日本大震災など危機対応の連続だった。総裁は任期中、度重なる金融緩和と積極的な資金供給で日本経済の底割れ回避と金融システムの安定維持に奔走した。

一方で、日本経済のデフレ脱却という任務は道半ばに終わり、安倍政権が指名した後任に託す。白川日銀の金融緩和の手法については不十分だったとの見方が多いが、真の評価は新体制による大胆な金融緩和の成否にも左右されそうだ。

<異例のリスク性資産買い入れ>

白川総裁は2008年4月に就任してから半年足らずで「100年に1度の危機」といわれるリーマン・ショックに直面した。その後遺症がその後の白川日銀に重くのしかかる。危機封じ込めに世界的な規模で実施された積極的な財政出動と金融緩和は、欧州債務危機と先進国間の緩和競争に発展。欧米金融市場の混乱による質への逃避と内外金利差の縮小を背景とした一方的な円高進行が日本経済を直撃し、円高回避のための金融緩和が常態化することになった。

その中で白川総裁は資産買入基金を創設し、中央銀行として異例のETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)の買い入れに踏み込んだ。また、従来の中央銀行の枠を超えて金融機関に融資を促す「成長基盤強化の資金供給」や「貸出増加を支援するための資金供給」といった新たな貸出制度の導入など、斬新な施策を次々と打ち出してきた。

特に危機対応として実施した大規模な流動性供給は、世界的な金融危機が日本へ波及してくるのを水際で遮断。欧米諸国の金融システムが揺らぐ中、日本の金融システムの安定維持に大きな効果を発揮した。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美・シニア債券ストラテジストは、リーマン・ショック後に素早く実行に移した社債やCP(コマーシャルペーパー)の買い入れが「信用市場の崩壊を防いだ」と評価する。

東日本大震災後も巨額の資金供給を連日行って迅速に動いたほか、「リーマン後のBIS(国際決済銀行)の議論には白川さんの意見が相当反映されている」(野村総合研究所の井上哲也・金融ITイノベーション研究部長)とされる。

<情報発信力に難あり、緩和効果そぐ>

しかし、リーマン・ショックの後遺症で下落した消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、その後も本格的な上昇基調に乗ることはなく、足元もマイナスで推移している。「現在の安倍政権のように企業の余剰資金を吐き出させるため政府による賃上げ努力もデフレ脱却には不可欠」(大手銀行関係者)など、デフレの原因を日銀にすべて負わせるのは難しいとの声がある一方で、日銀の政策運営を手放しで称賛する声も皆無だ。「デフレ脱却には株を買うなど資産効果で人々の期待に働きかける必要があるのに、あくまで金利に働きかけるなど伝統的な中央銀行の枠組みを出られなかった」と、別の大手銀行関係者は指摘する。

また、「大胆な政策であっても副作用を自ら指摘することで政策への自信が市場に十分伝わらなかった。昨年2月のバレンタイン緩和を除けば、他国の中銀や政治圧力に追い込まれて動くことが多く、能動的に動いた場合より効果がそがれた」(三菱UFJ・六車氏)、「手の内に多くの政策手段がないことを正直に発信してしまうなど、市場との対話面で残念」(野村総合研究所・井上氏)など、政策そのものよりタイミングや情報発信力の問題点を指摘する声が多い。

たとえば、米連邦準備理事会(FRB)は償還期限が来た資産の買い入れを「再購入」と称して追加緩和策のように唱っている。それに対して日銀は資産買い入れ基金の残高を維持しつづけるため粛々と償還分に見合った資産を買い入れている。政策の中身は実質的に変わらないが、日銀内部でも自分たちの奥ゆかしさを自嘲する向きもある。

<白川日銀、評価は時期尚早か>

日本経済が長期化するデフレと円高で疲弊の度合いを深めていくとともに、白川総裁率いる日銀は政治からの金融緩和圧力にも晒され続けた。これに対して金融緩和を次々と打ち出すことで期待に応えてきたが、「ねじれ国会」を背景に「決められない政治」が続く中で、次第に日銀は「金融政策だけではデフレから脱却できない」「デフレ脱却には政府による成長力強化の取り組みが不可欠」との本音を発信していくことになる。両者の主張は、政府と日銀が双方の役割を確認する共同文書に盛り込まれたが、重要課題と位置づける「デフレからの早期脱却」が展望できないまま、白川総裁は日銀を後にする。

ただ、白川日銀を評価するのは時期尚早かもしれない。日銀による国債買い入れが財政ファイナンス(穴埋め)とみられないようにする「銀行券ルール」など、白川総裁が死守してきた枠組みの多くを、次期総裁候補の黒田東彦・アジア開発銀行(ADB)総裁は見直す意向を示している。白川総裁は7日、会合後としては最後となる会見で、日銀が財政ファイナンスをしていると受け止められれば、「長期金利が上昇し、多額の国債を保有する金融機関の経営を通じて実体経済に悪影響を与える」とあらためて警告したが、三菱UFJの六車氏は「どちらが正しいかは新体制の政策の成否をみないと判断できない」と話す。

昨年11月の決定会合後、会見に臨んだ白川氏はこう語った。「後世、日本の金融政策を振り返った歴史家は、1990年代後半以降の日本銀行の金融政策がいかに積極的であったか、大胆であったか、あるいは革新的であったかとみると思う」。

(ロイターニュース 竹本能文、伊藤純夫:編集 久保信博)

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