March 11, 2013 / 4:08 AM / in 7 years

コラム:日銀新体制下で予想される「円安第二幕」のシナリオ=唐鎌大輔氏

円安・株高を主軸とする堅調な相場、俗に「安倍相場」と称される動きは昨年11月から今年2月までを第一幕として、3月以降は第二幕に入った。

第一幕が政権交代に伴う漠然とした経済・金融政策のレジームチェンジ(体制転換)願望を背景に進んだ円安・株高相場だとすれば、第二幕は日米欧7カ国(G7)や20カ国・地域(G20)会合を経て、国際的な監視の目を気にしながらの緩やかな円安相場である。

別の言い方をすれば、これまでの経験則を乗り越えて進んできた「金利差なき円売り」は、第二幕ではアクセルの踏み具合が浅くなり、時折ブレーキを交えながらの展開に収束すると思われる。事実、対ドルでの年初来変化率を見ると、英ポンドは円に匹敵する下落率を示しており(2月末までならば英ポンドの方が最弱通貨だった)、円の独歩安が常態化していた昨年11月以降の相場が明らかに変わりつつある(1月1日―2月28日では、円は6.3%下落、英ポンドは7.2%下落)。

<為替発言の減少に見る安倍政権の意識変化>

昨年来、筆者の日々の講演会などでは「金利差なき円売りに必要なもの」は何かを語ってきた。それは、端的に言えば、通貨安志向を露わにする政府と、その手助けとして通貨政策の機能を求められる中央銀行(金融政策)である。

仮に「金利差なき円売り」を続けたいのであれば、リフレ志向の政府下における「間断なき金融緩和」は必須である(望むらくは外債購入のように為替市場に直接影響を与え得る手段も欲しいところだ)。事実、12月と1月の日銀金融政策決定会合では大幅な景気認識の下方修正が求められない局面で、9年半ぶりとなる2カ月連続の追加緩和が決定された。重要なことは、こうした政策運営が行われていると、為替相場は完全なる変動相場足りえず、管理変動相場、極端な想定としては固定相場という話に至りかねない点だろう。

本当に製造業が国にとって要諦だというのならば、筆者は管理変動相場や固定相場というシナリオは悪いとは思わない。だが、日本のようなG7先進国においてそうした明示的な通貨安を実現するには、諸外国の理解が当然必要になり、結局は通貨外交能力が問われる展開になる。要するに「金利差なき円売りに必要なもの」とは、行き着くところは通貨外交能力であり、2月はそれが試された局面だったという整理になろう。

一連の国際会議を経た今後は、昨年11月から今年2月のように政府・与党の要人が為替相場の水準や話題に言及して円が下落するような場面はあまり目にしなくなるだろう。現に、国会での議論を見ている限り、与党関係者の発言にはそのような意識変化がうかがえる。こうした所作は通貨外交能力の重要な一部であると考えられ、「要らぬ嫌疑」が「要らぬ円高」に波及するリスクを押さえ込むと思われる。

実際、米議会証言の場で「日本の金融政策は日本国内への対応であり、特に為替を狙ったものではない」と理解を示した米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長をはじめ、現状の円相場の動きに好意的な解釈を示す海外高官の発言が最近散見されるようになっている。今後、通貨外交は市場が安心して見ていられるものに変容していくと期待したい。

<資産買入基金の廃止は印象操作の有力な選択肢>

むろん、第二幕で加わるキーポイントは新たな正副総裁を迎える日銀の金融政策運営であり、その立ち回り次第で「金利差なき円売り」の趨勢も変わるだろう。

衆参両院で政府人事案が同意を得られれば、3月20日にも黒田東彦総裁・岩田規久男副総裁・中曽宏副総裁を迎え入れた新体制が発足する。黒田氏、岩田氏の過去の発言から察するに、白川方明総裁率いる旧体制よりも強力なリフレ志向を備えた執行部となるのは間違いない。

ただし、思想信条としてリフレ志向が強いことと「現実に何ができるか」ということは冷静に切り分けて分析すべきである。リスク資産の買い増しは恐らく行われるだろうが、なにぶん市場規模が限られる。麻生財務大臣が「断固回避」とまで述べ、黒田氏も昔から消極的な外債購入に手がつけられる可能性も現時点ではゼロに近いだろう(「金利差なき円売り」にとって、これは大きな痛手である)。

だとすれば、基本的に「買えるものは国債」という状況は変わりようがない。そうなると、旧体制が苦手だった部分、つまり「いかにうまく見せるか(あるいは魅せるか)」が問題となろう。例えば、ETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)などを買い入れている中央銀行は海外には存在せず、その辺りのアピールはもっと巧みにやる余地があったことは否めない。

レジームチェンジを文字通り見(魅)せつけるための具体策に関しては、銀行券ルールの撤廃と輪番増額、これに伴う「資産買入等の基金」廃止などを予想したいところである。2月28日、木内登英審議委員が講演で述べていたように、基金で買い入れる国債の対象年限を延ばしていけば、輪番オペとの境目が曖昧になるわけで、基金を別立てで管理することの意味は薄れる。白川体制で生まれた「基金」を葬り去ることは、新体制が行う市場への印象操作として有力な選択肢だろう(これは日銀券ルール撤廃についても同じことが言える)。現に3月5―6日の会合では白井さゆり審議委員が「基金オペと輪番オペの統合」を提案し、否決されている。

基金残高という従前の目標が消えれば、当座預金残高へ目標が移るだろう。要するに、2000年代前半にとっていた方法に戻ることになる。岩田氏の持論を踏まえれば、この展開はむしろ自然だ。同氏は「当座預金残高10%増で予想物価上昇率が0.44ポイント上昇」と述べているが、01年3月から06年3月の量的緩和局面では400%以上当座預金残高を増やして、消費者物価上昇率(CPI、総合)の前年比は期間平均でマイナス0.4%だった。「量的緩和が物価に与える影響は限定的」という従前の史実を超えることができれば、確かにそれは異次元の所業であり、結果を見守りたいところである。

どのような手段をとるにせよ、新体制下の日銀が市場期待をどの程度うまくつなぎ止めることができるかという観点は第二幕の重要ポイントに違いないが、一気に政策の選択肢が増えるかのような期待を持つことは行き過ぎだろう。あくまで日銀金融政策決定会合は合議制による多数決であり、黒田氏と岩田氏の両人が大胆な緩和提案を行っても、既存メンバーがこれを支持するとは限らない(3月会合を終えた時点での票読みでは五分五分の印象である)。この辺りの足並みの乱れを市場、特に海外勢は見逃さないだろう。4月の初回会合、もしくは3月に臨時会合が開かれるようなことがあれば、全世界が注目するイベントになる。

<ドル90円を割り込むのは一時的か>

最後に、相場の具体的な水準について考察しておきたい。

2月24―25日のイタリア総選挙で安定的な政権樹立が難しいとの見立てから、ユーロ全面安の相場の中で久しぶりに「リスク回避の円買い」が進行した。あくまで国内政治への期待を礎(いしずえ)とする「金利差なき円売り」は、世界中を巻き込みかねない欧州発の「リスク回避の円買い」には押し負けてしまうという事実が浮き彫りになったと言えるが、このような事態は恐らく今後も覚悟すべきだろう。

ユーロ圏のファンダメンタルズに関しては、前向きに評価すべきポイントを見つける方が難しい状況であり、昨年来、ユーロ相場が上値を追う場面でも基礎的な経済指標は確実に劣化し続けていた。こうした状況下、今年も欧州要因に根差したリスクオフ局面が散発的に到来することは不可避と考えられ、その際、ドル円相場が一時的に90円を割り込むような展開は想定しておいた方が良い。

しかし、金利差以外の要因に目を向ければ円の先安感はやはり強い。具体的には需給環境と海外経済情勢が根強い円安要因として意識されるはずだ。

そもそも、円相場の需給環境は12年以降、文字通り「次元の違う」世界へ突入している。11年の基礎的需給が16.9兆円の円買い超過だったのに対し、12年は3.2兆円の円売り超過となっており、需給の傾斜度合いは180度変わったと言っても過言ではない(ちなみに、筆者は国際収支統計のうち、経常収支、直接投資、政府・銀行部門以外の対外証券投資、対内証券投資を合計したものから、外貨のまま海外に残る再投資収益を控除した計数を基礎的需給バランスとして注目している)。

恐らく13年も12年と大差ない需給環境となるだろう。少なくとも13年上半期中に火力主体の電源構成が変わる気配はなく、昨年対比で円安が進んでいる以上、輸入金額は増える。一方で、円安になったからと言って輸出数量が即座に増えるわけではない。こうした、いわゆる「Jカーブ効果」の発現が想定される状況にあって、上半期は「円安が円安を呼ぶ」ような収支悪化が見られる可能性が高い。

また、海外経済情勢については、上述したように、欧州に絡んで断続的に「リスク回避の円買い」が生じることは避けられまいが、米国の堅調な足取りが続く中で、一時期のように「米経済悪化」が「FRBの金融緩和」を促し「ドル安・円高」を招くといったパターンはあまり起きないだろう。「量」と「金利」の決別を図り始めているFRBは、超低金利を継続しつつも、量的緩和を早期縮小・撤収することをすでに議論し始めており、長らく悩まされ続けた米国要因での円高圧力は減じられそうである。むしろ、米経済情勢の現状と展望を踏まえれば、内外金利差の緩やかな拡大から円売りが進む可能性の方が高いのではないか。それゆえ、日銀の緩和も14年以降、極端なアクセルが控えられる展開になるのかもしれない。

なお、通貨売り(円売り)とは本質的には望ましくない動きである。この点に照らせば、今の日本には残念な円売り要因がいくつかある。仮に財政再建の目途がつかずに野放図に財政支出が拡大したり、あるいは消費税増税が先送りされたり、中央銀行の独立性をあからさまに無碍(むげ)にするような政府の動きが見られたりした場合、金利差や需給など関係なしに円売りが進むだろう。

むろん、このような動きは政府も望んでいないだろう。今のところ第二幕は、需給や海外経済堅調とそれに伴う内外金利差の拡大に支えられて円売りが進む「健全な円安」コースを歩む可能性が高いと筆者は考えている。

*唐鎌大輔氏は、みずほコーポレート銀行国際為替部のマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より現職。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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