April 5, 2013 / 7:57 AM / 6 years ago

コラム:黒田日銀の巨大資金供給は勇気か、無謀か=熊野英生氏

黒田東彦総裁の就任後初となった4日の金融政策決定会合で、日銀は2014年末までに270兆円の資金供給を行うことを決めた。物価目標の達成に向けて資金供給量を2年間で倍にする大胆な緩和方針を受け、いったんは長期金利が凄まじい勢いで低下した。

ただ一方で、ここまで日銀が市場の過熱を煽ってよいのかとの思いも頭をよぎる。270兆円は、政府予算の3倍近くと、目もくらむような金額だ。補正予算13兆円の規模でさえ小さく見える。数字に関する感覚が麻痺してしまいかねないところが怖い。

資金供給量を2倍に増やす方策として、日銀は年限の長い長期国債を中心に、毎月7兆円強の国債購入を行う計画だ。毎月7兆円強ということは、年換算で85―90兆円という規模となる。2013年度の国債発行計画では、市中発行額は126.8兆円だったので、新規発行する国債の67―71%を日銀が買い取る計算となる。従来は30%だったことを考えれば、これはやりすぎではないか。

「補正予算の13兆円が小さく見える」と先述したが、うっかりすると財政規律の喪失も起こしかねない。今のところ、政府の財政規律は、消費税増税や基礎的財政収支の黒字化といった健全化路線によって担保されている。しかし将来、そうした約束が履行されず、歳出拡大圧力に急かされたとき、国債を発行して日銀が買い取ればよいという発想に傾かないとも限らない。

日銀が政府の国債発行をある程度助けることは必要だが、節度を維持することも重要だ。細かなところでは先日の決定会合で、日銀が輪番オペの対象とする長期国債について「発行後1年以内のもののうち発行年限別の直近発行2銘柄を除く」との制限を撤廃している。今までは市場の価格形成を歪めることに対する慎重な姿勢が見られたが、今後は日銀のオペが市場により積極的な影響力を与えることになろう。

民間銀行が新発債の入札に応じて、すぐに日銀に持ち込めばよいという発想になる。政府の立場から見れば、強力な札割れ対策になるが、反面、民間銀行が価格変動リスクへの意識を希薄化させる可能性も警戒される。

<ショック療法効果を狙う壮大な実験か>

日銀が長期国債の買い入れを極端なまでに推進するのは、イールドカーブを超長期にわたるまで押し下げることで極端な運用難の状況をつくり、民間銀行がリスク性資産へとポートフォリオを組み替える圧力を作り出すことを狙っているのだろうか。マネタリーベースの目標を270兆円という巨大なレベルまで積み上げて行う、そうしたショック療法は壮大な実験といえるだろう。

黒田新体制は、消費者物価2%目標達成に向けて、長期国債を購入することは有効性が高いと言っている。しかし、多くのエコノミストは、2%の目標は現実味が乏しいと考えている。それゆえ、高すぎる目標の達成に向けて、日銀がひたすら国債を購入し続けるというイメージが脳裏に浮かぶ。

毎月7兆円強の国債買い入れでさえ、一見すると冒険的だが、それだけやらないとマーケットに十分なインパクトを与えられないということなのか。極端な運用難を作り出すというショック療法の効果が、本当に腰の据わった円安・株高、ひいては貸出増に向かうかどうかは不確定なところが大きい。先行きの話ではあるが、現在私たちが目にしている状況がいつの間にか変化して、抜けるに抜けられない罠にはまってしまいはしないかと心配になる。

<アベノミクスの成功が開く「パンドラの箱」>

安倍晋三首相が昨年11月、当時の日銀の金融政策を批判した結果、現在のような円安・株高が生み出された。こうした成功体験が、金融緩和への極度な依存が始まる歴史的転換にもつながりかねないと、現在のアベノミクスの成功を見るにつけ、将来について不安を覚える

思い返せば、1999年にゼロ金利政策が導入された当初、株価上昇効果があると喧伝されたことがあった。その後、「柳の下の・・・」ではないが、量的緩和、包括緩和と大胆な金融政策が続いた。今回、金融政策が円安・株高に効果を上げたことが、新たなパンドラの箱を開けた可能性は否定できない。

翻って、インフレ・ターゲットの元々の意味は、経済政策運営の「制御」であったはずだ。人間の判断は間違いやすいものなので、金融政策は機械的に行い、人為的な緩和を抑制する。インフレ・ターゲットの政策思想は、米経済学者ミルトン・フリードマンなどのマネタリストの先祖たちが考えた知恵とは、現在ではすっかり変わってしまっている。

人間の知性が完全なものならば、リフレ手法に合理的にチャレンジするのもよかろう。しかし、経験主義に基づくと、そうした想定が成り立たなくなることは歴史上何度も繰り返されてきた。そうしたリスクにはくれぐれも注意したい。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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