April 11, 2013 / 1:26 AM / 7 years ago

コラム:壁に近づく「黒田円安相場」、ドル95円に反落も=村田雅志氏

スポーツでも何でもそうだが、勝負の始めに圧倒的な力で相手をねじ伏せることは、その後の展開を有利に運ぶために有効である。上品と揶揄された白川方明前総裁下の日本銀行の動きに市場は慣れ切っていた。そんな市場に対し圧倒的な力を見せつけた黒田東彦新総裁は、勝負の勘所を的確に理解しているのかもしれない。

日銀は4月4日の金融政策決定会合で、2014年末までに270兆円の資金供給を行うことを決定。国債購入は40年債を含む全年限を対象に毎月7兆円強に拡大され、保有国債の満期までの平均期間(デュレーション)は現状の3年弱から7年程度に延長される。また、長期新発債の7割をグロスで買い入れるという。

今回の緩和強化策(量的・質的金融緩和)がこれまでと大きく違う点は、緩和の規模が拡大されただけではなく、買入対象国債の年限を一気に全て40年までとしたことだ。これにより10年を超える年限の長期債利回りが低下し、日本の金融機関は円債市場での運用がより難しくなるとの思惑が強まりやすくなる。

市場では円債市場からマネーが流出し、その一部は対外資産に向かうとの見方も加わり、ドル円はわずか1日で92円台後半から96円台前半に上昇。その後も円売りの流れは続き、ドル円は09年5月以来となる99円台後半を記録した。

黒田総裁は決定会合後の会見で、量的・質的金融緩和でポートフォリオ・リバランス効果が期待できると指摘した。同効果は、日銀が市場に潤沢な資金を供給することにより、金融機関がより高いリターンが期待できる運用先を求めてポートフォリオを再構成することを期待するものだ。この結果、貸出が増加すれば設備投資などが促進されることになる。

しかし、日銀短観の設備判断DIが示すように日本企業の設備過剰感は続いたままだ。マクロで見た設備投資ニーズが大きく強まるとは見込みにくく、日本の金融機関が企業向け貸出を拡大させることは期待できない。日銀からの緩和マネーの多くは当面、実体経済ではなく金融市場に流れ込むと考えた方がいいだろう。緩和マネーを手にした日本の金融機関が、どのような金融資産への配分を高めるかは見極めにくいが、外債を中心とする対外金融資産により振り向ける可能性は高い。

<「酒は飲むとも飲まるるな」>

日銀の資金循環統計によると、金融資産全体に占める対外証券の割合(対外証券比率)は、量的緩和政策が実施された03年第1四半期から06年第1四半期までの3年間に、日本の銀行(預金取扱機関)で1.4パーセントポイント、保険・年金基金で3.6パーセントポイント上昇した。仮に量的・質的金融緩和を機に対外証券比率が同程度上昇したと仮定すると、3年間で計45兆円、年間約15兆円の円売り圧力が発生する計算となる。12年の日本の経常黒字が4.8兆円だったことを考えると、実需の円買い需要は十分吸収されることになる。

一部のメディアが決定会合後のドル円の急ピッチな上昇を「黒田相場」と称するなど、日銀の緩和強化策を称賛する声が強まっている。この勢いならドル円が100円を突破し、さらに上値を目指すのは時間の問題との見方を示す市場関係者も増えている。

ただ、こうした期待に水を差すようで恐縮だが、たとえ一時的に100円台に乗せたとしても、早晩伸び悩む動きが強まり、場合によっては95円台まで下落するリスクもあると筆者は考えている。日銀の緩和強化による対外投資の拡大期待はすでに市場に十分織り込まれており、短期的に円売りの動きが大きく強まることは期待できないからだ。

現に決定会議後、日本マネーの流入期待を背景に上昇したフランス債、ベルギー債などの欧州債は、週明けの8日以降、日本からの買いがさほど強くないことが明らかとなり、売り優勢の展開となっている。前述した通り、日本の金融機関は対外資産への配分を高める方向にあるとしても、市場の期待は過剰すぎるのだろう。

また、黒田総裁自らが決定会合後の会見で「現時点で必要と考えられるあらゆる措置を取った」と述べたように、日銀は26日の次回会合で追加緩和に動くとは考えにくい。5月以降の会合でも、追加緩和の可能性を示しながらも当面、様子見の姿勢を続けるだろう。こうした動きは一部で盛り上がっている黒田総裁に対する過度な期待を後退させる。

これまで円売り材料とされてきた日本の貿易赤字が縮小する可能性も意識しておくべきだ。3月の中国輸入が前年比14.1%増と市場予想を上回る伸びを記録したように、中国の内需回復ペースは徐々にではあるが強まっている。米国景気が底堅い動きを続けていることから中国の輸出も増勢を維持する見込みで、日本の輸出は中国向けを中心に底打ちが見込まれる。原油・天然ガス輸入の拡大もようやく落ち着きを見せつつあり、日本の貿易赤字は縮小に向かうだろう。

さらに、急激な円安の進展で円売りポジションが積み上がっている点にも注意が必要だ。核実験やミサイル発射予告など北朝鮮の威嚇姿勢は強まるばかりである。いわゆるテールリスク(予期せぬイベントが発生する可能性)の高まりによって、積み上がった円売りポジションを解消する動きが続く展開も想定すべきだ。

黒田総裁の勝負にかける執念が実ったのか、日銀の緩和強化を受けて円売りは進展。ドル円は100円の大台が視野に入ったこともあって、さらなる上昇を期待したくなる気持ちは理解できないわけではない。ただ、期待先行の上昇相場は、期待の後退とともに終焉を迎えることが多い。「酒は飲むとも飲まるるな」との格言があるように、金融緩和を根拠としたドル円上昇期待には当面、距離を置くべきと思われる。

*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのシニア通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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