April 16, 2013 / 1:06 AM / 7 years ago

ブログ:日韓「有機EL競争」勝敗の行方

村井 令二

写真は1月8日、米ラスベガスで開催された家電見本市「CES」で語るパナソニックの津賀一宏社長(2013年 ロイター/Rick Wilking)

液晶テレビで日本メーカーが、韓国勢に敗北したことは疑いの余地がないが、既存のテレビの概念を大きく変えるとされる有機ELディスプレーの競争は始まったばかりだ。

韓国のサムスン電子(005930.KS)とLG電子(066570.KS)は昨年1月、世界最大の家電見本市「CES」で、55型の有機ELテレビの開発を発表。これに対し、ソニー(6758.T)とパナソニック(6752.T)は、今年1月の同見本市で56型の有機ELテレビを披露した。

日本メーカーは「1年遅れ」にも見えるが、「韓国に技術で負けていない」とパナソニックの津賀一宏社長が強調したのは虚勢ではない。日本勢が発表した有機ELテレビは、フルハイビジョン(フルHD)の4倍の解像度を持つ「4k」対応で、韓国勢のフルHD対応を上回った。ディスプレー分野に詳しい韓国のアナリストは、「CESでの日本メーカーの発表は少なからず韓国勢に衝撃を与えた」と指摘する。

テレビの画質競争はもう限界で「4kでもフルHDでも大した差別化にならない」との見方は一面では正しいが、すでに市場競争が飽和に達している液晶テレビではなく、有機ELは最先端技術を争う分野だ。価格が液晶テレビの10倍とされる有機ELテレビに関心を持つ顧客は、未成熟ながら最先端の技術に興味があるため、「わずかでも日本メーカーのスペックが勝るなら、韓国メーカーの有機ELテレビの売れ行きに影響する」というのが前述のアナリストの見方だ。

現に、LG電子が今年1月から「世界で初めて」となる55型の有機ELテレビの予約販売を始めたが、市場の予想では、予約台数は月に100台程度に過ぎないという。しかも、「予約客の手元に製品が届いたという話を聞いたことがない」(別の韓国アナリスト)と、出荷の実績がほとんどないとの見方もある。有機ELの大型パネルの量産に難航し、歩留り(不良品を除いた製品の比率)を一向に上げることができないのが実態のようだが、何としても有機ELテレビの商品化に先駆けようとの意気込みは伝わってくる。

サムスン電子も、2012年中の商品化は実現できなかったが今年中にも発売するとの見方が強い。モバイル用途が主流の現在の有機EL市場では、スマホ「ギャラクシー」に同パネルを搭載することで、サムスン電子が9割のシェアをとっている状況だ。

一方で、有機ELパネルで提携を結んだソニー・パナソニックの両社とも「2013年中にパネル量産技術を確立」との計画だけ発表し、テレビの製品化スケジュールについては言及していない。「まずはパネルの量産化技術の確立が先。(有機ELテレビの)量産はその後に判断すればいい」(ソニーの今村昌志業務執行役員)とのスタンスにとどまる。

有機ELテレビの商品化を急ぐ韓国勢に対し、沈黙を続ける日本勢。ただ、これについて「また日本が出遅れた。有機ELでも韓国に勝てない」との見方は早計だ。

有機ELの世界的権威である、山形大学の城戸淳二教授は「有機EL開発はまだ2合目に過ぎない」と指摘する。有機ELパネルを搭載した「テレビ」の発売に出遅れても、主戦場はテレビにあるのではない。既存のテレビの高精細化だけならば、液晶の競争と同じ。有機ELディスプレーは画面がきれいで消費電力が低いだけでなく、数ミリというフィルム状に加工して、ペラペラの薄さで、折り曲げたりロール状に巻き取ることができるといった、「フレキシブル」な応用技術に巨大市場が眠っていると強調する。

液晶を超える映像を映し出す巨大なフィルムが登場すれば「テレビ」の概念を超えて「壁紙」になっていく。その壁紙は、世界各国のリゾート地や観光名所の風景を映し出し、遠く離れた家族や友人と等身大の大きさで会話を楽しむことができるかもしれない。その壁紙を天井に張れば星空やオーロラの下で眠りにつき、時には夜でも青空を仰ぐことができるかもしれない。

もちろん、壁紙のウインドウ画面をタッチパネルで見やすい大きさに収縮すれば、テレビのようにスポーツ中継やビデオ・オン・デマンドを楽しめるのではないか。それは、リビングに1台、寝室に1台という既存のテレビではない、無限の用途が広がるだろう。

足元の現実世界では、ソニーもパナソニックも、2013年度は赤字事業の止血に追われて事業構造改革のさ中にある。サムスン電子は2012年12月期に2.5兆円の営業利益をたたき出し、スマホの販売でアップルのiPhoneを凌駕するなど、当面はその地位は安泰とみられている。

だが、有機EL技術の真骨頂は、モバイル用途ではなく大型化にあるとすれば、日韓対決の行方はまだこれからだ。城戸教授によれば、大型でフレキシブルなフィルム化の材料技術を持っているのは日本の部材メーカーや樹脂メーカーだという。

パナソニックの津賀社長は3月28日の中期経営計画で「家電と(住宅)建材の一体化をなんとしてもやりたい。これで家電の『壁化』を新たなテーマとして取り組んでいく」と述べた。ペラペラでロール状に巻き取れる有機ELフィルムなら「壁化」にうってつけだろう。

あるソニーの幹部は「今の有機ELテレビなら韓国勢に売らせておけばいい。本当の勝負はフレキシブル化にある」と語る。有機EL技術を使っても、55インチや56インチの大型テレビを発売するだけでは、単なるテレビの新商品に過ぎない。技術開発の手を緩めることなく、有機EL技術を使ったあっと驚くような応用製品が出てくることに期待したい。

(東京 16日 ロイター)

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