April 16, 2013 / 8:18 AM / 6 years ago

コラム:リスクテイカー黒田日銀総裁の「大勝負」=加藤隆俊氏

黒田東彦日銀新総裁の印象を一言で表現すれば、「リスクテイカー」ということになろうか。善し悪しは別として、政策担当者には、どちらかと言えば、リスクアバース(リスク回避的)な人間が多い。ところが、黒田総裁は、市場の期待を大きく上回る緩和強化を平然とやってのけた。

率直に言って、先の金融政策決定会合の結果には、筆者も驚いた。政策の中身はいろいろと報道されているのでここでは詳述しないが、量・質の両面で、確かに「異次元緩和」という呼び名にふさわしいでものであった。

むろん、後述するように、そのリスクは大きい。しかし、日銀が踏み出した以上、もはや後戻りはできない。政府としても黒田総裁の覚悟を受け止め、成長戦略の実行などデフレ脱却に向けた日銀との共同声明の公約をきちんと果たしていくことが求められている。

また、有識者も後ろ向きの批判で足を引っ張るのではなく、緩和強化がデフレ脱却につながるように建設的な意見を投げかけていくべきだ。縮小の一途を辿ってきた日本経済にとって、これは乾坤一擲(けんこんいってき)の「最後の大勝負」に等しいとの危機感を共有する必要がある。

<資産バブル回避への方策>

まず、緩和強化の狙いからおさらいしておこう。マネタリーベース目標を採用した日銀は2014年末までに270兆円という潤沢な資金を供給するが、その最大の眼目はポートフォリオ・リバランス効果にあることは明確だ。すなわち、大量の資金供給を通じて長めの金利の低下を促すとともに、資産価格のプレミアムに働きかけることによって、金融機関によるリスク性資産の運用や貸し出しの増加を誘発しようとするものである。

また、これまで日本国債偏重だったポートフォリオの再構築を迫られる年金や生保などの国内機関投資家が、どの程度の資金を外債投資に振り向けるかに国際資本市場の関心が集っている。ただ、先週発表の統計によれば日本の投資家はまだ外債投資には乗り出しておらず、むしろ足元は先行きへの期待を材料にしたヘッジファンドなどの買いによって世界的に債券利回りの若干の低下が誘発されているように見受けられる。今後の展開が国際的にも注目されるところであろう。

しかし、リスクや副作用の心配は、確かに尽きない。目先では、日銀という公的な当局が相当な腕力でもって金融資産の取得に乗り出していくので、新たな局面への対応を国内機関投資家や金融機関が十分に消化するまでの間は金融市場が不安定化することが予想される。

さらには、金利バネが反転した場合の財政や金融機関のバランスシートへの悪影響にも十分留意しながら金融緩和を進めていく必要がある。より根本的には、日銀から供給される大量のマネーがどこに向かっているかである。すなわち、政策的に誘導された低金利が不動産、株式、外債などの資産投資に振り向けられるのか、金融機関の積極的な融資態度が新たな民需の掘り起こしにつながっていくか、である。

幸い、現在の日本経済の環境は悪くはない。全国の銀行貸出残高は前年比でプラスの伸びを示しており、また円安の恩恵を受ける輸出セクターを取り巻く環境も、海外の経済状況が昨年より良いことを考えれば、引き続き改善していく可能性が高い。日銀の強力な金融緩和の効果を主としてコストプッシュ・インフレに終わらせず、家計を潤す所得増の好循環に誘導していくためには、政府による成長戦略の強力な実施が望まれる。

<インフレ2%目標を金科玉条としない>

とはいえ、20年近くの長きにわたりデフレに喘いできた日本経済が、数年内に様変わりすると考えるのも早計だ。

インフレ目標2%の達成は、はっきり言って、容易ではない。様々なマクロモデルで計算すると、10年近くかかるとの試算がはじき出される。労働賃金が上がらず、円安のさらなる進行で輸入物価ばかりが上昇することになれば、交易条件の悪化で家計から悲鳴が上がることになろう。

大事なことは、日本経済を持続的かつ健全な成長軌道に戻すという目標を見失わないことだ。誤解を恐れずに言えば、筆者は「2年でインフレ2%達成」を金科玉条のごとく捉えなくてもよいと考えている。2%の方向に向かっていることが2年後の段階で確認できれば十分ではないだろうか。日本経済のファンダメンタルズから見て、2年後に2%の妥当性を改めて評価すればよい。つまり、目標ではなく、一つの理念、一つのチェックポイントとして国民に認知してもらうことができるかが、政府・日銀の今後の課題となろう。

また、黒田総裁は出口戦略については「時期尚早」というが、これほどのペースでバランスシートを膨らませば、国債市場や金融機関の経営に大きな影響を及ぼすのは確実だ。出口のための枠組みを直ちに整える必要はないが、出口の方向に歩みを始めた場合に、金利や金融機関の経営にどのような影響を与えるのか、今の段階から細かくシミュレーションしておく備えは必要であろう。

最後に補足すれば、たとえアベノミクスが上手く進み、デフレから脱却できたとしても、日本は財政健全化という痛みを伴う改革から逃れることはできない。消費増税は必要だが、それだけでは財政構造は健全化しない。特に歳出の大部分を占める社会保障関連費の見直しは避けて通れない道である。

日米欧先進国は昨年の20カ国・地域(G20)ロスカボス・サミットで、「信頼に足る中期的な財政政策を(今年9月の)サンクトペテルブルク・サミットまでに策定する」と約束した。日本に限ったことではないが、具体的な財政構造健全化への道筋を提示しなければ、格付け会社からネガティブウォッチとされかねない。

*加藤隆俊氏は、元財務官(1995─97年)。米プリンストン大学客員教授などを経て、2004─09年国際通貨基金(IMF)副専務理事。10年から公益財団法人国際金融情報センター理事長。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、個人的見解に基づいています。

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