May 2, 2013 / 2:03 AM / 7 years ago

コラム:「5月に株を売り逃げろ」は本当か=嶋津洋樹氏

今年も夏の到来を前に、世界的な景気回復への期待が揺らいでいる。今年「も」と言ったのは、日米でリーマンショックに伴う景気後退が終わった翌年(2010年)以降で4度目となるからだ。

ウォール街では、「5月に(株を)売り逃げろ(Sell in May and go away)」とさえ言われている。その理由としては、過去の経験則や季節性の要因、あるいは最近では欧州債務問題の長引く影響などが語られているが、いずれも議論が割れており、多くの支持を集められるほど理論的にはっきりとしたものはない。

たとえば、季節性の要因。確かに、経済指標や時系列データは通常、季節の変化やそこから生じる社会的な慣習によって1年のうちに定期的な変動を繰り返すが、そもそもどこまでが季節変動でどこからがそれ以外かの区別は明確ではない。

なかでも、このところ春先になると世界経済への影響が注目される中華圏の「旧正月」後の反動も、旧正月の時期そのものが毎年変わるため、正確な分析は極めて困難だ。さらに、近年のように異常気象が続くと、何が季節変動かさえも怪しくなる。08年9月にリーマンショックが発生し、09年の春先にかけて景気の落ち込みが激しくなった影響で、10年以降もそれを相殺しようとする季節調整の効果が働いているとも考えられるが、時間の経過とともにそうした効果は小さくなるはずだ。少なくとも過去の経験則や季節性の要因だけを理由に、「5月は売り」と決めつけるのは危ういだろう。

<「Sell in May」の格言が裏目に出る可能性 >

では、欧州債務問題の長引く影響はどうか。確かに、一見すると、今年も四半期ごとの危機拡大と終息を繰り返しているようにみえ、状況は必ずしも明るくない。実際、直近では2月下旬にイタリアで政治的混乱が発生、3月下旬にはキプロス支援を巡るユーロ各国の足並みの乱れが続き、金融市場に打撃を与えた。その影響が4月、5月に公表される経済指標で顕在化しても不思議ではない。

また、今年はコモディティ相場の調整が進み、景気の先行きに暗い影を落としている。主要国の名目国債とインフレ連動債の利回りの差で示される期待インフレ率は足元で急速に低下。欧米ではデフレ回避のため、追加緩和が必要との観測すら浮上している。中国での鳥インフルエンザ拡大や、北朝鮮問題、イランなどを巡る地政学的リスクも加わり、世界経済を取り巻く環境は依然として不透明感が強いと言えよう。

ただし、筆者は、以下のような理由から、実は今年については「5月に(株を)売り逃げろ」という格言が裏目に出る可能性があるとみている。

まず、コモディティのなかで最も大きな調整を経験した金などの貴金属には、景気の先行指標という側面に加え、米ドルや米国債を上回る「質への逃避」の受け皿としての性質もあることに注意が必要だ。一時は原油などにそうした機能を求める動きすらあった。そう考えると、足元のコモディティ相場の調整は、世界的な景気悪化の前兆ではなく、世界経済がリーマンショックで負った傷から本格的に回復する前触れとも捉えることができよう。

その前提に立つと、コモディティは価値の保存という面で優れていても、保有することのメリットは乏しい。というのも、保管コストのかかる場合があるうえ、相場の下落がいったん始まると、価値の保存というメリットすら危険にさらされるからだ。そのことは、コモディティの魅力を一段と低下させるだろう。

実際、リーマンショックの震源地となった米国では、住宅価格が上昇に転じ、家計部門のバランスシート調整も一服。企業は借り入れを増やしている。また、金融機関はサブプライム住宅ローンの取り扱いを再開。住宅価格の上昇分を現金化する「ホーム・エクイティ・ローン」という言葉もメディア上で再び目にするようになった。

今年はサブプライム住宅ローン問題が顕在化して6年目、リーマンショックからは5年目にあたる。戦後の金融危機が平均で3―4年をかけて危機前の実質国内総生産(GDP)水準を回復し、6―7年後から景気の回復ペースを加速させたということを踏まえると、今年は米国景気が再び世界の牽引役として復活しても不思議ではない。

そもそも、コモディティ相場の調整を世界的な景気悪化の前兆と捉えた場合、経済政策の不確実性を示す指数(Economic Policy Uncertainty Index)や、株式市場の恐怖指数(VIXやVSTOXX)が欧米ともに水準を切り下げていることは正当化しづらい。欧州周辺国債の対独国債スプレッドは縮小傾向をたどっており、それらの国々のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)価格も下落。イタリアやスペインの長期金利も、ギリシャ問題が表面化する前の水準へ近づいている。金融市場のストレスの度合いを示す指数は、ほぼリーマンショック前の水準へ回帰した。これらが示唆するのは、いずれも世界的な景気の回復だろう。

むろん、コモディティ相場の調整が他の金融市場に先んじて、世界景気の下振れを示唆している可能性はある。3月分の経済指標が下振れたのは、上述した特殊要因ではなく、コモディティ相場と同様、景気の実際の弱さを反映したとも考えられる。しかし、コモディティ相場の調整は企業の粗利の改善や家計の実質的な可処分所得の押し上げという別な効果も期待できる。

特に米国はこれからドライビング・シーズンが本格化。この時期のガソリン価格下落は、個人消費増に大きく貢献すると期待できる。米国経済がリーマンショックからの回復という点で、新たな局面を迎えているとすれば、その期待には裏付けもあると言えよう。

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントを経て2010年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとして、日米欧の経済、金融市場の分析に携わる。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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