March 2, 2012 / 3:55 AM / 7 years ago

提言:アジアの躍動と原子力に真正面から向き合え=寺島実郎氏

躍動するアジアの活力をどう吸収していくのか。安全神話崩壊後の原子力とどう向き合っていくのか。日本総合研究所の寺島実郎理事長は、ロイターの「日本再生への提言」特集で目指すべき針路を語った。

3月1日、躍動するアジアの活力をどう吸収していくのか。安全神話崩壊後の原子力とどう向き合っていくのか。日本総合研究所の寺島実郎理事長が日本再生の針路を語る。提供写真(2012年 ロイター)

同氏の提言は、以下の通り。

<政治のガバナンスを取り戻せ>

復興庁も船出し東日本大震災からの復興は表面上前進しているように見えるが、政府からきちんとした骨太のグランドデザインがいまだ提示されていないことは残念だ。福島第1原発事故に伴う除染作業などテクニカルな対策を先行しなければならないことは分かるが、どのような産業を打ち立てることによって東北地方の再生を果たすのか、国全体としての構想力が欠如している。

最大の原因は、政治ガバナンスの機能不全だ。周知のとおり、再生のグランドデザインはいたるところから提案されているし、政府も耳を傾けている。しかし、政治の役割は傾聴ではなく、「軽重判断」することだ。多くの主張をまんべんなく取り入れるのではなく、それらの主張に対して「価値の権威的配分」をすることである。「自分はこう判断するからついてきてくれ」というのが政治家の役割だ。それができていないところに、日本の問題点がある。

私は、まず政治家が腹を据えて、日本をもう一度つくり変えるぐらいの気概を示すべきだと思う。その覚悟を持たなければ、この国の混迷と衰退はますます進むばかりだ。

<アジアのダイナミズムを取り込め>

では、グランドデザインはどうあるべきか。私論を具体的に述べたい。ちなみに、私は、復旧や復興ではなく、「創生」という基軸で議論すべきだと言い続けている。復旧や復興ならば、日本は過去に何度も成し遂げてきた。しかし、今回の震災はその被害の甚大さや広域性もさることながら原発事故という未曽有の危機に発展した。また、日本が高齢化や財政悪化など様々な問題を抱えてパラダイムシフトを迫られていたときに起きた。「創生」という言葉には、復興以上のことが必要だという思いを込めた。

まず私は、アジアのダイナミズムを取り込むことを提言したい。太平洋側の東北部で堤防をより強靭にして、なおかつ街並みを再建すれば、ハード面ではなにやら復興できているように見えるだろうが、実はそれだけでは不十分だ。重要なことは、太平洋側と日本海側を相関させた東北一帯(東北圏)でどういう地域にするのかという構想力である。

なぜこう言うかというと、日本の貿易構造は震災前から激変していて、対米貿易の比重が下がり、対アジア貿易が50%を超すまでになっている。宮城県の工場経営者にとって重要な港は仙台港というよりも、高速道路に乗って1時間強で着く山形県の酒田港なのだ。この文脈で言えば、例えば、宮城県には山形県、岩手県には秋田県、福島県には新潟県といった組み合わせで、港湾や空港、道路そのほかすべてのインフラを相関させることが重要になる。それができれば、製造業のみならず、観光業を含めたサービス業全般はアジアのダイナミズムを取り込むことが可能になる。

繰り返し申し上げるが、大事なのは、パラダイムシフトを理解した上でのトータルな構想力である。たとえば、昔からある首都機能移転の議論も、ITが普及し環境が主要な政策テーマとなった今では、20年前とは違うパラダイムで進めるべきだ。移転ではなく各地に分散すればよいし、かつ分散先では環境や自然を意識したまったく新しいコンセプトの都市づくりを目指すべきだろう。たとえば地盤が強いことで知られる那須塩原あたりに、首都機能の一部を移すならば、5階建て以上のビルの建設は禁止し、徹底的に景観と環境に配慮した「(緑の)杜に沈む都」をつくることも一計だろう。こうした視野の広さが、21世紀の日本のポテンシャルを世界に示すためには欠かせない。

日本に配られたカードは、実はさほど悪いものではない。楽観でも、ハッタリでもない。昨年11月、韓国ソウルで開かれた「アジア未来フォーラム」に参加し、欧米の投資家やエコノミストらと意見を交わす機会があったが、そこでハッとさせられたことがあった。

3.11後の世界経済の中で、なぜ円ばかりが買われるのかという議論は多いが、そのほとんどは対ユーロや対ドルでの話だ。しかし、その場で話題になったのは、「なぜ円は強く韓国のウォンは弱いのか」という比較論だった。

欧米の参加者たちは、こう言っていた。韓国企業は確かに様々な分野で日本企業を圧倒しているが、一歩引いて客観的に見れば、その技術は半導体にせよ液晶にせよ自動車にせよ日本の技術をベースにしてそれを戦略的に巧みに活用・発展させているにすぎない――。「韓国は日本を中心とした東アジアのネットワークの中にある」というわけだ。

アジアのネットワークといえば、香港や台湾の資本や技術を取り込み、シンガポールをASEANへのベースキャンプとしている中国が中心に位置しているように思えるが、欧米人から見れば、東アジアにも日本を中心とするネットワークが存在する。その中には、日本のOEMの島という顔を持つ台湾、あるいは日本の技術を活用しているという面での中国も含まれる。R&Dセンターとしての日本のポテンシャルの高さに改めて気づかされた。アジアにおける日本のこの立ち位置をきちんと認識すれば、アジアのダイナミズムを取り込むことのメリットも理解してもらえよう。

<フランス型国営体制で「開かれた原子力」を目指せ>

最後に、エネルギー問題について、私論を述べておきたい。結論から言えば、原発は国家がより責任を持った体制でなければ持続できないと私は考えている。つまり現在のような国策民営体制ではなく、フランスのような国営企業による原発維持体制だ。

今回の福島原発事故以降、一部には賠償リスクも補償リスクも何もかも東電に覆いかぶせてしまおうという議論があるが、そんなことをすれば、永遠に社員の給与をカットし、役員賞与を支払わず、ただ賠償のためだけに会社を存続させていくことになる。それで、社員一人ひとりの現場力は維持できるのか。そのような企業に原発を任せていくことができるだろうか。

ならば、原子力をやめてしまえという声もあるかもしれない。確かに、生態系のシステムから生まれた化石燃料とは違い、原子力は「神をも恐れぬ技」かもしれない。手を引くべきだと主張している人を一方的に間違っているとは言い切れない。

ただ、いったん手を出してしまった以上、現実問題として、途中で放り出すことは容易ではない。そもそも日本が手を引いたところで、世界、特にアジアは原発が林立する時代を迎えようとしている。日本人は、このようなときだからこそ、自分の国が原子力の歴史の中でいかに特殊な立場にあるのかを考えるべきだ。

日本を除く原発推進国は、すべて軍事核を持ち、同時に平和利用を進めている。日本だけが非核国として平和利用に徹しつつ原子力技術を維持してきた。今放り出してしまうことは、国際社会において、平和利用だけの観点からこの分野で発言できる国が消えることを意味する。エネルギーは甘い世界ではなく、技術を放棄した国に発言力はない。日本はむしろ今まで築いた原子力関連の技術蓄積を維持し、かつ原発事故を通じて得た教訓をきちんと知識化し、世界に生かしてもらう方向を歩むべきなのではないか。

国営原発運営会社の経営陣には、国際原子力機関(IAEA)やフランスの原子力大手アレバの元トップを招へいするのも一案だろう。「開かれた原子力」こそ、日本が原子力の技術蓄積と人材育成を続ける唯一の道である。

(3月1日 ロイター)

*本コラムは、個人的見解に基づいています。

*本コラムは、ロイター日本語ニュースサイトの「日本再生への提言」特集に掲載されたものです。(here

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