March 2, 2012 / 2:05 AM / 7 years ago

財政再建を急ぎ、若者の政治参加を促せ=井堀利宏教授

「財政再建は増税だけでは実現しない。歳出の削減、特に社会保障の抑制が進んでいないことは大きな問題だ」と東京大学大学院経済学研究科の井堀利宏教授は警鐘を鳴らす。また、高齢化に伴う既得権の固定化を問題視し、世代別選挙区導入などを通じて若者の政治参加を促す必要があると語る。

井堀利宏氏は、東京大学大学院経済学研究科教授。現在の研究分野は、財政学、公共経済学。ジョンズ・ホプキンス大学大学院経済学研究科博士課程修了。

同氏の提言は以下の通り。

●復興期のモラルハザードを避けよ

昨年11月30日に、震災復興費用のための臨時増税を盛り込んだ復興財源確保法など復興関連法が成立した。震災の財政的コストに関しては当初5年程度で手当てすることが議論されていたが、時間軸を20年以上に先延ばししたことは正しい。突発的に発生した大きなショックに対して、長い期間で少しずつ返済していくという姿勢は、災害の財源手当てのスキームとしては、合理的なかたちに落ち着いたと評価できる。

復旧・復興対策のための必要な財源が政府の見立てどおり20兆円前後であり、通常とは別枠の管理で20年以上をかけて財源を手当てしていくならば、財政再建を大きく脅かすほどのコストにはならないだろう。

ただ、問題は必要財源が本当に20兆円程度で済むのかということだ。ひとつには福島第1原子力発電所事故に絡む賠償コストがある。それに加えて、被災地からの政治的な要求を政府がのむかたちで、支出がどんどん膨らんでいく恐れがある。

たとえば、津波で流された住宅の復旧・再建、あるいは高台移転の費用などの中で、本来は自己負担で想定しなければならない部分についても、公的支援を求める声が高まっている。事後的に大変であるのは分かるが、災害後の公的支援の大原則は、私有財産の非保障だ。自己資金能力を超えたところは、本来は地震保険で賄うべきものである。

阪神・淡路大震災後もインフラは国や自治体の資金で再整備したが、緊急避難時の仮住居のコストやマイホームの二重ローンに対する手当て以外は、被災者の私有財産の再整備そのものに直接公的支援を投じることはなかった。この原則を政府が守れないと、深刻なモラルハザードを引き起こす可能性がある。

むろん、公的な防災費用は今後、津波対策を中心にある程度膨らむことは避けられないが、原理原則に反して、次々と手当てしていけば、財政的に日本はさらに追い詰められていく。民主党政権はそもそも無駄な公共事業は見直すと言っていたはずだ。被災地は高齢化が進み、人口減少が予想される。原状回復ではなく、効率化の視点で復興事業を実施すべきだ。今一度その原点に立ち返り、モラルハザードだけは避けてほしい。

●社会保障にメスを入れ、歳出の削減を急げ

政府が「税と社会保障の一体改革」案で段階的な消費増税を打ち出したことについては、私は素直に評価したい。2013年に8%、15年に10%というスケジュールはやや悠長に映るが、増税に伴う経済コストを抑える上で、課税ベースが広い消費税を引き上げることは合理的な判断であるし、財政再建には大きな前進だ。

もっとも、財政再建は増税だけでは実現しない。歳出の削減、特に社会保障の抑制が進んでいないことは大きな問題である。政府は診療報酬も引き上げた。デフレだったら本来は下げるべきものだ。既得権への切り込みがうまくいっていない証左だ。

やるべきことは明白だろう。まず社会保障給付の抑制を図ることだ。政府は、消費税率を10%に引き上げた際の増税分5%の使い道について、すべて社会保障に充てるとし、その内訳として、機能強化すなわち制度の拡充に1%、現制度の安定化に4%を充てる見解を示しているが、前者は歳出を増やすことにつながるし、後者は今の自然増の部分に対して財源を手当てすることを意味するので、歳出が増える分だけ増税しているに等しい行為となる。

本来は自然増を抑制し、将来の財政的な余裕を作っておくことこそが必要な措置であるはずだ。社会保障制度に切り込んで、そこで黒字を作り、将来に備えるぐらいのことを考えないと、20─30年後の社会保障は本当に大変なことになってしまう。ただでさえ、日本はこれからも自然災害に見舞われる可能性が高い国だ。公債残高が対GDPで250%を超えようかという勢いで増え続けるトレンドを変えられないうちに、次の大災害に見舞われたら、どうするのか。

公務員の給与も減らして当然だろう。たとえば、地方公務員の年間給与総額はざっと20兆円。2割減らすだけで、消費税を数パーセント上げるのと同じ金額になる。次なるネガティブショックを想定し、歳出面からも早期に財政再建を進めなければならない。

●世代別選挙区制度で若い人の意見を政治に反映せよ

日本において、既得権が固定化してしまう大きな要因のひとつは、若い人たちの意見が政治に反映されないことにある。若い人たちの低い投票率は彼らの政治への関心の薄さにも起因するが、少子高齢化が進む中で何も対策を打たなければ、政治はますます高齢者の方ばかりを向いてしまう。では、どうすればこの流れを変えられるのか。私は以前より世代別の選挙区制度を提唱している。

たとえば、選挙区を、20─30歳代の青年区、40─50歳代の中年区、60歳代以上の老年区に分ける。これならば、たとえ若年層の投票率が低いままだとしても、若年層の利害をきちんと代表する政治家が量的に輩出される。青年区での当選を目指し、若年層向けの政策を打ち出す候補者も出てくるはずだ。

選挙区の区割りは、第三者機関が機械的に、しかも選挙のたびごとに決定するシステムが良いだろう。現行の小選挙区の大きな欠陥は、地域的に勝者が固定されると、なかなか新人が入ってこられない点にある。しかし、選挙区自体が地域と年齢で入れ替わるならば、現職の既得権化を阻みやすくなる。ひいては、政治と結びついたさまざまな分野における既得権の切り崩しにつながるはずだ。

(3月2日 ロイター)

(タグ:日本再生の提言 Politics1 Fiscalpolicy1)

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below