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増税の前に日本がやるべきこと=リチャード・カッツ氏
2012年4月2日 / 04:23 / 6年後

増税の前に日本がやるべきこと=リチャード・カッツ氏

「最終的に日本は増税しなければならない。だが、それは消費税においてではなく、かつその前にやるべきことがある」と米国でジャパンウォッチャーとして知られるリチャード・カッツ氏(オリエンタル・エコノミスト・アラート代表)は説く。

リチャード・カッツ氏は、オリエンタル・エコノミスト・レポート&アラート代表(編集長)。ニューヨーク州立大学ストーニブルック校の客員講師(経済学)、ニューヨーク大学スターンビジネススクール助教授、米外交問題協議会特別委員会委員などを歴任し、現職。日本に関する著作が多く、日米関係や日本の金融危機について米国議会で証言も。

全3項目の提言は以下の通り。

<国民番号制度の導入、農地優遇税制の廃止>

消費税の増税は時期的に間違っている。日本経済の回復力はいまだ脆弱だ。今、大きな増税をすれば、(3%から5%への消費税率引き上げなどを実施したことで)深刻な不況を招いた1997年と同じ過ちを繰り返すことになるだろう。

野田佳彦首相は、日本が次のギリシャとならないよう早急に増税しなくてはならないと主張しているが、それは間違いだ。危機にひんしている全ての国は、財政赤字だけでなく、慢性的な経常収支の赤字や巨額の累積対外債務を抱えており、資本逃避が起きやすくなっている。経常収支が黒字であるドイツやベルギー、オーストリアなどの欧州諸国は、危機に陥っている国々と同じくらい大きな借金を抱えているが、危機には至っていない。

日本は2011年、主に東日本大震災やタイの洪水の長引く影響で貿易赤字に転落したが、それでも海外に保有する資産から得る収益のおかげで巨額の経常黒字を維持した。日本はおそらく2020年までに慢性的な貿易赤字国になる可能性が高いが、慢性的な経常赤字国になるまでには少なくとも10年の時間的猶予があるだろう。仮に慢性的な経常赤字国になったとしても、資本逃避リスクが高まった際には、海外に積み上げた資産が緩衝材の役割を果たすと考えられる。

もちろん、日本は最終的に増税しなくてはならない。だが、それは消費税においてではない。なぜなら、日本の大きな問題の一つとして、家計所得が伸びず、個人消費が下降している点が挙げられるからだ。

もっと良い方法がある。第一に、他の先進国のように日本も国民番号制度を導入することだ。国民一人ひとりにIDがあれば、所得の過少申告による脱税などを減らすことができる。それだけで消費税率を数%引き上げるのと同等の増収をもたらすとの試算もある。

第二に、都市部にある実際には「農地」としてほとんど使われていない土地への税制優遇措置をやめることだ。東京都、大阪府、名古屋市周辺の大都市圏内の非森林地に占める「農地」の割合は、1990年の約34%から2002年の約30%にわずかに減少したにすぎない。一方で、住宅や店舗、オフィスなどに使用される土地の割合は同期間中ほとんど増えていない。

不当な税制優遇措置をやめることによる最大の恩恵は、副次的な効果によってもたらされるだろう。税制改革は土地使用に関する法律の変更を伴うので、兼業農家が「農地」以外への転用を望む人や法人に土地を売却しやすくなる。オフィスや住宅、工場、店舗用に土地が安く豊富に供給されるようになるだろう。結果として、GDPや税収の増加につながっていくはずだ。

一方で、不動産売却時の譲渡所得税は下げて、その一方で単に土地を遊ばせている場合は税率を上げるべきだ。このようにすれば、土地の開発を促すインセンティブとなるだろう。

また、増税は経済回復の状態を見極めて行うべきだ。

<競争政策の強化で生産性向上を>

改めて指摘するまでもないが、日本が抱えるほぼすべての問題は、実質経済成長率がもっと高ければ容易に取り組めるようになる。

成長なくして解決できる問題はほとんどない。労働力が減少した場合、成長するためには労働生産性の向上、すなわち労働者1人当たりのGDPを向上させなければならない。

実際、大半の業種で、日本は世界基準から遅れをとっている。製造業でさえも、日本の生産性は米国の3分の2にとどまっている。日本が勝っていると言えるのは、自動車などの産業に限られる。日本が劣っている業種の生産性を、20年かけて世界基準にまで高めるだけで、実質経済成長率が1─2%足されることになるだろう。

ポイントはさらなる競争だ。もっと競争がなければ、競争力はなくなってしまう。しかし非常に多くの業種で、弱小企業を守る規制や非公式な(しばしば違法な)なれ合いの協定が競争を抑制している。

この対策の一つとして、独占禁止法の強化が挙げられる。また、輸入を増やし、海外からの直接投資をもっと呼び込むことで、海外勢と競争していくのも一つの手だ。日本の車が米国に進出したことで、ビッグスリーが改善を迫られたように、海外勢との競争が日本企業の体質に変化をもたらすだろう。

ソニー(6758.T)のテレビ事業の損失が年々膨らんでいき、それでも企業方針を変えなかったのはショックだった。米アップル(AAPL.O)や韓国サムスン電子(005930.KS)の攻勢は、最終的には日本の消費者と電機業界にとってプラスになるはずだ。

最後に、敗者3人が集まれば勝者になるという理論の下、斜陽産業の再編を進めるべきだ。

<創造的破壊を容易にする労働市場改革>

生産性の向上と経済成長にとって鍵となるのは「創造的破壊」だ。ただ人員削減や企業の清算といった破壊が行き過ぎると人々がそれに耐えきれなくなるが、その一方で、破壊がなければ創造も期待できない。

日本が抱える問題は、雇用そのものがセーフティーネットになっているという点だ。労働者が別の新たな仕事へと移れるような、政府主導のセーフティーネットはほとんどない。経済が上向き、人口が増加していた時代に成長を支えてきた終身雇用や年功序列といった制度は、今の人口減少の時代においては有害なものになってしまった。

しかし、労働市場に柔軟性を持たせることが、非正規労働者に見られるような賃金カットの理由になってはいけない。労働者の賃金が下がり続けているのに、企業は自社製品を販売していけるだろうか。隣同士で同じ仕事をしているのに、非正規労働者だという理由で時給が安いということはあってはならない。

また、「失業=非在職期間」という構図を打ち崩し、年金制度を雇用主と切り離して適用するべきである。スウェーデンやデンマークと同じように、労働者が別の仕事や職場に移っていけるような職業訓練に予算を割く必要がある。企業にも栄枯盛衰があっていいし、「自然淘汰(とうた)」によって経済が活性化していくという仕組みが必要だ。

政府は、特定の企業の特定の仕事を保護するのではなく、別の仕事や企業に移ろうとする労働者個人を守らねばならない。これによって日本は、成長を促進させる「創造的破壊」を政治的・経済的に安定して実施できる国家となり得るのである。

(4月2日 ロイター)

(タグ:日本再生への提言 Growth1 Fiscalpolicy1)

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